ダミー


7班の下忍3人はたびたびカカシの家に遊びに来ていた。
ナルトとサクラに引きずられるようにしてサスケも来るという様子だったが、文句を言いながらもちゃんとついてきているあたり、サスケもナルト達につきあうことはそれほど嫌がっていないように見えた。

 

「いらっしゃい」
そう言って3人を出迎えてくれたのはカカシではなかった。
カカシの彼女。
カカシ以外の人物が出てきたことで扉の前で戸惑っている3人に、優しく微笑みながら声をかけてくれた。
「彼の生徒さんね。もうすぐ帰ってくると思うから、あがって待っていてくれる?」
彼女は長い黒髪を一つにバレッタでとめていて、瞳の色と同じ青いエプロンがよく似合っている。
ベランダから洗濯機の稼動する音が聞こえてきた。
どうやら洗濯の途中だったようだ。

 

「・・・ねぇ、こないだ来た時いた女の人と違くない?」
「あ、サクラちゃんも気づいた」
「当たり前じゃないのよ」
「・・・」
居間に通されたナルトとサクラがひそひそ声で話すのをサスケは無言で聞いている。
そう何度もカカシの家に来たことがあるわけではないが、毎回違う女の人が出てくる。

最初は撫子色の髪に緋色の瞳の活発そうなイメージのショートカットの女性。
その次が亜麻色の巻き毛にターコイズグリーンの瞳のおとなしくて清楚なお嬢様風の女性。
そして今回はサラサラロングの烏羽色の髪に露草色の瞳の世話好きお姉さんといった感じの女性。

・・・先生の好みって分からない。
ナルトとサクラが頭を抱えているなかで、サスケだけがその3人の女性の共通点に気づいていた。

 

「おーよく来たなぁ」
散歩にでも行っていたのか、間もなくカカシが玄関から入ってきた。
「よく来たじゃないってばよ、先生」
「そーよ、そーよ、この前の女の人はどうしたのよ」
台所でお茶を入れている彼女に聞かれないよう、小声でサクラが非難の声をあげる。
「んー、何か出て行っちゃったんだよ」
「またぁ」
ナルトはあきれたような声を出した。
この間来た時も同じ答えを聞いたからだ。
「絶対先生の性格が悪いからだってばよ」

問題発言の後、ナルトはカカシに首を抱え込まれて拳骨で頭を小突かれてる。
「痛い痛い痛いってばよー!」
本当に痛そうなナルトの悲鳴を無視して、サクラはある考えを口にした。
「ねぇ、私あの人どこかで見たことあるような気がするんだけど」
ナルトの頭に当てられていたカカシの手がピタリと止まる。
「初対面だと思うよ」
「何でカカシ先生がそんなこと分かるのよ」
あっさりと言うカカシにサクラは不満げな声をあげる。
ナルトは今の隙にと力の緩んだカカシの腕から素早く逃れながら、そういえば俺も見たことある気がするなぁと思った。

「ちょっといいかしら〜。お茶入ったんで、運ぶの手伝ってもらえる〜」
「は〜い」
「俺も手伝うってばよ」
彼女の声にサクラとナルトが反応して台所に向かったため、居間にはサスケとカカシの二人だけになる。

「どういうつもりだ」
「あれ、サスケはちゃんと気づいたんだな。さすがうちは一族なだけあるね〜」
緊迫した声を出すサスケに対して、カカシはニヤニヤ笑いながら答える。

 

3人の女性の共通点。

サクラと同じ髪の色。
サクラと同じ瞳の色。
そして、サクラとよく似た顔。

今の彼女をサクラがどこかで見たことがあると言ったのは当然だ。
彼女はサクラが成長すればこんな感じになるだろうという面立ちをしていた。

サスケは不快な表情を露わにする。
「あんた、何を考えてるんだ」
「だって、しょうがないだろ。当の本人はお前のことが好きなんだから」
「こんな馬鹿げたことはやめろ」
思わず声を荒げたサスケのその言葉に、カカシは過敏に反応した。

「馬鹿げた・・・こと?」

 

刹那。
部屋の空気が全く変化する。

「・・・お前には言われたくないんだよ」

7班で行動していた時は聞いたこともないカカシの殺気を含んだ暗い声。
その刺すような冷たい視線に捕らえられる。
サスケは首筋に鋭利な刃物を押し付けられているかのような錯覚に陥った。
頬に冷たい汗が伝う。
自分の意志に反して体の震えが止まらない。

 

お茶を運んできたナルトたちが居間に戻ってきたことで、サスケはようやくその重苦しい空気から解放された。
ほんの数分の間だったはずなのに、サスケにはとてつもない長い時間が経過したように思える。

