隣りの家に住む人 1
サクラの家がある集合住宅。
隣りに新しく入居したのは、学生の青年だった。
「よろしくお願いします」
定番の引っ越し蕎麦を持参して挨拶に回る青年は、当然サクラの家にもやってきた。
「困ったことがあったら、何でも言ってくださいね」
今時珍しく礼儀の正しい青年に、サクラの母は好印象を持ったようだ。
にこにこ顔で談笑する母親と青年を、サクラは壁の向こうから遠巻きに眺める。「あれはうちの娘なんですよ」
サクラの姿に気付いた母親が、サクラに挨拶をするよう促す。
だが、サクラは母親の背に隠れて、前に出ていこうとしなかった。
「困った子ね」
サクラの母は困惑気味に呟く。「どうも、人見知りの激しい子で」
「いえ」
青年は気にした風もなく答える。
「可愛らしいお嬢さんですね」
青年が帰ったあと、サクラは母親に詰問された。
「どうしてちゃんと挨拶しなかったの。10歳にもなるお姉さんが「こんにちは」の一言も言えないなんて!」
「・・・・だって」
サクラはためらいがちに声を出す。
「あのお兄さん・・・・何だか怖い」
「何言ってるのよ。あんなに感じのいい人に」
サクラの母親は呆れたように言う。
青年の面立ちが整ったものだったのも、サクラの母親にはプラスに働いているようだ。母親が何と言おうと、サクラのあの青年に対する「怖い」という印象はぬぐえない。
左右色の違う冷たい瞳が。
サクラの脳裏にいつまでもこびりついていた。
早くいなくなればいい、というサクラの願いもむなしく、彼は長い間その家に留まっていた。
どこか地方から出てきたらしく、一人暮らし。
ふらりといなくなり、いつのまにか帰ってきているような風変わりな青年だ。
どこの学校に通っているのかも分からない。
それなのに、近隣の住人からの受けはすこぶる良かった。
そのことが、サクラには不思議でならない。
「こんにちは」
サクラは母親に持たされた煮物を手に、隣の家の扉を叩いた。
夕飯のおかずの足しにと、青年にお裾分けをするために多めにつくられたそれは、ラップの上に水滴を作っている。
あの青年と関わることは嫌で嫌でしょうがなかったが、母親には逆らえない。返事のない家に、サクラは首を傾げる。
「・・・いないのかしら」
試しに、とノブに手を掛けると、それは易々と回った。
サクラは覗き込むようにして、扉の隙間を見る。
室内は暗く、サクラの見える範囲に人の気配はない。
「カカシ、さん?」
呼び掛けても、返事はなかった。
しょうがなく扉を閉めようとしたそのときに、ある匂いがサクラの鼻についた。
血の、匂い。
ここまで強く香ってくるということは、尋常ではない量だ。
サクラの顔が一気に青ざめる。サクラが踵を返すよりも早くに、扉の陰から伸びた手に腕を捕まれた。
顔を上げると、暗闇から自分を見詰める二つの眼球。
悲鳴をあげる間もなく、サクラの体は扉の向こう側へ吸い込まれていく。
パタンと扉が閉まると、廊下は通常の静けさを取り戻していた。
あとがき??
・・・どうなるんだろう。これ。
ホラーですよ、ホラー!怖い。
皆さん、どんな展開を望まれるだろうか。はて??
今のところ、危うしサクラ嬢。
何にも考えないで書いているのがよく分かる文章です。
このまま終わってもいい感じなんですが、頑張って続きを書こうと思います。