隣りの家に住む人 3


「・・・あのさ、私ってあんまり必要ないんじゃないの」
「そんなことないよー。サクラは大事なマスコットガールなんだから」
「・・・・」
にこにこ顔のカカシに対し、サクラは無言になる。

二人は今、とある要人の狙撃を終えて、屋上からエレベーターを使って下りていた。
カカシの左手には、ライフル銃が入ったケースがある。
利き腕が空いているのは、奇襲を受けてもすぐに対応できるようにするためだ。

サクラが自分が必要ないのでは、と思ったのは、ここ一ヶ月ほど一緒にいて、カカシがサクラを殺しの現場に連れて行くことがあまりないからだ。
一緒に出発しても、サクラは常に現場待機。
大抵、サクラはカカシの銃の手入れの手伝いや家事を任されている。
今日はカカシが珍しくサクラの目の前で銃を使ったが、死体はサクラの直接視界に入らない場所にあった。

 

「死体見たら、サクラまた倒れちゃうでしょ」

ある日サクラが訊ねると、カカシはそう答えた。
確かに、血を見ただけで倒れたサクラが直接死体を見たら、さらなる衝撃を受けるだろう。
「だから、家で死体の始末するのもやめたんだ。他の人に頼むとその分もらえる金減っちゃうんだけど・・・」
カカシは言葉とは裏腹に、あまり未練を感じさせない声で言う。
給金から引かれる死体の始末料は、サクラには目玉が飛び出るような金額だ。
それを「サクラが嫌がるから」という理由だけで放り出してしまう感覚が、サクラには理解できない。

人というのは慣れる生き物で、サクラは段々とカカシの目が怖いと思うこともなくなり、彼がそう悪い人ではないということも分かってきた。
ただ、普通の人なら当然持っている感情が、ぽろりと抜け落ちている。
それが、サクラのカカシに対する総評だ。

 

 

建物の外に出てカカシの顔を仰ぎ見るなり、サクラは訝しげな表情になる。

「・・・・顔色、悪くない」
「そう?」
太陽の下で見ると、カカシの顔は心なし青ざめているように感じた。
暑い気候のせいもあるが、額には汗が滲んでいる。
嫌な予感がしたサクラは、カカシに触れるなり仰天する。
「す、凄い熱!!」

そのときになって、サクラは初めてカカシの腕に巻かれたバンダナの意味に気付いた。
おそらく、包帯の代わりだ。
「この怪我は?」
「ああ。この前、ちょっとしくじっちゃって」
「見せて!!」

強引に腕のバンダナを取ると、見るからに深い傷口が無造作に縫いつけてあった。
たぶん、カカシが自分でやったのだろう。
片手で皮膚を縫い合わす作業は容易ではなかったらしく、縫い目が粗い。
おかげで、傷口が化膿してひどい状態になっていた。
高熱の原因はたぶんこれだ。

 

「いつ、いつやったの」
「一昨日、かなぁ」
慌てるサクラと違い、カカシはゆったりとした口調で答える。
ここ最近、サクラは毎日カカシと顔を合わせているが、その異変に全く気付かなかった。
信じられないポーカーフェイスだ。

「び、病院に」
「行けないよ」
カカシはサクラに続く言葉を言わせなかった。
怪我の理由を探られることは、カカシにとって致命的なことだ。
サクラは口をつぐんだまま、痛々しい傷口を凝視した。

 

 

「サクラ、器用だねぇ」
「今、家庭科の授業でスモック作っている最中なのよ」
家庭科の授業と外科手術をごっちゃにするサクラの発言に、カカシは苦笑を漏らす。
カカシの家に戻ったサクラは、カカシの怪我の治療に没頭していた。
とりあえず、このめちゃくちゃに縫われた傷を綺麗に縫合し直さなければならない。

サクラとて、血を見るのも苦手で人の皮膚を縫い合わせる作業など死ぬほど嫌なことだったが、背に腹は替えられなかった。
カカシが少しでも痛そうな様子を見せたら、サクラは針と糸を放り出していただろう。
だがカカシは悠然と構え、笑顔すら見せる余裕があった。
傷の治りが遅くなるから、という理由で麻酔を使っていないというのに、驚異的なことだ。

 

「サクラさ、俺のこと嫌いだよね」
「嫌いよ」
「俺の仕事、手伝うのも嫌だよね」
「嫌よ」
「じゃあ、何で怪我の治療手伝ってくれるの」
「・・・・」
サクラは唇を引き締めてカカシの顔を見上げる。

「別にそんなの普通のことじゃない」
「普通?」
「怪我や病気の人がいたら、助けるのよ。普通は」
強気で言い切るサクラに、カカシは目を丸くする。
「そう。サクラにはそれが普通なんだ。へぇー」
しきりに感心するカカシに、サクラは馬鹿にされているのかと思ったが、カカシにその気はないようだった。
純粋に、ただ感じ入っているという様子。

「じゃあさ、弱ってる人間をさらに弱らせて有り金を巻き上げるとかは・・・」
「しないわよ!!そんなこと!」
思わずサクラは語調を強くした。
万事がこの調子で、サクラはカカシと話していると、たまに宇宙人と会話しているような気持ちになる。
一体、今までどういう生活をしてきたのか、皆目見当がつかない。

 

 

「サクラ、もう帰って良いよ。明日、学校だろ」
カカシは一通りの治療を終え解熱剤を飲むと、ベッドに横になる。
サクラは水を張った洗面器を手に寝室にやってくると、憤然と言い返した。
「何言ってるのよ!!重傷人放って帰れるわけないじゃない!朝までいるわよ」
無事縫合できたとはいえ、熱のあるカカシは今では一人で歩くこともままならない。
自分以外に面倒を見る人がいないのだから、サクラには見捨てて行くことなどできなかった。

「・・・・」
「嫌なら帰るけど」
枕に頭をのせたまま自分を見据えるカカシに、サクラはふてくされたように言う。
首を振ったカカシは、サクラに笑いかけた。
「嬉しい」

 

熱に浮かされているせいか、子供のように無防備なカカシの笑顔に、サクラは一瞬目を奪われる。
自分がその笑みに見入ったのだと気付いたとき、サクラの頬がみるみるうちに熱くなった。

「・・・サクラ?」
訝しげなカカシの声に反応し、サクラは慌ててカカシに背を向ける。
「は、早く寝ないと、治らないわよ!!」
サクラは動揺を悟られないよう、乱暴に言い放つ。
胸の鼓動の音が、うるさいほど大きく聞こえていた。


あとがき??
は、恥ずかしい!いや、何、このこっぱずかしいベタな展開は!!!ひー!!
書いてる方が恥ずかしいんだから、読んでる人はもっとだろう。(汗)
次で終わり!!
というか、次でようやく「
hope」の例の台詞が出てくるよ。
二人のラブ度はさらにヒートアップ・・・・。たっけてー。

ああ、カカシ先生を学生にしたのは、昼間ふらふらしてても不思議じゃないから。
『セーラームーン』の衛さんみたいに。(笑)

本当はサクラが死体埋める手伝いしたり、銃を使ったりとシビアな展開だったけど、ほのぼの〜で統一しました。(?)


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