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戒 1


「なるべく早く帰ってくるから」
「んー、でも本当にいいの?」
「何が?」
悩んでいる風にナルトに、カカシが訊ねる。
「俺が夜に狼になるかもしれないとか、思わないの」
珍しく神妙な顔つきのナルトに、目を丸くしたカカシはすぐに大きな口を開けて爆笑した。
「お前にそんな度胸ないだろう」
ナルトは心外だとばかりに口を尖らせたが、カカシの言う通りだった。
ナルトはサクラの嫌がることは絶対にしない。
それが分かっているから、カカシも今回のようなことを頼んだのだ。

「お前よりも、あいつの方が怖いよ」
「あいつ?」
誰のことを指しているのか分からず怪訝な顔をするナルトに、カカシはふいに真顔になった。
「カイだよ。最近ますます俺に似てきた」
「ああ」
頷くと、ナルトはカカシの長男であるカイの顔を頭に思い浮かべる。
確か年齢は今年で12。
幼いときは父と母それぞれに似ていると思っていたが、成長するにつれカカシとうり二つと言っていい様相に変わってきた。
カカシと並べば、誰もが一目で親子だと分かるだろう。

「本当、カカシ先生にそっくりだよねぇ」
呟いてすぐに、ナルトははたと気付く。
「怖いって、何で。何か達の悪い悪戯でもするの」
「・・・お前みたいに単純ならいいんだけどな」
ナルトは馬鹿にされたのかと思ったが、カカシは薄く微笑んでナルトを見詰めている。
「カイは俺に一度も逆らったことがないし、大人しくていい子だよ」
カカシは少し間を空けて、言葉をためる。
「だからこそ怖いんだ・・・。あいつは俺に似すぎてる」

嘆息するカカシに、ナルトは再び首を傾げた。
全く理解出来なかった。
カカシの言葉の真意も。
その憂い顔の理由も。

 

 

「カカシ先生ったら、心配性ね。1週間くらい家を留守にするからってナルトを呼ばなくても大丈夫なのに」
「まぁ、近頃物騒だし。木ノ葉銀行で発砲事件があったばかりだろう」
「そうだけど」
カカシが留守の間家を任されたナルトは、泊まる用意をしてカカシ宅を訪れた。
大きな鞄を客室へと運んだナルトは、キッチンのテーブルでサクラの用意したハーブティーを飲んでいる。

サクラに言ったことは建前だ。
発砲事件に拘わらず、カカシはナルトに家に来るように強要していた。
その分の給金を払うことを約束して。

今、この家にはサクラの他に長男のカイが生活している。
長女のモモは他国にある全寮制の進学校へ入学したために、この里にはいない。
女子供だけで不便はあるだろうが、カカシがいないのはたった1週間のことなのだ。
カカシが何に怯えているのか、ナルトには皆目分からない。
分かるのは、カカシの心配事にカイが関係しているということだけだ。

 

「カイは?」
他に人の気配のない片づいたキッチンを見回し、ナルトは思い出したように言う。
「お友達の家に遊びに行ってる。あの子ったら全然勉強しないで。またアカデミーの卒業試験に落ちるんじゃないかと心配よ」
サクラは腰に手を当てて眉を寄せた。
母親の顔をするサクラに、ナルトは口端を緩める。
「俺だって何度も落ちたことがあるから、大丈夫だよ」
「だから、心配なんじゃない」
サクラの毒舌にナルトは口に運んだハーブティーをこぼしそうになる。
「サクラちゃん・・・」
ナルトが情けない声を出すのと、家のチャイムが鳴るのと同時だった。

「あ、帰ってきたみたい」
サクラはとたとたとスリッパを鳴らして玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには確かにカイの姿があった。
「おかえりなさい。ご飯できてるわよ」
玄関口で微笑むサクラを、カイは両手を広げて抱きしめる。
年齢にしては長身のカイの背は、小柄なサクラとそう変わらない。
「ただいま、サクラ」
カイは言葉と同時に、自然な仕草でサクラの顔に唇を寄せた。

 

サクラから僅かに時間をあけて玄関にやってきたナルトは、二人の抱擁を目の当たりにして大きく目を見開いた。

「な、な・・・」
何をしているのか、と訊ねようとしたが、なかなか言葉が出てこない。
深い口づけを終えたカイは、ようやくサクラの後方にいるナルトに顔を向ける。
「ナルトさん、いらっしゃい」
ナルトの来訪を知っていたのか、カイは驚くこともなく言う。
その笑顔は子供らしく、あどけないものだ。

「え、あ、うん。お、お邪魔してます」
戸惑うナルトに微笑したカイは、そのままナルトの横をすりぬけて廊下を歩き始める。
「腹減った」
「ちゃんと手を洗ってうがいをするのよ」
「はーい」
ぴしりと忠告するサクラに、カイは素直に返事をする。

「さ、サクラちゃん、今の」
「今の?」
きょとんとした顔で見上げられ、ナルトは顔を赤らめる。
「キ、キスして・・・たけど」
「ああ」
サクラは表情を和らげてくすくすと笑う。
「甘えん坊で困っちゃうでしょ。家に帰ってくると、必ずするの」
「・・・・」

 

朗らかに笑うサクラに、ナルトは無言になった。
あの光景を見て、親子のキスと思う人間は稀だろう。
絡んだ舌が、唇を離したあとも名残惜しそうに糸を引いていた。
家族というものがいないナルトにも、これが普通ではないということは分かる。
それに、あの時のサクラを見詰めるカイの目は、どう見ても・・・。

「・・・考えすぎ、だよな」
キッチンへ戻るサクラの後ろ姿を見ながら、ナルトは不安を振り払うように呟いた。


あとがき??
長いので切る。意味はなし。
エディプスコンプレックスがテーマ。


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