変身 1


風邪をひいて任務を休んだサクラは、次の日にはすっかり全快したようだった。
任務内容は雑用ばかりで、カカシは今日も休めと言ったのだが、サクラは頑として聞かない。
ただでさえ、皆の足を引っ張る身。
これ以上、ナルト達に後れを取るわけにいかなかった。

「サクラちゃん、本当に平気?」
「大丈夫、大丈夫」
元気良く任務地へと歩くサクラは、傍らのナルトに笑顔で答える。
だが、その直後に。
サクラは口元に手を当てて咳き込んだ。
とはいっても、たった数回咳をした程度。

鼻をすすって顔を上げたサクラは、行く手を遮るものにトンとぶつかる。
「ん?」
見ると、いつの間に現れたのかカカシが立ち塞がっている。

 

怪訝な顔をするよりも早くに、サクラはカカシに腕を引かれていた。
驚く間もなく、そのままカカシの腕に抱きかかえられる。

「サクラ、やっぱりまだ風邪治ってないんだろ。家に送ってく」
「え!?ちょ、ちょっとせんせ」
「お前達、先行ってろな」
カカシはナルトとサスケに適当な指示を出すと、サクラと共に姿を消した。
口を挟む暇さえない早業に、ナルトは呆然としている。

「・・・過保護な奴」
二人の消えた先を見詰め、サスケはぼそりと呟いた。

 

 

「あんな咳、風邪ひいてなくても出るわよー!!」

半ば強制的に自宅に連れてこられたサクラは、パジャマ姿のまま枕に怒りをぶつけていた。
ばしばしとサクラに叩かれ、枕はぼこぼこになったが中身がそば殻なだけにすぐに元に戻る。
頬を膨らませたまま、サクラは枕を抱えてベッドに横になった。

今日は、どこかカカシの様子が変だった気がする。
具体的にどこがというと、サクラはうまく言い表せない。
生徒の怪我や病気に対し配慮するのはいつものことだが、今日のカカシは度を越えていた。
“風邪”、という言葉に妙に反応したのには、何か意味があるのだろうか。
不安げに自分を見るカカシの瞳を、サクラはどうにも忘れることができなかった。

 

 

 

 

サクラが休みをもらって数週間経過したある日のこと。
7班の任務はリンゴ園の収穫補助作業だった。

「サクラちゃーん」
ナルトに呼び掛けられ、サクラはリンゴを入れた籠を手に振り返る。
「何よ」
「あれ、あれ」
ナルトは小声で合図する。
その指の先には、うららかな陽気に惰眠をむさぼるカカシがいた。
にんまりと笑うナルトの意図を悟り、サクラも笑顔を返す。
久々に訪れた、カカシの素顔を暴くチャンス。

興味無しとばかり作業を続けるサスケを尻目に、ナルトとサクラはカカシとの距離を縮めていく。
二人が上から顔を覗き込んでも、リンゴの木を背に熟睡している様子のカカシはぴくりともしない。
ただ、よほど良い夢を見ているのかどこか楽しげな表情だ。
ナルトとサクラは目配せをすると、頷き合う。

ごくりと唾を飲み込み、サクラはおずおずとカカシの顔の布に手を掛ける。

 

いよいよという、瞬間。
カカシの目が開いたのとその手が動いたのは、全く同時だった。

 

「ご、ごめんなさいーー!!」
びくついたナルトは早々と後退ったが、掌を掴まれたサクラはそうはいかない。
ナルトに続いて謝罪しようとしたサクラは、カカシに見据えられ硬直したように動きを止めた。
カカシの眼が。
食い入るような眼差しがサクラを捕らえる。

「・・・・サ・・」
「はい?」

漏れ聞こえた呟きに、サクラは返事を返す。
とっさに、自分の名前を言われたのだと思った。
カカシが自分の顔をしっかりと見詰めていたから。

 

 

「カカシ先生?」
訝しげなナルトが視界に入ると、カカシはハッとしてサクラの手を離した。
「あ。ああ、眠っていたのか・・・」
言いながら、カカシはがしがしと頭をかく。
「カカシ先生、何か良い夢見てた?」
「・・・・何で」
「笑ってたから」
臆面もなく訊ねるナルトに、カカシは相好を崩す。
「良い夢、かな。昔のことを夢に見てたんだ。俺が丁度お前達くらいのときの・・・」

穏やかに微笑むカカシは、どこか寂しげで。
サクラの胸がちくりと痛む。

数秒後には、カカシの顔はいつもの通りの、感情の読めないものに変わっていた。


あとがき??
コンセプトは嫉妬するカカシだったのですが、この話のどこにそんなものが盛り込まれるのか・・・・・。
これでは、暗い部屋に置く意味がない。
というわけで、2からが本番。
・・・・最近エロ駄文ばかり書いてるから頭が発狂しそうだ。(未発表)

分かり難いけど、カカシ先生とサクラは交際してます。
サクラがカカシ先生の素顔を知らないところから、まだプラトニックの様子。


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