『K』の事情 1
「イヤ」
険のある言い方をされ、カカシは顔をしかめる。
「いいじゃないか。別に」
「ダメなの。約束したでしょ」強硬手段に出ようとしたが、サクラの瞳に哀しげな色を見つけると、カカシの身体もこわばってしまう。
つむじを曲げてしまったサクラは、カカシの腕の中でぷいと顔をそむけた。
その態度に、盛り上がっていた場の雰囲気も一気に萎える。「・・・今日はもう帰る」
いつも通り、泊まり支度をしてやってきたサクラだったが、すっかり気がそがれてしまったらしい。
サクラは振り返ることなく玄関に消える。
カカシが止めようとしなかったのは、サクラがこの場所にとどまっていたら、自重できる自信がなかったからだ。サクラとの約束。
それが、ここまで自分の心に影をさすことになろうとは、カカシは思いもよらなかった。
「口にキスはしないで」
甘い吐息に混じって告げられた言葉。
「何で?」
サクラの胸元を這っていた唇を離し、カカシは訊ねた。
見ると、サクラは上気した頬を隠すように、顔に手を当てている。「好きな人と、一番最後にキスしたから。もう、他の人としたくないの」
か細い声の返答。
聞いてみれば、実にくだらない理由だった。
だが、サクラにしてみれば、大事なことなのだ。
彼女の声音を聞いていれば分かる。「いいよ。約束する」
軽い口調で言うと、カカシは再びサクラの衣類を剥ぎ取る作業に没頭した。
サクラの気持ちがどこにあるかなんてことは、二の次だったから、気にもとめなかった。
この行為に、愛情と呼ばれるものは必要ないのだから。
まだすれてない少女。
たまには、趣向を変えてみるもの良いか。
カカシがそう思ったのが発端だった。
初な子供を偽りの言葉で酔わせてその気にさせることなど、カカシにはわけない。
そして予想通り、今まで知ってる女達とはまるで違うサクラの新鮮な反応は、カカシを存分に満足させた。キスはイヤ。
何度身体を重ねても、サクラの気持ちは変わらない。
最初は少女めいた、可愛らしい物言いだとカカシは思った。
だが、今ではサクラが「イヤ」と言うたびに、カカシは自分の全てを否定されたような気持ちになる。
いつからか、カカシの中でサクラとの約束が、ひどく不快なものになっていた。
「好きな人って、誰?」
喉まででかかった言葉は、サクラの顔を見ると言えなくなる。
カカシの頭をよぎる、『S』から始まる名前。
サクラがずっと想いを寄せていた少年。
その名前を口に出したら、サクラが自分から離れて行ってしまいそうで。
カカシは訊くことが出来ずにいた。
あくる日、カカシはサクラの友達の少女から彼女の居場所を訊き出した。
3階にあるアカデミーの一室。
サクラは人のいない部屋で一人、窓の外を見詰めていた。
カカシの進入にも気付かない様子で、サクラは熱心に何かを眺めている。後ろから軽く頭を叩くと、サクラは弾かれたように身を引いた。
飛び退いたといっていい。
その過剰な反応に、カカシの方が驚いて目を見開く。
引きつったサクラの顔には、はっきりと怯えの表情が浮かんでいた。素早く視線をそらすと、サクラは一言も発することなくその場から退散する。
逃げるように。
カカシはサクラのその行動がどうしても解せなかった。
確かに昨夜は気まずい別れ方をしたが、今のサクラの態度は、それとは関係ないことのように思える。何気なく、カカシは窓の外を見遣った。
サクラの見ていたものを、確認したかった。
そして、視線の先にいた存在に、カカシの表情が凍りつく。
『S』で始まる名前の少年が、アカデミーの鍛練場で必死に汗を流している姿が、カカシの瞼にありありと焼きついた。
あとがき??
すみません。またしても、続きで。(泣)
何だか、思っていたのと違う方面に話が進みそうなので、修正するのが大変。(汗汗)
1のまま終わりでもいいような気がしてきたわ。
しかし、まだこの話のテーマを匂わせていないし。それを書かないと、意味がない。
これ、真に書きたかったカップリングはカカサクじゃないんですよ。(笑)
続き、当分先か・・・。あれ、もしかして、サクラ、悪女になってます?ええ!?