『K』の事情 3
− 取らないで −
分かってる。
頭の中の声に、サクラは答える。
血を吐くような、悲痛な叫び。
気持ちがぐらついた時に聞こえる、いつもの声。
大丈夫。
まだ、大丈夫。
言い聞かせるように、繰り返す。
それでも、動悸は激しく、胸が苦しい。
− 満足? −
頭にこびり付いて離れない言葉。
限りなく、悲しげな声音。
その瞳には、涙が光っていた。
サクラは頭を振ると、睨むようにして前方を見詰めた。
自分で決めたことだ。
今さら、覆すことなどできるはずもない。状況を把握することが先決だ。
サクラは素早く考えをまとめる。
先ほどは、思いがけなく、カカシが現れたことで動揺した。
その元となったものに、彼は気付いただろうか。
元暗部の上忍なだけに、カカシは並外れて勘が良い。
いずれにせよ、いつかは、分かってしまうことのように思える。あの時もそうだった。
どうして、自分は一つのことに気を取られると、他のことが見えなくなるのか。
サクラは右の指先の爪を噛みながら眉間に深く皺を寄せる。
考え事をしているときの、サクラの癖。
思えば、この癖を最初に注意したのは、彼だった。
「やめた方がいいよ」
けしてきつい調子ではなく、やんわりと言われた。
サクラははっとして振り向く。
「爪が可哀相」
傍らのナルトがにこやかに笑ってサクラに言った。「・・・分かってるわよ。でも、癖なんだもの」
知らずのうちに、爪を口元に運んでいる。
おかげで、サクラの爪は右側だけ形が悪い。
やめなければならない癖だとサクラにも分かっているが、人に言われると、どうしても意固地になってしまう。「あんたには関係ないわよ」
サクラはつんと口を尖らせる。
素直でないサクラの様子に、ナルトは笑いながら手を差し出した。
「じゃあ、こうするのは、どう?」突然手を握られ、サクラは大きく目を見開いてナルトを見た。
「これなら、噛めないでしょ」
ナルトはサクラと手を繋いだ左手を手前に出し、罪のない笑顔を見せる。
何の思惑もなく、思ったままに行動している子供そのものだ。「人が来たら離すから大丈夫だよ」
ナルトは何気なく言って、サクラから視線をそらした。
任務の帰り、道を違えるまで二人はいつも並んで帰っている。
この日はすでに日が暮れていることで、人とすれ違うことが極端に少なかった。
ナルトは自分が里の人間に嫌われていることを知っている。
自分と親しげに手を繋いでいるところを見られたら、サクラが何か噂されるかもしれない。
そうなれば、サクラが不快な思いをするだろう、と気にしているのだ。
サクラはナルトがどのような顔でそのようなことを言うのかと思ったが、彼は平然とした顔をしている。
そのことにサクラは胸が痛んだ。「人が来たって、別に構わないわよ」
サクラは、何故か怒ったような口調で言うと、ナルトの手を強く握った。
ナルトは目を丸くしていたが、サクラのその言葉どおりに、誰が通っても手を離さなかった。
このとき、二人の心の距離がぐっと近づいたと思ったのは、サクラの気のせいではない。繋いだ手から、ナルトの手の温もりが伝わってくる。
その温かさが、そのままにナルトの人柄を表しているように、サクラには思えた。
ナルトとは万事がこんな調子だった。
サクラはナルトと喧嘩らしい喧嘩というものをしたことがない。
ナルトは普段、サクラの言うことに逆らわないからだ。
それでも、サクラに非があると思われるときには、ナルトは絶対に引かない。
サクラの機嫌を損ねることが分かっているのに、諫言する。反発し、サクラがきつい物言いをしてしまうことなど、よくあること。
自分が悪いということが分かっていても、引くことのできないサクラの性格は、後々多大な反省を彼女にもたらす。
どのようにして、ナルトに謝ろう。
頭の中でぐるぐると考え、沈んだ顔で任務のための集合場所に現れるサクラに、ナルトは決まって言うのだ。「おはよう、サクラちゃん」
いつも通りの、けろりとした笑顔で。
昨日の諍いなど、なかったかのように。
そのたびに、サクラはホッとした気持ちで、ナルトに対して悪態をついたりする。
いつの間にか、憧れだったサスケよりも、ナルトの傍らにいる時間が長くなっていることに、サクラは全く気付いていなかった。
あの事件が起こるまでは。
あとがき??
ど、ど、どうしよう〜。(おろおろ)
暴走してるよ、暴走!!!カカシ先生、どこ行った?って感じで。(汗)
代わりに幅をきかせているナルト。
最初はナルトなんて、ほんのちょい役で、台詞すらなかったのに!!
書きたかったテーマは変わってないんですが、内容はかなり変更されてしまった。
ナルトマジック!!ミラクル!
な、長くなるー。どうなる、続きーー。結末はまだ考えてないです・・・。(小声)