食物連鎖
壁に囲まれた、窓のない部屋。
食物を詰め込んだ冷蔵庫は手つかずのまま。
時の経過を示す時計の針はずっと止まっている。すでに精神の平衡を失っていた彼女は、完全に狂う前にと思ったのだろう。
俺が外出先から戻ると、彼女はすでに冷たくなっていた。明らかに息がないと分かる横顔を見下ろし、ため息がもれる。
心から安堵して。
これで彼女を誰かに奪われる心配はなくなった。
たとえ憎しみの感情だったとしても、彼女の頭が自分のことで一杯だったことは確かだ。「愛してる」
最後に、たぶん一番望んでいない言葉を彼女が贈る。
面窶れした横顔は、当然だけれど、何の返事も返してくれなかった。
俺が慕う女性は皆、自らの死という終焉を選ぶ。
想いすぎなのだと、人は言う。
自分だけを見ていて欲しいと思うことの、どこが罪悪なのだろう。
俺はこの世に彼女さえ存在していればそれで満足なのに、彼女は決まって俺以外のものを選択する。互いの姿以外のものを眼に映すことのない生活。
これ以上幸福なことはないと思うのに。
外に出してくれと、泣いて懇願する彼女の姿が、最後まで不可解だった。
新しく見つけた恋人は桃色の髪の、よく笑う明るい子。
いつものように鳥かごに閉じこめようと思ったのに。
躊躇してしまった。
彼女の精神があまりに健康で、清浄だったから。それが最初の気の迷い。
手を伸ばすと、彼女は屈託のない笑顔を見せてくれる。
俺が何を考えているのか、知りもせず。「先生」
耳に心地良い声は、自分への好意に満ちている。
柔らかな身体を抱きしめるたびに、芽生える不思議な気持ち。
これが何と呼ばれるもものなか、分からない。
今まで全く感じたことのない、感情。
彼女が笑うたびに思う。
笑わなくなってしまう彼女を。彼女が優しく名前を呼ぶたびに思う。
その口で、自分を罵るようになる彼女を。彼女を腕に抱くたびに思う。
冷たくなってしまう彼女を。そして最後に、怖くなった。
彼女には生きていて欲しかった。
たとえ、自分のもとを離れてしまっても。胸が暖かくなるその感情は、彼女と接するたびに膨らんでいく。
それはけして嫌な気持ちではなかった。
「愛してる」
その言葉は、いつしか以前の恋人達に囁いたものとは異なる響きを持っていた。
心の内からにじみ出たような声。
はにかんで笑う彼女は、自分もだと返してくれる。その笑顔が曇らないことを。
彼女の幸せを。ただそれだけを、祈っている。
あとがき??
ノーコメント。
というか、コメントのしようがないっす。
タイトルは中谷美紀つながり。彼女の歌、好きv