crime doll V
「これは、驚いたな・・・」
呟いたあと、サギリは暫らくの間絶句する。
「だろ」
サギリが確認したのを見て、カカシは捲くっていたサクラの服の袖口を元に戻した。
「他にも、服で見えないところはあざだらけ。たぶんサクラの口数が少ないのは元々だったんだよ」
「いや、そうじゃなくて」
サギリは慌ててカカシの言葉を遮る。「随分懐いてるみたいじゃないか」
「ああ」
カカシは、今気付いた、というように膝の上に座るサクラの頭をなでる。
「最初に喋ってくれれば、あとは簡単だったよ」
サクラは大人しくカカシのされるがままだ。
サギリはサクラの変貌をまだ信じることができない。「大体、服に隠れてるところまで何で分かったんだ」
「一緒に風呂入ったから」
あっさりと答えるカカシに、サギリは開いた口がふさがらなくなった。
「サクラずっと同じ服だっただろ。これ俺の見立てなんだけど、どうかなぁ」うきうきとしたその声につられて、サギリはサクラの服装に目を走らせる。
サクラの装いはレースの沢山ついた純白の服、髪に大きめのリボンと、かなり少女趣味だ。
だけれど、整った顔立ちのサクラにはよく似合っている。
にっこりと微笑んでくれれば、誰もが思わず抱きしめたくなるような愛らしさだろう。
だが残念なことに、サクラは無表情のままだ。
また、それはそれで大きめのアンティークドールのような魅力を引き出している。「それより、俺の言ったこと本当だったろ」
「・・・そうだな」
何とか表情をきりりと引き締めると、サギリは重々しく頷いた。
古傷と分かる打撲のあとを見せられては、納得せざるえない。
サクラは実の両親から虐待を受けていた。
外の人間には分からないよう、サクラの身体の服で見えにくい部分を強打する悪質なもの。
細い手足を見れば、食事を制限されていたのだと容易に想像できる。
サクラについての調書で目立った記述がないのは、彼女が外界との接触を極端に遮られていたからだ。
これでは人に触れられることを恐れ、対人恐怖症になってしまうのも仕方のないことだった。「それで、事件については」
「・・・うーん」
話題が事件のことになると、カカシは急に歯切れ悪く視線をそらす。
サクラが衝撃的な告白をしたのは、つい先日のことだ。
だが、カカシはそれをサギリに伝えていない。『パパとママ。殺したのは、私』
あの後、カカシは詳しい話を聞き出そうとしたが、サクラは事件について堅く口を閉ざした。
仔猫に対する態度もすぐに柔和なものに変化し、カカシはあの発言を自分の聞き間違いだったのでは、とさえ思っている。
それに、サクラの両親は切り裂き魔に殺されたのだ。
細切れの遺体の状況を見ても、子供のできる芸当ではない。
カカシはいくら虐待を受けていたとはいえ、サクラが両親を殺すような子供には見えなかった。「まぁ、何か事件について喋ったらちゃんと逐一報告するから。今日のところはこれで充分だろ」
「そうだな」
サクラがこうして人に心を開いただけでも、今までに比べればたいした前進だ。
切り裂き魔も最近なりを潜めている。
薬物投与の件にも歯止めが利くことだろう。「じゃあ、また様子見に来るから。お前もちゃんと休養を取れよ」
「はいはい」
サギリは忠告を残し、サクラの部屋をあとにした。
足音が遠ざかるのを待って、カカシはサクラに満面の笑みを向ける。
「今日は何して遊ぼうか」
「・・・・何でも」
「じゃあ、あれね」
カカシはサクラを膝から下ろすと、いそいそと以前部屋に持ち込んだ対戦型のゲーム機械をセッティングする。
はたから見ると、まるでカカシの方がサクラに遊んでもらっているような状況だった。
「・・・この機械、壊れてるんじゃないか」
サクラにゲームで連敗したカカシは、不満そうに機械を叩く。
どうやらサクラは知能指数が並外れて高いらしく、カカシは幼いサクラを相手に一勝もできなかった。
いらだつカカシをよそに、サクラは自分にじゃれついてくる仔猫と一緒に床に寝転がっている。
ゲームに飽きてしまったのか、サクラはカカシの方を見向きもしない。
