忍びのオキテ 3


「このお城に残って、鶴松君のお世話係になることにしました」

開口一番、サクラの冴え冴えとした声が無情に響く。
悪夢のような出来事に、カカシは目の前が真っ暗になった。

「な、な、な、何で!!!!」
「若様、この間家にあるお金持ち出して博打で全部使っちゃったでしょう。庭に池作るって穴掘って水道管突き破っちゃうし、酔っぱらって食器棚倒しちゃうし、料理をするって言って家を半焼させたし、もう面倒見切れません!!若くて将来性のある鶴松君の方がずっと素敵です」
サクラのあげる自分の過去の失敗談に、カカシはぐうの音も出ない。

「で、でも、里に残してきた子供は」
「私が引き取ります。若様とは離婚です」
冷たく言い放ったサクラに、カカシは徹底的に打ちのめされる。
これが夢なら、早く覚めて欲しいという心境だった。

 

 

 

「あの、申し訳ないんですけど、そこ邪魔なんでどいてもらえますか」

呼び掛けと共に肩を揺すられたカカシは、はっとして目を開ける。
眼前にいるのはサクラではなく、箒を持った掃除中の女中。
そして、抱きしめているのは狸の置物だった。
どうやら一人、この場所でいじけているうちに、一夜を明かしてしまったらしい。
全て夢だったと悟ったカカシは、安堵のあまりその場にへたり込む。

「良かったーー」
「・・・あの、だから邪魔なんですけど」
新人の女中は、カカシの顔を知らないらしく、同じことを繰り返す。
普段のカカシならば文句の一つも言っただろうが、今は起こしてくれた彼女への感謝の気持ちの方が強い。

「君、誰だか知らないけど有難うねーー!!」
「ギャーーーー!!!!」
カカシに突然抱きつかれた女中は、甲高い叫び声をあげる。
混乱する女中がカカシを突き飛ばしたときには、奥女中の半数近くがその場に駆けつけていた。

 

叫び声を聞きつけた女中達が集まる中、人を掻き分けて進んだサクラは何とかその中心へとたどり着く。
そこにいたのは案の定、柱にぶつけた頭を擦るカカシだ。

「・・・何やってるんですか、若様」
何やら怒って状況を説明する女中と、頭に手を置くカカシを交互に見て、サクラは冷たい声で訊ねる。
「あ、サクラ!おはようーー」
「・・・・今、正午ですよ」
「サクラ、許してくれ」
サクラの冷静な突っ込みを無視して、カカシはサクラの手をそっと握る。

「もうお金を使い込んだり、水道管壊して一週間水を使えなくしたリ、食器棚を倒して皿を全部割ったり、火事を出して家を燃やしたしたりしないから」
「はぁ・・・」
「娘が外に遊びに行っている隙に、無理矢理バニーの格好させたり、頭に猫耳を付けさせたり、メイド服着せたり、裸エプロンを強要したりしないから」
長々と続くカカシの懺悔の言葉に、サクラの顔はみるみるうちに赤くなる。

 

「バニー・・・・」
傍らにいる女中の呟きに、気が動転していたサクラは我に返った。
ふと目をやると、周囲の視線はサクラに集中している。
目を丸くする彼らに自分達の日常をどのように想像をされているのか、怖い。

「へ、変なこと言わないでよ、馬鹿!!!私、そんなことしたことないわよ!!」
「え、じゃあ、許してくれるのか」
「さっきから、若様変よ!もう私、里に帰るからね。妙なことばかり言ってたら、置いていくわ」
サクラは自分の手を握り締めているカカシを振り払う。

 

 

 

肩を怒らせたサクラは、そのまま追いすがるカカシを無視して廊下を歩き出した。
その足が急に止まったのは、廊下の角に鶴松の姿を見付けたからだ。
鶴松は今日実家から戻ったばかりの乳母に手を引かれ、サクラに歩み寄る。

「サクラ、そろそろ帰るんだろ」
「はい」
「これ、土産だ。またいつでも来い」
にこにこと笑った鶴松は、サクラに菓子の入った袋を差し出す。
しゃがんで鶴松と目線を合わせたサクラは、有り難くそれを受け取った。
昔、サクラの里帰りを泣いて止めたカカシに比べ、鶴松の方がずっとしっかりとしている。

「次は娘も連れて来ますね」
「うん。楽しみにしてる」
昨夜写真で見たサクラの娘を思い出し、鶴松は嬉しそうに笑う。
一目見て、サクラによく似た彼女とは、良い友達になれそうだと思った。

 

「サクラの次は娘を狙う気かー!」と煩く騒ぐカカシが二人の間に乱入したのは、この直後のことだった。


あとがき??
若様とサクラの娘、モモちゃんは鶴松君のところに輿入れするのですが、もうちょっと先の話ですね。
タイトルは前作と似た物がいいと思っただけで意味無し。
しいていうなら、「城の若君はサクラに惚れる」だろうか。(それは掟ではなくジンクスか)

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