鳥籠の宇宙


長く付き合っていると、面白くない噂話が耳に入ってくることもある。

 

「あんたの彼氏、前に付き合っていた人を監禁して自殺させてるんだって」

お節介な友人が忠告してくれた。
そして、私は大丈夫なのかと訊ねてくる。
自分の身を案じてのことなのだろうけど、厭わしかった。

先生は私のことにあまり干渉してこない。
何でも自由にさせてくれるし、私がどんなに我が儘を言っても絶対に怒らない。
笑顔で言うことを聞いてくれるか、軽くたしなめるか。

あんまり優しいから。
本当に、たまにだけど。
不安になったりする。

自分は前の恋人ほどには、愛されていないのかと。

 

かまわないのに。
先生が望むなら、どこに閉じこめられても。
先生が私に愛をくれるなら。

私なら、絶対に先生から逃げたりしない。

 

 

「もう帰るね」
「送っていくよ」
先生の家を訪れた私は、玄関まで来てふと、思い出す。
友人の言葉。
先生が手放さなかった彼女のことを。

「・・・引き留めないの?」
「何で」
逆に問われて、私は口籠もる。
「先生、あんまりそういうこと言わないなぁって思って・・・・」
それだけ言うと、私は口をつぐむ。
何となく気まずい空気が流れる中、先生はふいに表情を和らげた。
「引き留めて欲しいの?」

柔らかく微笑む先生に、急に気恥ずかしくなる。
顔を赤くした私に、先生は笑顔のまま答えをくれた。

「必要ないからだよ。籠から飛び立っても、鳥はここに戻ってくるって知っているから」

 

先生の言葉は私の胸を強く打った。

私の全てはとっくに先生のもので。
帰るのは自分の家ではなくて、本当は先生のいるところで。
先生もそれを知っていて。
何も心配することはないのだと、分かった。

先生の昔の彼女のことなど、私の頭からすぐに霧散した。

 

それでも、時々先生に束縛して欲しいと考えてしまう私は。
なんて欲深な人間だろう。


あとがき??
よく分からないです。
こういうのが、たまに書きたくなる。で、似たような話を量産する。
サクラ拉致監禁未遂事件。本人が望んでいるんじゃ、事件にならないっすね。


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