crime doll U
木ノ下サクラ。
4歳2ヶ月。
木ノ葉の里の中流家庭、木ノ下家の長女。
両親を無差別殺人犯によって殺害される。
他、特筆すべき事項なし。
子供についての調書を眺めながら、カカシは首を傾げる。
「・・・何か、変だよな」
「何がだ」
カカシの呟きに、隣りにいる男が反応した。
カカシに任務を斡旋するエージェント的役割をしている彼は、サギリという名の中忍だ。
カカシとは階級も性格も違うが何故か馬が合うらしく、無二の親友と呼べる仲だった。
彼らは今、サクラのいる部屋の隣りにある休憩室で、向かい合わせに座りながら語り合っている。「あんな風に動かなくなったのは切り裂き魔のせいだとしても、それだけであそこまで対人恐怖症になるものかね」
「さぁね」
サギリはカカシの言ったことにさほど興味を示さず、手にしたコップを口につける。
「それより、何か喋ったか」
「全然駄目」
「今、彼女は?」
「一応ベッドに横になってるけど、眠りが浅いみたいですぐ目を覚ますよ。このままじゃ不眠症で神経の方が根を上げるな」
カカシは自分の言葉に気が滅入ったのか、ため息をついて額を押さえる。
ここ数日、あがらない成果にカカシの顔にも疲れが見える。
普段こなしている任務とは、また違った疲労だ。
「お前も少し横になった方が良いんじゃないか。0時以降は睡眠を取るように言っただろう」
サギリはカカシを気遣い、心配そうに彼の肩を叩いた。サギリは定期的に現れ、サクラの様子を聞いて帰っていく。
そして、その報告書は上司に提出される。
状況は全く芳しくない。
このままサクラに変化の兆しがないようなら、上層部は薬物投与に踏み切るだろう。
サギリが最初にカカシに対して「最後のチャンス」と言ったのは、このことだ。薬を投与し、すぐに効果が表れれば良いが、そうでなければ日々薬の強度は増されていく。
子供の身体が、いつまでもつのか。
犯人について語るのが先か、廃人になるのが先か。
どちらにせよ、そうした薬が将来のある子供の身体にいい影響を与えるはずがない。重苦しい空気に、サギリはコップの中身をいっきに飲み干す。
俯いているカカシから目線をそらすと、サギリの視界にテーブルの隅に置かれた一冊の帳面が入った。
手を伸ばして引き寄せると、サギリは何とはなしに、ぱらぱらとページをめくる。
『サクラ観察日記』
1日目。玩具を大量に与える。失敗。
2日目。甘いお菓子を大量に与える。失敗。
3日目。アニメ番組の放映を見せる。失敗。
4日目。ギャグをひたすら連発する。失敗。
5日目。手品を披露する。失敗。
「ブッ。何だこれは」
吹き出したサギリに気付くと、カカシは素早く帳面を奪い取る。
「何だよ。勝手に見るなよ!」
「悪い。でも、結構涙ぐましい努力してたんだなぁ」
特に4日目の部分がツボに入ったらしく、サギリの笑いは止まらない。
むせて気持ち悪くなるほど爆笑するサギリを横目に、カカシは面白くなさそうに目を細める。
「・・・・三秒以内に笑いやまなかったら、殺るぞ」
どすのきいた低い声に、笑いはぴたりとおさまった。「それで、頼まれてた件だけど」
何事もなかったかのように会話を続けるサギリは、長い付き合いのおかげか、カカシの扱いかたをよく分かっていた。
「明日にでも手に入りそうだよ。でも、あんなものが本当に役に立つのか」
「まぁ、見てろって」
カカシはにやりと笑う。
「これで明日にはあの子が笑顔を見せてくれるよ」カカシの言葉にサギリはがくりとつんのめった。
「・・・主旨が変わってないか。問題は犯人の顔なんだけど」
「いや、俺は最初からそのつもりだったし」
カカシはけろりとした顔で言った。
「あんだけ可愛い顔してるんだからさ、笑うともっと可愛いと思うんだよ。あれは10年もしたらかなりの美少女になるねぇ」したり顔のカカシにサギリは頭を抱える。
「お前、分かってるのか。任務の内容は・・・」
「分かってるって。大丈夫」
カカシはサギリの言葉を皆まで言わせなかった。
「だってさぁ、被害者の心を救えなきゃ、犯人捕まえても全然充分じゃないよね」
サギリは大きく目を見開く。
驚いた表情のまま固まっているサギリに、カカシはにっこりと微笑んだ。
「そう思うだろ」
扉の前までくると、カカシは一つ深呼吸し、気合をいれてドアノブを引く。
「おはようー!!今日もいい天気だぞ」
「・・・・」
無言の返事。
いつものことだ。
