『K』の事情 6
「おめでとう」
「有難う」
心からの祝いの言葉に、ナルトも朗らかな笑顔を返す。サクラは扉を閉めるなり軽く首を傾け、部屋を見回した。
ナルトのいる控え室には各国から届けられた色とりどりの祝いの花が置かれている。
強い花の香りが鼻につき、サクラは少しだけ顔をしかめた。「開けていい?」
出窓に歩みよったサクラは、ナルトが頷くのを確認してから鍵に手をかける。
換気のために開かれた窓は、空気だけでなく、外の世界の音までも部屋に伝える。
上階から望む街は、祭典に大いに賑わっているのが分かった。窓枠から手を離すと、サクラはナルトを振り返り、ため息混じりに声を出す。
「念願かなったとはいえ、あんたもやること派手よねぇ」
「面倒ごとはいっぺんに済ませちゃった方がいいじゃん」
にかっと笑うナルトに、サクラは呆れたような表情をした。
「いいの、そんなこと言って」
「だって、俺、堅苦しい行事、大嫌いだもん。儀式は長いし、退屈だし。披露宴だって無くしたかったんだけど、ヒナタが泣くからやめた」
相変わらず正直な物言いをするナルトに、サクラはくすくすと笑い声をもらした。
ナルトが火影になった記念の式典と、彼とヒナタとの結婚式。
同時に開催される行事に、木ノ葉の里は沸きかえっている。
他国からの来客も多数訪れ、里はこれまでにない賑わいを見せていた。
式当日であるこの日は、人々の盛り上がりも最高潮に達していると言っていい。「わざわざ呼びつけるなんて、あんたも偉くなったものよね。で、話って何なの」
「・・・うん」
言い難いことなのか、ナルトは落ち着かなく視線を動かしている。
こうしていると、下忍時代のナルトそのままだ。
だが、彼は今日から木ノ葉の未来を担う火影となる身。
サクラは何やら感慨深い気持ちでナルトを見詰める。
「あの、サクラちゃんに聞いてもらいたいことがあったんだ」
一呼吸すると、ナルトはしごく真面目な顔でサクラと向き合った。
「俺が今まで頑張ってこれたのも、火影になれたのも、皆ヒナタがそばで支えてくれてたからだと思う。ヒナタには感謝してるし、彼女は今の俺には必要な人だ」
「うん」
「でもね、俺」
ナルトはサクラをひたと見据えて言葉を続ける。「サクラちゃんのこと、ずっとずっと好きだったよ」
ナルトの声に重なるように、時報の鐘の音が窓から滑り込んだ。
決して大きくはないが、サクラには何かを警告、または暗示しているように聞こえる音。
1つ、2つ、3つ・・・。
鐘が鳴り終えるのを待って、サクラは目線を窓からナルトへと戻す。サクラの答えはたった一言。
「私もよ」
けろりとした表情で言うサクラに、ナルトは相好を崩す。
彼につられて、サクラも苦笑をもらした。
そのまま、二人はなんとなしに笑い合う。
胸のつかえが落ちたような、明るい笑い声。サクラがその部屋を出る瞬間に、互いの口から出た言葉は。
偶然にも同じものだった。
「「バイバイ」」
控え室の扉を閉め、サクラはすぐにその気配に気付く。
「先に行っててって言ったよね」
長く続く廊下の陰からから姿を見せたのは、珍しく正装のカカシ。
表情は、心なし沈んでいる。
サクラは一つの可能性を頭に浮かべ、くすりと笑った。「何、もしかして、心配で待ってたの?」
サクラが、式前のナルトと共に、姿をくらませるのではないかと、心配していた。
それで、この場所で見張っていたのかと。
サクラはそう、問い掛けている。「・・・うん」
思いのほか、カカシはあっさりと頷いた。
サクラは思わず顔を綻ばせる。
「馬鹿ね」
カカシに歩み寄ると、サクラは彼の手を掴んで先導するように歩き出した。
「行こ。もう皆、会場に集まってるよ」
カカシはまだ、不安げな表情でサクラの横顔を見詰めている。
もたもたと歩くカカシを見上げると、サクラは思いついたように声を出した。「そうだ。先生、ちょっと屈んで」
手振りで身を低くするようカカシを促す。
「何?」
怪訝な表情をしながらも、カカシは言われるままに屈みこむ。
にっこりと笑ったサクラと目線が合うのと同時に、唇に柔らかい感触。一旦顔を離し、驚いた表情のカカシを確認すると、サクラは再び口づけを繰り返した。
タイを掴み、相手に噛み付かんばかりの、激しいキス。
不意打ちな出来事に混乱するカカシが、息苦しさを感じる前に、サクラは彼を解放する。「えへへ・・・」
積極的な行動とは裏腹に、サクラははにかむようにして笑う。
暫し呆然としていたカカシは、うわずった声でサクラに訊ねた。
「・・・サクラ、キスはしたくないって」
「言ったわよ」
サクラは当たり前のことのように言い放つ。
「だって、私、一番好きな人としかキスはしないって決めてたんだもの」
声の出ないカカシを引っ張り、サクラは再び式典行われる会場へと歩き出す。
儀式の始まりを告げるアナウンスと管楽器の音は、すでに廊下にまで鳴り響いていた。
あとがき??
1と同テンションで書くことは無理だったようです。あらー。
まぁ、大団円ということで。何でこうなったのか、自分でも分かりません。「好きだった」と「私も」。いずれも過去形。
別々の道を歩み始めたということでしょうか。
結局はラストはカカサクみたいです。作風変わってすみません。