忍びのオンナ 1


「12歳―――??」
新たに護衛に付く忍びのデータを見るなり、カカシは不満げに眉を寄せた。

「何でそんなガキが城に来るんだよ。紅はどうしたんだ」
「あなたがセクハラ発言ばかりするから、怒って里に帰っちゃいました」
「じゃあ、呼び戻してよ」
「無理ですね。同じ上忍のアスマと結婚して、忍びの仕事を引退するって言ってましたから」
澄まし顔で言うイルカに、カカシは口を尖らせる。

「でも、もうちょっと俺と年の近い女性でもいいじゃないの」
「あなたが護衛はくのいちじゃなきゃ駄目だなんて、我が儘言うからでしょ!今、隠れ里ではくのいちの数が減ってるんです。男なら優秀で年の近い忍者が沢山いますよ。ハヤテとか、ゲンマとか、他にも・・・」
「あー、分かった、分かった」
長く続きそうな小言に、カカシは扇をパチリ鳴らして合図した。

「じゃあ、その子、あとで俺の部屋によこしてよ」
元気なく言うと、カカシは廊下に向かって歩き出す。
言い寄っていた美人くの一がいなくなったことが、相当ショックだったらしい。

 

「本当ですか?くのいちが減ってるって」
「嘘に決まってるでしょ」
カカシが退室したあと、さりげなく訊ねる同僚に、イルカはあっさりと答える。

「全く、若様ときたら美女を見たら手当たりしだいだから。この間なんて、公家の娘に手を出したんですよ。公家の娘に。嫁入り前の娘を傷物にされたと訴える親をなだめるこっちの身にもなってください!その前は九条家の末娘の部屋に忍んでいって大騒動だったのに!!」
「お、落ち着いて・・・」
段々とテンションのあがっていくイルカの話に、同僚は目を白黒とさせる。
うろたえる同僚に気づいたイルカは、こほんと一つ咳払いをした。
「まぁ、相手が年端も行かない子供ならさすがにあの人も大人しくしてるでしょう。それに、12歳といっても優秀な成績で忍者学校を卒業していますから、若の見張り役くらいは出来ると思いますよ」

 

 

 

大名家の嫡子であるカカシには、少なくとも5人の護衛が常に側に仕えているべきだった。
だが、むさくるしい男に付きまとわれることを嫌がったカカシは、どんなときも単独で行動している。
家臣が騒ぐ中、カカシが放った一言は、十分すぎるほどの説得力があった。

「だって、護衛より俺の方が強いだろ」

大名家の跡取り息子に似つかわしくなく、カカシは城内で一番腕っ節が強い。
飲み込みが速く、昔から何をやらせても器用にこなす。
もちろん、剣や弓も例外ではない。
音に聞こえた猛者が5、6人がかりで向かっていっても、難なく倒せるだけの技量をカカシは持っている。
だけれど、彼が大事な嫡子である事実を無視できるはずもない。

そうして家臣の必死の説得に折れたカカシが唯一出した条件が、「護衛は女。くのいちであること」。
女好きの、彼らしい妥協案だった。

 

「何か困ったことがあったら、何でも言いなさい」
「はい」
イルカが隠れ里から呼び寄せた少女、サクラは見るからに利発そうな子供だった。
カカシの一番近くに使える身として、彼女の世話はイルカが見ることになっている。

「それから、若様には十分気を付けるように」
イルカが忠告すると、サクラは少しだけ怯えた眼差しをイルカに向ける。
「・・・あの、若様ってそんなに怖い方なんですか」
「とってもね」
気性が激しいのかという問い掛けだったのだが、イルカは全く別の解釈をして答えた。

そうこうするうちに、二人はカカシの部屋のある襖の前までやってくる。

「若、連れて参りましたよ」
一声掛けてから襖を開けると、カカシは二人に背を向ける格好で座っていた。
何やら読書をしていたようだが、本を放り出してゆっくりと振り返る。
「遅かっ・・・・・」

 

 

カカシの声は、実に中途半端なところで途切れた。

暫しの間じっと待っていたイルカとサクラだが、カカシは口を開けたまま動きを止めている。
「若様?」
イルカが訝しげに声をかけたが、カカシはイルカの方には注意を向けていない。
彼がひたすら凝視しているのは、イルカの隣りにいるサクラだ。
穴があくほど見つめる、という言葉は、こういうことなのかと思えるほど見ている。

「・・・あの、若、大丈夫ですか?」
「え、ああ、だ、大丈夫」
「こちらでお世話になることになりました、サクラです」
我に返ったカカシに、サクラは恭しく頭を下げる。
「聞いてる、聞いてる。サクラちゃん、これからずっとよろしくね」

 

先ほど広間で見せた不機嫌な様子はどこへやら、サクラに歩み寄ったカカシは満面の笑みで彼女の肩に手を置く。
そして、カカシのその手は、なかなかサクラから離れなかった。

輝くばかりのカカシの笑顔に、イルカは人選を誤ったことをはっきりと悟る。
だが、時すでに遅し。
カカシが一度目に付けた獲物を何もせずに手放すことは、滅多にない。
なるべくカカシの好みのグラマーなタイプのくのいちを避けたつもりだったのだが、どうしてか、カカシは一目でサクラを気に入ったらしい。

楽しげなカカシを横目に、サクラの今後を思い、心の中で彼女に平謝りをするイルカだった。


あとがき??
ぴったしかんかん。
少々の年齢差が気にならないくらい、サクラ嬢はばっちり好みのタイプだったようです。
可哀相に、可哀相に。
というわけで、可哀相な目にあいます。たぶん。これから話、作るんで。どうしよう。
いきなり18金、いや、18禁になったり・・・。(シャレにならない)
年齢制限はないですが、とりあえず次はエロ入ると思いますので、駄目な人は2から読まないで下さい。

タイトルは思い切り香代乃先生の作品ですが内容は関係ないです。(笑)
まゆさんのところで時代ものSSを見て、唐突に書きたくなりました。
以前、お姫様サクラと忍者カカシの悲恋を書いたので、今回は立場逆にしてみた。
やっぱ時代ものはいいー。


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