恋の道行き 1
「あれ、道間違えちゃったよ」
「え、そうなのか」やれやれというように言うカカシに、傍らの上忍は周囲を見回す。
ネオンランプの看板の燈る街角。
夜だというのに、真昼のような明るさがある。
最初は何人かで集まったのだが、飲み会がお開きになってもまだ飲み足りない様子の上忍仲間に、カカシが静かに飲むのにいい店があるといって誘ったのだ。
それが、近道のために大通りを一つ外れたために、見当違いの場所に出てしまったらしい。「わざと、間違えたんじゃないのか?」
「おいおい」
にやついて言う上忍を、カカシは軽く叩く動作をする。彼のジョークは全く笑えないものだ。
カカシの道案内で訪れたこの場所は、いい意味ではなく、人々によく知られている場所だった。
道の端々に立っている女達。
彼女達はいわゆる客待ちの商売女。
それが目的以外の、一般の人間はまず立ち寄らない。「おー。あそこの女なんて、ちょっといい感じだぞ。俺達に手ふってる」
「おい、よせって」
カカシは手を振り返す上忍を促して、足早にその場を離れようとする。
ほろ酔い気分の上忍はいい気なもので悠長に見分しているが、カカシの方は今のところ彼女達の世話になるほど不自由はしていない。
「あ、美少女発見!時代は変わったなぁ。あんな子供もこんな商売してるのか」
「ほら、もう行くぞ」
「いいから、お前も見てみろよ。あそこの柱の影にいる、えーと、ピンクの髪の女の子」
ピンクの髪の女の子。
その言葉を聞いた瞬間、カカシの脳裏をよぎったのは彼の生徒であるくのいち。
しかし、そのようなはずはない。
彼女は成績優秀な優等生だ。
金に特別不自由する身分でもない。
彼女ではないかと思ったこと自体が、彼女に対して失礼だ。
「うん。遠くてよく分からないけど、ピンクの髪だ。年は、12、3かなぁ」
カカシの気持ちなど知らず実況を続ける上忍に、カカシはついに顔を向けた。
上忍の指差している方角を見る。
いかがわしい看板の下、群がる女達に混じって、ピンクの髪の少女がいた。
はたからみると、なんら普通の少女と変わらない。
ただ、彼女のいる場所が問題なだけだ。「・・・・お前、先行っててくれ」
「え、おい!」彼女達のいる場所に向かって一直線に歩くカカシに、上忍は慌てて声をかける。
だが、カカシは全く振り向かない。
カカシがなにやらピリピリとしていることを、上忍は肌で感じた。
これは、ちょっかい出さない方が身のためだ。「何だよ、一人だけ楽しもうってのかよ・・・」
訳が分からず、上忍は困惑気味に言った。
大体、先に行けと言われても、店の場所も知らないのにどうやって行けばいいのか、と思いながら。
「お嬢さん、おいくらですか?」
背後からかけられた声に、少女はびくりと身を震わせる。
恐る恐る振り返ると、にこやかに微笑むカカシの姿。
彼女はとっさに逃げようとしたが、その腕を素早く捕まれた。「あらー、あんた、もうお客さん捕まえたの?さすがねぇ」
傍らの女性が感心したように言う。
「彼女、今晩いいですか?」
「いいけど、その子高いわよ。私にしておいた方がいいんじゃない」
しなを作る女性に、カカシは苦笑いする。
「彼女がいいんですよ」
そっけなく言うと、カカシは少女の手を掴んだまま踵を返した。
女性はつまらなそうに野次を飛ばしたが、カカシは振り返らなかった。
「よくやってるのか」
「・・・・」
彼女の腕を掴んだまま歩きながらカカシは問い掛ける。
彼女は無言だ。
「サクラ!」
怒鳴るようにして言うと、サクラはばっとカカシの手を振り払った。
カカシは立ち止まり、サクラを見る。「煩いわね。カカシ先生には関係ないでしょ」
サクラはカカシをきつく睨みつける。
「・・・サクラ、質問にはちゃんと答えなさい」
あくまで、丁寧に言う。
拳は握り締めていないと、彼女を殴り飛ばしてしまいそうだ。
カカシの冷たい視線に怖気づいたのか、サクラは渋々ながら語りだす。「・・・お小遣い稼ぎにね。でも、他の子だって皆やってるのよ」
サクラは言い訳のように付け足す。
だが、その声には先ほどまでの元気はない。
カカシは大きく、大きくため息をついた。「お金、いくらでやってるの」
「ん、一回でこれだけ、かな」
サクラは指で数字を示す。
カカシにしてみればはした金だが、サクラの年齢の子供からみると大金だ。
きっと、サクラが稼いだその金で買うものは、たいしたものではないのだ。
カカシは何の罪悪感もなく、そうした事をするサクラに、無性に悲しい気分になった。
「サクラ、手、出して」
「・・・手?」
サクラは怪訝な顔をしながらも、手を差し出す。
「両手」
言われたとおりに両の手を広げたサクラの掌に、カカシは鞄から取り出した財布をそのままサクラの手に置いた。
サクラは目を大きく見開いて財布を眺めている。
ずっしりと重いその財布は、サクラの一晩の稼ぎの何十倍もの金額が入っていると予想される。「足りなくなったら、うちに取りにおいで」
カカシの言葉に、サクラはさらに目をぱちくりと瞬かせる。
「は、ええ?」
混乱してうまく言葉を発する事が出来ないサクラに、カカシはようやく口の端を緩ませる。「サクラは今夜から先、ずっと俺の貸切ってことにしておいてよ」
あとがき??
藤田貴美『CAPTAIN RED』に収録されてる『赤い群集』。
それに出てくるユエが、今回のサクラのモデル。(笑)似てるかどうかはともかく。一応。
さすがにこの内容では長く続かないです。次で終わり。
しかし、上手く文章まとまらなかったら、削除するかも、です。