無罪モラトリアム 2


「何か、お前最近甘い匂いしないか?」
「これのせいじゃない」
カカシはぺろりと舌を出して飴玉を見せる。
仲間の上忍はさも意外だというようにカカシの顔を窺う。
「・・・珍しいな。お前がそんなもの持ってるなんて」
「あの子が会うと必ずくれるんだ。ま、血の匂いさせてるよりはいいかなぁと思って」
飴玉をカリカリと噛み砕きながらカカシは声を出す。

任務が下るのを待つ間、控え室では暗部の忍び達が集まっている。
それぞれが緊張した面持ちで大人しく坐している中、菓子の匂いをさせているカカシは際立っていた。

 

「エクスプレス飲ませてるから、その礼のつもりなのかもしれないなぁ。あれ、飴玉みたいな色でしょ」
「エ、エクスプレス!!?」
上忍仲間は大げさに声をあげて振り返る。
視線が自分に向けて集中していることを知ると、彼は慌てて声を潜めた。
「お前、あれ今じゃ製造中止の危険な麻薬だぞ。どうやって手に入れたんだ」
まじまじと見詰めてくる上忍仲間に、カカシはにやりと笑う。
「企業秘密v」

明るく言うカカシに、上忍仲間は溜息をついた。
「・・・子供にあんなもん飲ませてるのか」
「だって、あれ使わないとサクラが痛がるんだもん。可哀相じゃん」
彼は神妙な顔つきでカカシを見据える。
「だが劇薬だ。長い間服用したら、間違いなく狂い死にするな」
「・・・・」
仲間の忠告にも、カカシは平然とした顔で前方を見詰めている。
改めて言われずとも、重々承知していることだ。

 

「おい、お前らの班の任務が決まったぞ!」
上忍仲間が口を開きかけると、二人の会話に割って入るようにして、声がかかった。
椅子から立ち上がったカカシに続き、彼も静かに席を立つ。

カカシの口内で、飴玉が、大きな音を立てて砕かれた。

 

 

サクラの心身に異常が見られる前に、手放すこと。

そんなことは、カカシとて毎日のように考えていた。
きっかけを、カカシはずっと探している。
最初は体のいい玩具を手に入れたつもりだったのに、いつの間にかそれが宝物に代わっていた。
だからこそ、長い間手元に置いておくことは出来ない。
身を置く世界が、あまりに違うから。

そして、そのきっかけはある日突然やってきた。
金の髪の、少年の姿をして。

 

 

 

「どこかに行っちゃうの?」

木の葉の上であお向けになり、サクラは虚ろな目で上空を見詰めていた。
木の枝の隙間から垣間見れるのは、大きな大きな白い雲。
あの雲がどけば、青い空が見えるのに、とサクラは思う。
だけれど、雲の切れ間はなかなか見えてこない。

「・・・・何で分かる」
自分の衣服を整えたカカシは、サクラへと視線を下げて訊ねる。
「何となく」
サクラがのろのろと半身を起こすと、髪についた枯葉がはらりと落ちた。
薬の効力が残っているのか、サクラは一言発するのも億劫そうだ。
「いつもと違うから」

 

サクラは散らばった服を這うようにして集める。
互いに無言のまま過ぎる時間。
湖の魚が、パシャリと音を立てて飛び跳ねた。
僅かに肩を震わせたサクラは、その音が引き金だったように、おもむろに口を開く。

「私のことはもう要らないの?」

聞きたいのは、ただ、そのこと。

駄々をこねるつもりはない。
カカシが最近何かを言いたげだったことも知っている。
どんな事情があるにしても、この問いに対するカカシの答えで今後の考えが決まる。
地に座り込んだまま見上げると、真顔のカカシと目が合った。

「サクラが好きだよ」

 

迷うことなく答えたカカシに、サクラは穏やかに微笑む。
二人に別れの悲壮感はなく。
必要だったのは、触れるだけの甘いキス。

「大人になる前に迎えに来てね」

 

 

 

そして、流れた歳月は5年。
再会したサクラは、カカシのことを微塵も覚えていなかった。
そのことよりも、サクラに薬の副作用がなかったことを知ってカカシは安堵した。

 

「サクラ、身体の調子が悪いところはない?偏頭痛とか」
「何、お医者さんみたいなこと言って」
神妙な顔で訊ねるカカシに、サクラはくすくすと笑い出す。

サクラの要望で、二人は今、あんみつ屋にいる。
甘い物がそれほど得意ではないカカシは茶ばかり啜っているが、若い女子が集まる店内で随分と居心地が悪そうに見えた。
向かいに座るカカシを、サクラは微笑して見詰める。

「心臓の調子が悪いときならある」
「え!」
驚きの声をあげたカカシだが、サクラはにこにこ顔だ。
「この頃ね、先生と二人でいると心臓がどきどきして緊張しちゃうの。病気かな」
顔を近づけて囁いたサクラに、カカシは顔を綻ばせた。
「それなら俺も病気だよ」

サクラはスプーンで寒天を一つ掬うと、口へと運ぶ。

 

「今度はあのお面、ちゃんとちょうだいね」


あとがき??
思ったよりほのぼのになったぞー。わーい。(?)
1と2の間の部分(年齢制限ありあり)も途中まで書いたんだけれど、完成できなかった・・・。(=_=;)
さすがに勇気がない。嫁入り前の女子ですし。アップできない。
まぁ、気が向いたら浦の部屋に置く、ということで。希望者がいれば。
サクラがいじめられてたのはアカデミーに入ってからとか、『禁じられた遊び』を書いた後に分かりまして、ちょっと内容噛みあっていないのですが大目に見てください!(もともと原作から逸脱してる話ですが)

『禁じられた遊び』に投票して下さった皆様、有難うございました!


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