楽園
未婚のまま。
清い身体で死んだ女性の魂は、楽園へと導かれる。ある聖人の書いた書物に載っていた言葉。
意味など分からなかった。
扉を潜る。
あの時までは。
「新しい術を教えて、先生」
サスケくんに言われた。
私の実力はナルト以下だと。
それが当たっていると分かるから、何も言えない。
幸いなことに、私のそばには“木ノ葉隠れの里一の技師”と言われる、カカシ先生がいる。「私にも使える術を教えて、先生」
住所を頼りにたどり着いたカカシ先生の家。
ラフな格好で戸口に立つカカシ先生は、ひどく億劫な様子で私を見る。
その眼差し一つで、早く追い返したいのだと、ありありと分かった。「俺の個人授業は、料金高いよ」
私を見下ろして、カカシ先生は意地悪く笑う。
「サクラに払える?」
下忍としての給金など、たかが知れている。
意味ありげなカカシ先生の視線と、言葉の含み。
分かっていても、私は敷居を跨いだ。追いつきたかったから。
私に背を向けて、一歩も二歩も前を歩く男の子達に。
「サクラちゃん、その服可愛いね」
ナルトは眩しいほどの笑顔を私に向けて言った。
前よりも少し裾を短くして、明るめの色にした仕事着。
鈍いナルトだって、気付いてくれている。
当然、あの人も分かっている。「有難う」
ちらりと窺ってみても、カカシ先生は私のことを見ていない。
服や髪型を変えたところで、カカシ先生は何も言わない。
私をナルト達と全く同様に、ただの生徒として扱う。闇の中で共有した時間など、なかったかのように。
消えていく身体の痛みに反比例して。
日増しに強くなっていく、心の痛み。私の名を呼ぶカカシ先生の声を聞いたときに。
ようやく自覚した。
私の欲しいものは、変化してしまっていたのだと。
「新しい術を教えて、先生」
日の沈む、逢魔ヶ刻。
私はまた、あの扉を叩いた。
お金はないけれど。
楽園。
聖女達が住まうところ。
堕落という名の極上の甘露を知った私には。
遠くて遠くて。とても退屈な。
あとがき??
元ネタは藤原薫先生の『楽園』に収録されている、「ローズマリーの森」。
内容は、あかずきんちゃんですね。
あまり好きな話ではないですが、パロを書こうと思ったあたり、影響を受けているのかもしれない。
こういう話は何も考えないで書けるあたり、非常に楽。