対して、仔猫にはどこまでも温かい眼差しを向けている。「こいつ、邪魔になってきたな・・・」
カカシが仔猫の首根っこを捕まえて高く持ち上げた。
仔猫は抵抗して手足をばたつかせている。
「どうして?」
不思議そうに言うと、サクラは立ち上がり、カカシの手から仔猫を奪おうと背伸びする。
もちろん背丈の違いから全く届かない。カカシの不機嫌の理由。
サクラが仔猫にかまって、自分の相手をしてくれないから。
だがそうした正直な気持ちを素直に言えるはずがない。結局、仔猫はカカシによって狭いケージに閉じ込められてしまった。
サクラは終始仔猫の様子を気にしていたが、カカシに押し切られてどうにもできない。
「本当に今日だけね。明日には出してあげるのね」
「うん、今日だけだよ。そろそろ事件は解決するだろうし」
カカシの意味深な言葉は、サクラには理解できない。
「どういうこと?」
首を傾げるサクラに笑いかけると、カカシは手にした絵本を掲げた。
「次はこれ、読んであげる」
質問を無視されたサクラは不服そうな顔をしたが、素直にカカシに従った。時刻はとうに夜の10時をすぎている。
2冊目の本を読み終える頃には、サクラは完全に夢の世界に足を踏み入れていた。
サクラを起こさないように寝床まで運ぶと、カカシは寂しげな笑みを浮かべる。
「これで笑ってくれたら最高なんだけどな」
安らかな寝息をたてるサクラの額に軽く唇で触れ、カカシは電気を消して部屋から退散した。
深夜。
カカシが毎夜休憩を取ると決めている0時以降。
サクラの部屋に侵入者が一人、入り込んでいた。
カーテンから差し込む月明かりが、ベッドに横になるサクラの寝顔を照らしている。
望月の頃とは比べ物にならない、満月の明るい光。
部屋の蛍光灯など全く必要なかった。
そろそろとサクラに近づいた侵入者は、手にした刃物をサクラの喉元へと向ける。「そろそろ来る頃だと思ったよ」
ふいに背後から聞こえてきた声に、侵入者は身を震わせた。
素早く振り返ると、カカシが侵入者をひたと見据えている。
カカシは一見隙だらけに見えるが、侵入者はどのように攻撃をしたところで無駄なことを悟っていた。
「サクラが誰かに見張られてるって言ったときから、もしかしたらと思ってた。この部屋に入れるのは俺とお前だけだしな」冷たい声音に観念したのか、侵入者は手にした刃物を床に投げ出す。
「・・・・わざと子供の扱いの下手そうな人間を選んだつもりだったのに、裏目に出たなぁ」
侵入者は視界を遮る前髪をかきあげた。
口の端には薄い笑みをたたえている。
「手が空いてる上忍がお前だけだったことを不運に思うよ」サギリは心底残念そうに呟きをもらした。
あとがき??
バレバレでしたよね。あやしそうな人って、この人しかいないし。(笑)
サギリ(狭霧)はそのまんま、霧。
正体の見えない犯人を示唆していました。
というのはあとからのこじつけで、何故か自然に出てきた名前。はて??書きたかったカカサクのアレというのは、一緒に風呂に入るカカサク。
現場の描写はないですけど。(ご自由にご想像ください(不親切))
この年齢だったら、エロっぽくならなくてOKかと思ったんですけど。・・・駄目?(笑)ところで、なんでいきなりこの二人が仲良くなっているかというと、2と3の間に2.5のエピソードがあったと思ってください。
本筋に関係ないのではぶきました。(^_^;)
本当は3での交流も削除しようと思ったんですけど、このまま終わったらカカサクじゃないような気がしたのでので、ちらっと書いてみたり。
やはり、私には向いていない。らぶらぶ・・・。ハッ!!そういえば、何の考えもなくUのあとがきを書いてしまったんですけど、全国の木ノ下サクラさん、済みません。
同姓同名の方、いらしたでしょうか。オロオロ。この話の中では、ということで。(汗)
そういえば、『魔探偵ロキ』の作者の名前って、木下さくら先生だったわね。
私はロキ×まゆらが好きです。(笑)次で最後。ようやくNARUTOとリンクします。