「あれ、サスケくん顔色悪いよ。熱でもあるんじゃない」
サクラはすぐにサスケの異変に気づいた。
心配そうにサスケの額に手を伸ばすが、サスケにはたかれる。
「触るな!」
驚いているサクラには目もくれずサスケはソファから立ち上がりそのまま玄関へと向かった。

カカシを除くその場にいた全員が唖然としてサスケの出ていた玄関のドアに視線を向けていた。
すっかりしらけてしまった雰囲気の中、サクラはどうして急にサスケがそんな行動をとったのかを考えていた。
この家に入る前までは、ご機嫌とは言えないまでも、いつもとかわなかったはずだ。
自分が何か気にさわるような行動をとったのだろうかと考えるが、全く分からない。
そのうち本当に気分が悪かったのではと心配になってきた。

「先生、私も帰るから。またね」
カカシの彼女に済みませんと頭を下げて、サクラは急いでサスケの後を追う。

一人その場に残されてしまったナルトは気を使って3人分のお茶を飲むはめになってしまった。

 

「サスケくん、待ってよ!」
サクラが外に出て見回すと、すでにサスケの後ろ姿はかなり遠くに見えた。
歩いているのに、まるで走っているかのようなスピードだ。
たぶんサスケの早くこの場から離れたいという気持ちの表れだったのだろう。
サクラの声が届いても、サスケが素直に立ち止まってサクラを待っていてくれることはなかった。
サクラは懸命に走り、何とかサスケに追いつく。

「サスケくん、本当にどうしたの。具合悪いの?」
「・・・」
不安な視線を自分に向けるサクラに対して、サスケは無言で前方を見つめたままだ。
顔色はまだ悪いが、ふらつきもせずに歩いていることから、一人で家に帰ることは出来そうだとサクラは考える。
帰り道が分かれるまで、しばらく並んで歩いた。
その間、サクラは何とかサスケと会話しようと試みるが、サスケからの反応はなかった。

「じゃあ、気をつけてね」
サクラがサスケに別れを告げて自分の家の方へ歩き出そうとすると、初めてサスケが口を開いた。
「サクラ」
「え?」
「カカシに必要以上に近づくな」

サクラは言われた意味がよく分からない。
首をかしげながら、どういうことか問いただそうとして、サクラは思わず息を呑む。
サスケが、サクラが今まで見たこともないほど険しい顔をしてサクラを見つめていたからだ。
「分かったな」
「う、うん」
返事を聞くとそれ以上サクラの言葉を聞く気はないらしく、サスケは別の道を歩き始めてしまった。
サスケはサクラに忠告したつもりだが、傍から見るとそれはまるで命令のようだった。
後には呆然とした表情のサクラが一人取り残される。

 

「結局あれ何だったのかしら??」
あれから任務で何度もサスケと顔を合わせたが、特に変わった様子はない。
サクラはあの時の会話は夢だったのかとさえ思う。
どう考えてもよく分からないし、サスケもその話はしたくないようなので、サクラは忘れることにした。

 

次の休み、サクラは気晴らしに街に買い物に出かけた。
ファンシーショップでアクセサリーを見た後に、繁華街をアイスをパクつきながらウロウロする。
繁華街はいつもどおりの賑わいで、あまりの人の多さに気分が悪くなってくる。
そろそろ帰ろうかなぁと思いブティックのショーウィンドを見ていると、サクラの背後に立っている人物がガラスに映った。

誰?

 

振り返るとそこにはカカシの家にいた彼女が立っていた。
サクラは笑顔で挨拶をしようとしたが、どうも彼女の様子がおかしい。
着ている服や髪型は最初に見た時と同じなのに、全体的にどこかすさんだ印象をうける。
理由は少しやせて青白くなった顔や、充血して赤くなった目などがあげられるが、すさんだと感じた一番の要因は、印象的だった彼女の明るい笑みが消えていたからかもしれない。

理由は分からないが、サクラの頭の中で警戒音が鳴り響く。
とっさに逃げようとして、彼女に手を掴まれた。
その細腕のどこにそんな力があったのかと思うくらいの力で強く握られる。

「いっ・・・」
痛みで喉まで出かかった悲鳴をサクラは何とかこらえる。
そんなサクラの泣きそうな顔を見て彼女は口の端に笑みを浮かべて言った。
「ちょっと、そこまで来てくれないかしら」

その時の彼女の笑いは陰暗という言葉がピッタリなものだった。


あとがき??
何か、続いてるし。長くなりそう。
サクラちゃんピーンチ!!
これさ、これ以上続くと裏になりそうなんだよね。困った。どうしよう。
内容的には裏だけど、裏的描写はないという矛盾した話になるわ。きっと。


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