crime doll T


何の味気もない、真っ白な壁が続く長い廊下を、二人の男が肩を並べて歩いている。

「嫌だよ、子供のお守りなんてーー」
「そう言わないでくれよ。暇そうなのが、お前しかいなかったんだから」
両手を頭の後ろで組んた男が、不満顔でぶつくさと文句を続ける。
「だって、俺、一ヶ月の長期休暇取るって申請してあったじゃないか。ちゃんと受理したって言ったくせに、何で仕事入れるんだよ。せっかく彼女連れてどっか旅行しようと思ってたのに、中止だなんて言ったら今度こそ絶縁状叩きつけられるぞ。どう責任取ってくれるんだ。しかも、任務の内容が子供のお守り!冗談じゃないっての」
一気に捲し立てると、隣りにいる男を睨むようにして見る。
睨まれている彼はため息をつきながら言った。

「だから、お前しか空いてる人間がいなかったんだって。今回の任務はAの中でも特A級任務だからな。上忍じゃないと困る」
「子供の世話とA級任務と、どう繋がるんだよ」
まだ口を尖らせている男に、彼は神妙な顔つきで告げた。
「その子は、ジャック・ザ・リッパーの顔を見ているんだよ」
直後、不平をもらしていた男の足がぴたりと止まる。
数歩行き過ぎたもう片方の男が、振り向いて彼を見詰めた。
「そう。お前達の班が、血眼になって捜してるA級殺人犯だ、カカシ」

 

現在、木ノ葉の里で横行している切り裂き事件。
被害者は皆、身体を刃物でメッタ刺しにされ発見される。
原形をとどめない肉塊となって。
昼夜問わず現れる犯人に、木ノ葉の住人は一人でおちおち外出もままならない。
しかも、これほど大々的な事件だというのに、犯人の顔を見たものは一人もいず、手がかり一つない。
全く捜査が行き詰まっている状況だった。

そんな中、犯人に対峙して、奇跡的に怪我一つ無く生き延びた、唯一の生き証人。

子供は今、重要参考人として木ノ葉の里の中枢とも言える建物に隔離されている。
子供にとって、その場所が一番安全な場所だ。
顔を見た生存者がいることを知れば、犯人が何らかの手出しをしてくるかもしれない。

 

「やる気になってくれて良かったよ」
「しょーがないだろ」
笑顔の彼に、カカシはがりがりと頭をかく。
二人の歩いていた廊下の突き当たり部分。
彼らはすでに子供がいるという部屋の前まで来ている。

ドアノブに手をかけると、彼はカカシを見詰めて静かに言った。
「これが最後のチャンスなんだ」
どういう意味だよ。
カカシがそう訊ねるまえに、彼は扉を開いた。

 

だだっ広い部屋に、ぼさぼさの桃色の髪の幼児が地べたにぽつんと座っている。
擦り切れた服には、点々と赤い血の跡。
近くまでやってきたカカシがその顔をのぞくと、俯いている子供には表情がまるでない。
扉が開いて人が入ってきたということにも、まるで注意を向けていなかった。

「・・・何だ、これは」
カカシは唖然とした表情で呟いた。
「何がだ」
「何がって、どうしてこの子供をこんな状態で一人にしてるんだ。もっとこう、いろいろ・・・」
「仕方がないんだよ。事件にあってからずっとこんな調子で動かないんだ。でも、他人が触れようとすると大暴れして、ここに運ぶのだって、一苦労だったんだから」
言われて、カカシは子供に向けようとしていた手をすくめる。
「口もきくことが出来ないらしい。医者は心的ショックが強すぎたせいだって言っていたけどね」

カカシが試しに手のひらを子供の眼前にちらつかせたが、よけようとすらしない。
全く反応のない子供はまるで人形のようだ。
呼吸をしているのが不思議なように思える。

「とにかく、事件解決には、絶対に彼女の証言がいるんだ。お前が何とか犯人について聞き出してくれ」
非情なようだが、今、こうしている間にも誰かが犯人の餌食になっているかもしれない。
もう子供の事情を考慮している猶予はないのだ。
「これは・・・」
カカシは頭を抱えてうずくまる。
「今までうけた依頼の中でも、一番ハードな任務だなぁ」
カカシは子供と同じ姿勢で、途方にくれたように唸り声をあげた。

ちらりと子供に視線を向けても、当然のように無反応。
子供のガラス球のような碧の瞳は、目の前にいるカカシを通り抜け、どこか遠くを見詰めているようだった。


あとがき??
東山むつき先生の『炎人』「crime doll(クライムドール)」を読んで、唐突に書きたくなった話。
結構内容そのまんま。
一種、パラレルですね。
・・・・なんか、すっっごく暗くなりそうなんですけど。(すでに?)
子供は一応サクラ、なんですけど・・・これをカカサクと言っていいものか。


暗い部屋に戻る