戒 2


「俺の部屋に遊びに来てよ」
夕食の席で、ナルトがこの家に滞在することを知ったカイはそう言ってナルトを誘った。
「ちょっと、ナルト!うちの子がこれ以上勉強しなくなったらどうするのよ」
「・・・・誘われてるのは俺なんだけど」
微妙にかみ合わない会話に、食卓には笑いが沸き起こる。
和気藹々とした雰囲気に、ナルトは先ほど感じた不安などすっかり忘れてしまっていた。

「結構綺麗にしてるんだなぁ」
「俺、掃除好きだもん」
カイの部屋に入るなり、ナルトは驚きに目を見張った。
きちんと整頓されているだけでなく、子供らしい玩具はあまり見あたらない。
机とベッドと、そして部屋の大半を占める本棚。
読書好きは両親共に似たのか、本棚には多彩なジャンルの本が揃っている。
そこは一見して、滅多に家に帰らない大人の部屋のようだった。
「・・・お前、本当にここで寝泊まりしてるんだよな」
「当たり前じゃん」
不審な顔つきをするナルトに、カイは苦笑いをする。

落ち着かなく首を回らしたナルトは、ある一点で視線を止めた。
「お、サクラちゃんv」
思わず歩み寄ると、ナルトはサクラと幼いカイ、姉のモモの三人が写った写真をまじまじと見る。
「サクラちゃん全然変わらないよなぁ・・・」
額を手に取り、ナルトはしみじみと呟いた。
髪型は多少変化したが、レンズに向かってこぼれるような笑顔を浮かべるサクラは昔とちっとも変わらない。
彼女の周りだけ、時が止まってしまったかのようだ。

 

「ナルトさんは結婚しないの?」
写真のサクラに見照れているナルトに、カイは出し抜けに訊ねる。
「え、えーと、相手がいたらしたいんだけど」
「でも、恋人くらいはいるよね」
「・・・・」
暗い表情で黙り込むナルトに、カイは吹き出した。
「27にもなって、情けないのー」
「し、仕事が忙しかったんだよ」
腹を抱えて笑うカイにナルトは大人気なく言い訳をする。

「俺に先を越されるかもよ。俺はもう4、5年したら結婚するつもりだから」
「へぇ」
子供ながらいっぱしの口をきくカイに、ナルトは興味を引かれた。
アイドルのポスター一つ貼っていない部屋に寂しさを覚えたが、年頃の少年らしくきちんと好きな女子は存在しているらしい。
「もうそんな風に思う相手がいるのか。近所の子なのか?」
面白そうに訊いてくるナルトに、カイはにっこりと微笑む。
「サクラ」

無邪気な笑顔と共に告げられた名前に、ナルトの笑顔は固まった。
ナルトはごくりとつばを飲み込む。
鼓動の速まった身体と気持ちを落ち着けるために。
「・・・サクラちゃんと同じ名前の子が彼女なのか?」
「俺のサクラは一人しかいないよ」
カイはナルトを見上げごく真面目な表情で答える。
真摯な瞳は冗談を言っているようには見えない。

 

『あいつは俺に似すぎてる』

カイの目を見るうちに、カカシの言葉がナルトの頭をよぎった。
同時にカカシの危惧していたことの正体も知る。

 

「さ、サクラちゃんは、お前を産んだ人だぞ!」
身体をはしった戦慄に、ナルトの語調は自然と強まる。
「知ってるよ。そして、俺の子供を産んでくれる人だ」
カイはナルトから額を奪い取った。
写真のサクラを見詰める瞳は明らかに好意を持つ異性に対するもの。

「サクラちゃんには、カカシ先生が・・・」
「そう。あいつがいなくなれば障害はなくなるんだ」
カイは何の感情も含まない声で淡々を言う。
その言葉の意味することを悟り、ナルトはカイの肩を掴んだ。

「お前は間違ってるよ!!」
「何でさ。俺はサクラを幸せにする自信があるよ。自分の教え子に手を出して13で孕ませた男なんかより、俺の方がずっとサクラを大事にしてやれる」
カイの眼差しは真剣だ。
幼いゆえに純粋で一途な思いに、ナルトは眩暈すら覚える。
だが、その気持ちの方向は修正できないほど脱線してしまっている。

 

 

重苦しい沈黙が流れる中、カイの部屋の扉がノックされた。

「ちょっと、ちょっと。何ケンカしてるの!」
二人の分のジュースをお盆にのせたサクラが顔を覗かせる。
何か怒鳴り合いをしているようだった二人を心配して、2階に上がってきたらしい。
ナルトは会話を聞かれたかと緊張したが、サクラの様子からそれは回避できたようだ。

「大丈夫だよ。ケンカじゃないから」
「そうなの?」
カイはサクラの手から盆を受け取ると、彼女の背を押した。
「大事な話してるから、サクラはちょっと外に行っててよ」
「え、ちょっと・・・」
サクラを無理に外へ押しやると、カイは後ろ手で扉を閉める。
何やらぶつぶつと不平をもらしながらも、サクラの足音は遠ざかっていった。

 

「昔から父親同然に優しくしてくれたナルトさんだから教えたんだよ。ナルトさんも、ずっとサクラのこと好きだったよね」
ひたとナルトを見据えたカイは、ゆるやかに表情を和らげる。
「サクラは誰にも渡さないよ」

似たようなことを、15年前にも言われた。
カイは父親と全く同じ顔をして、同じことを言う。
二度もこの台詞を聞くはめになるなんて、一体何の因果だろうか。
顔をしかめるナルトに、カイは楽しげに顔を綻ばせていた。


あとがき??
ようやく終わった。
次で最後。ちょっと外伝的。カイくん一人称で時がさかのぼる。
カイくん弁明話。

私の趣味丸出しで申し訳ない。
男女カップルだとどんな組み合わせだろうとこだわりがないのです。(ものによる)
禁断恋愛マニアだし。


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