未来に。


また一人、人を殺しました。

 

これは仕事なのです。

殺した相手は、いずれも、この世に生きていれば多くの人に仇をなす存在。

ぼくのしていることは、善行なのです。

そう教育をうけました。

周りの人も、ぼくの戦果を誉めてくれます。

喜ばしいことです。

ぼくの名前は里の外にも知られるようになりました。

とても栄誉なことです。

 

なのに。

 

それなのに。

こんなに胸が痛むのは。

あなたがぼくの前に現れるからなのでしょうか。

 

お母さん。

 

本当のところ、あなたがぼくの母かどうかは分かりません。

ぼくは夢が醒めたあと、あなたの顔を思い出すことはできないのです。

だけれど、ぼくの中の好意を全て具体化した、温かいものが、あなたです。

だから、ぼくはあなたを母と呼びます。

 

ぼくが仕事を終えた日の夜、決まって見る夢は、あなたの夢です。

お母さんはただ、ぼくを静かに見詰めています。

その視線は、悲しげであり、咎めるようであり、労わるようであり、また、それらのものとは全く別なもののようでもあります。

ぼくが何を言っても、お母さんからの応えはありません。

また、その身に触れることも叶いません。

ただ、立ち尽くすことしか出来ないぼくを、お母さんはじっと見詰めているのです。

 

こう言うと、ぼくがお母さんを恨んでいるのかと思われるかもしれませんが、違うのです。

ぼくが生きているのは、あなたがいるからです。

 

仕事をこなすうちに、ぼくの仲間達は、皆狂っていきました。

段々と感情が麻痺し、殺すことに、慣れてしまう。

それまでの自分ではない存在に、内側から変化していく。

それは、死ぬこと以上に、怖いことだと思います。

 

夢に出てくるお母さんは、ぼくに警告をしているかのようでした。

ぼくが決して人の心を手放さないように。

人を殺めることに罪悪を感じている間は、ぼくは人でいることができました。

 

 

ぼくがそれまでいた部署から移動すると決めた日、お母さんが夢に現れました。

仕事を終えた日でもないのに。

こんなことは、初めてです。

 

戸惑っているぼくを見て、お母さんが微笑みました。

初めての、笑顔。

そして、さらに驚く出来事がおきました。

遠くで見詰めているだけだったお母さんが、ぼくに触れるか触れないかという距離まで歩み寄って来たのです。

甘いハニーサックルの香りが、ぼくの鼻腔をくすぐります。

 

『やっと会えるね』

 

近づいた事でようやくはっきりとする、その面影。

年の頃はぼくと同じくらいでしょうか。

腰までとどく長くて艶やかな桜色の髪と、無垢な翡翠の瞳に、ぼくの瞳は奪われました。

 

それ以来あなたは夢に出てくることはなくなりました。

でも、がっかりすることはありません。

お母さんはおっしゃったのですから。

『会える』と。

 

 

「私、カカシ先生のお母さんになりたかった」
「は?」
突然突拍子もないことを言い出したサクラを、カカシは驚いた顔で見る。
自分の生い立ちを初めて語ったカカシに、何か感ずるところがあったのか、サクラは強く主張した。
「私がカカシ先生のお母さんなら、先生が泣かないですむように守ってあげてたわ」
「俺は泣いたことはないよ」
口の端を綻ばせて言うカカシを、サクラはきつく睨んだ。
「だから、辛いんでしょ」

カカシはサクラを呆気に取られたように見る。
「・・・・サクラがお母さんか」
困惑気味だったカカシは、サクラの真剣そのものの顔を見て嬉しそうに笑った。
「それもいいかもしれないね」
サクラを最初に見た時、カカシは何故か懐かしいと感じた。
そのわけが、何となく、分かったような気がした。

 

 

お母さんの夢を見なくなった理由。

それは、きっと夢でなくても会えるようになったからです。

それまでぼくを支えてくれていた存在が、今ではすぐ間近、手のとどく場所にいます。

 

ああ。

お母さん。

辛いことを、辛いと思うことさえできない人生でした。

ようやく泣くことができそうです。


あとがき??
よく分かりません。桃川春日子先生の漫画を読んでいたら突然書きたくなった。はて。
サクラの強い思いが過去に届いたのかもしれません。

表に置いてもよかったのですが、あまりに理解不能な話のためにこの場所に置くことにしました。
何なんでしょう。本当に。
無駄に改行が多い話ってのをやってみたかったのだろうか。


暗い部屋に戻る