「今日は、サクラにいいもの持ってきたぞー。喜んでくれると嬉しいけどな」
カカシは気にせず喋りながらサクラの元まで歩いてくる。部屋にはカカシがサクラの気を引こうとして失敗した物の残骸が転がっていた。
ぬいぐるみやTVや各種ゲーム機器。
その中心に、サクラは昨日と変わらない体勢で座っている。
サクラの足元には食器のトレーが置いてあった。
「サクラ、ご飯全部食べたんだな。偉いぞ」
「・・・・」どうやら人がいないとき、お腹が減ると食物に手がのびるらしい。
それでもかなり少量しか口にしなかったのだが、ここ数日は全てをたいらげている。
反応は無くても聞こえていることは確かだ。
カカシはこの部屋にいるときはたえずサクラに話し掛けることにしている。
食事のことは、たぶんその成果なのだとカカシは喜ばしく思っていた。「ほら、サクラ。見て驚くなよ」
サクラの前でかがむと、カカシは持参した鞄を開く。
中から飛び出してきたのは、小さな仔猫。
たいした感心を示していなかったサクラの表情が、見る間に輝く。
「サクラ、動物好きだろ」
自分の膝元に寄ってきた仔猫に手を伸ばそうとするサクラに、カカシは満足げに笑った。カカシがハンカチから鳩を出すというオーソドックスな手品をしたとき、サクラが唯一と思える反応をした。
それを見逃さず、カカシはサギリに仔猫の調達を頼んだのだ。
そしてそれは見事に功を奏した。
下手な手品でも、やったかいがあるというものだ。
サクラは逃げる仔猫を壁際まで追い詰め、ようやくその身体を腕に抱くことに成功した。「ほら、その猫も外に行きたがってるよ。サクラも、外に出てみない?」
まずは外に連れ出し、サクラを開放的な気持ちにするのがカカシの目的だ。
仔猫はカカシの言葉どおり、窓枠のガラスをカリカリと引っかいている。
切なげな声を出す仔猫は、外の世界へ出ることをしきりにねだっているようだ。
仔猫を見詰めるサクラの唇が、僅かに震える。
「・・・・」
「え、何?」
蚊の鳴くよう小さな声に、カカシは耳に手をあてて大きく聞き返す。
カカシの呼びかけに応え、サクラは再び言葉を発した。
「・・・・外・・・駄目」
いささかたどたどしいが、初めて聞くサクラの声。
会話らしい会話が出来たことに喜びを感じつつ、カカシはサクラの言葉に眉をひそめる。
「何で」
「・・・見張ってるから」喋ってはいるものの、サクラの瞳は相変わらず感情の入らない、虚ろなもの。
カカシはサクラの意識の混濁を疑い、静かに訊ねる。
「・・・何だって?」
ぼそぼそと聞き取りにくい、くぐもった声を出していたサクラは、はっきりと口を開く。
だが、それはカカシが問うた内容の答えではなかった。「私が殺したの」
呟きと同時に、部屋に仔猫の大きな鳴き声が響く。
サクラが力を込めすぎたのだろう。
サクラの腕の中で、仔猫がむずがるように暴れだす。サクラの手にできる、いく筋もの仔猫の爪の引っかき傷。
赤い血が滲んでも、サクラは少しも痛がる気配がない。
仔猫を離そうともしない。一連の動作は、まるで彼女の言葉を肯定するかのように、不吉な様相をはらんでいた。
仔猫を助けることも忘れ、カカシは棒を飲んだように立ち尽くす。
サクラはもがき続ける仔猫を見詰め、抑揚のない声で淡々と言葉を続けた。
「パパとママ。殺したのは、私」
舌足らずの幼い声にそぐわない、重い告白だった。
あとがき??
この時点で、サクラの名字は春野ではありません。
木ノ下サクラ。分かる人は分かるでしょう。
「桜の木の下には何がある?」ってことで、あまり縁起の良い名前ではないのです。それにしても、カカサクになってないーー!!済みません。(汗)
大体、サクラの年齢が低いので、どこまでやってOKなのか基準が分からない。(何をする気なのか・・・)
Vでは何らかのアクションがあるかと。(←?)しかし、パラレルは書くのに体力がいる。そして時間がかかる。他の人は違うのかしら。
最初に思ってたのと、微妙に路線が変わってきて、どうしようかと思案中。
カカサクでアレをやりたかっただけなのに。ここまで話が長くなるとは。(悩)・・・・楽しかったです。ええ。とっても。かったと過去形で言ったのは、ここまでしか内容考えてないからです。そんな、無責任な!
どうも、続きものを書くと1を書いたあたりで満足しちゃって駄目だわ。
精進してきます。果たして間に合うか。(閉鎖、するかもなので)