忍びのオンナ 3


「・・・・また来たんですか」
部屋に入ってきたカカシを見るなり、サクラは嫌そうに顔をしかめる。
「たまにはカエデ様やヤツデ様のところにも、行ってあげてください」
「何で」
「私が嫌味を言われ続けて、ありとあらゆる嫌がらせを受けているからです」
きっぱりと言うと、サクラは洗いざらしの着物をカカシに見せる。
「誰がやったか知りませんが、針が仕込まれてるんですよ、針が。こんなもの、気付かずに着たらたまったものじゃありません」

ぷりぷりと怒るサクラを横目に、カカシは笑い声をたてる。
サクラが城に来てからというもの、それまでカカシの愛妾だった女中達は遠ざけられ、夜のお通りはさっぱりとなってしまった。
その不満はカカシ本人でなく、サクラへと向けられる。
このままではいつ食事に毒を盛られるかと、サクラは気が気ではない。

「もー、今日は他のところで眠ってください!皆さん、体を磨いて待ってますよ」
ぐいぐいと体を押して部屋から追い出そうとするサクラに、カカシは苦笑いをする。
「そんな風に言われると、出て行きにくいなぁ。俺、あまのじゃくだから」
サクラの細い手首を掴むと、カカシはにっこりと笑う。

 

主人に向かって無礼な口を聞くサクラだが、カカシは一度も怒ったことがない。
むしろ、好感度がアップしたといっていい。
カカシの前に出ると、彼の身分を意識して人形のように大人しくなる女子が殆どなのだ。
どんなに綺麗な面立ちの者でも、それだけではすぐに飽きてしまう。

「ま、することしたら、すぐ帰るよ」
「・・・全く、もう」
小さくため息をついたサクラは、促されるままにカカシの口元に唇を寄せる。
サクラの寝所に入り込んだカカシは、ことを終えなければどうにも出ていきそうにない。

「早く着物を脱いでください。たまには日付が変わる前に寝たいんです」
「・・・サクラ、変わったよねぇ。泣きながら震えてた最初の頃が懐かしいよ」
「毎日やってりゃ、嫌でも慣れます」

 

のんびりと前会わせをはだけさせるカカシに、サクラはてきぱきと彼の着ているものを剥いでいく。
カカシの胸元には、前夜サクラが付けた印が色濃く残っていた。
自分の体にいくつも同じような痣を残されたサクラが腹いせにやったのだが、カカシは楽しげに笑うだけだ。
だから、よけいにサクラのストレスがたまっていく。

「サクラのエッチィ」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか!!」
「俺―」
嬉しそうに笑うカカシの唇を、サクラは再度塞ぐ。
これ以上話していたら、ますます就寝時間が遅くなりそうだった。

 

 

 

 

「若様に貰ったの。最高級の絹織物よ」

弾むような声を耳にして、サクラは振り返る。
そこは丁度、カカシのお気に入りの女中が住まう部屋の前だった。
カカシに贈られた絹を片手に、娘は得意満面だ。
サクラがちらりと見ただけでも上等な品物とすぐ分かったのだから、当然かもしれない。

明るい笑い声が響く中、サクラはすたすたと歩を進める。
手には、カカシの食べる昼食の膳を持っていた。
カカシの側近くにいるべきサクラが女中のようなマネをしているのは、彼に命じられたからだ。
何か理由を付け、カカシはサクラを遠ざけようとしている素振りがあった。
そして、サクラが彼に逆らう道理はない。

 

「若様、食事持ってきましたよ」
言いながら襖を開けると、カカシの目の前に見たこともない男が座っている。
おそらく、サクラが厨房に向かった後に呼び出されたのだろう。
その商人らしき風情に、サクラは先ほど見た絹は彼から購入したのだとたちまちに看破する。

「サクラ、これを今、彼から買ったんだ」
そう言ってカカシが見せたのは、緑色の光る石。
最高級のエメラルドだ。
「お前の瞳と同じ色。綺麗だろ」

カカシはにこにこと笑っていたが、サクラの脳裏をよぎったのは、イルカ以下カカシに仕える家臣団のことだった。
日頃カカシがぐうたらな生活をしているだけで目くじらを立てているのに、この上、どうしようもない買い物ばかりしていては、彼らの怒りはいかばかりか。
カカシがまるで執務に感心がなくても、何とか生活できているのは優秀な家臣のおかげだ。
イルカ達が必死に家をもり立てようと努力しているのを知っているだけに、サクラの胸は痛んだ。

 

 

「これを砕いて、何かお前が身につけるものを作らせるよ」
「いりません」

サクラはカカシの申し出を言下に断る。
驚いたのはカカシだけでなく、商人も同様だ。
旗本の年収にも値する価値のある宝石。
それをいらないと言う者がいるとは、カカシも商人も、信じられない。

「本気?誰か、他の女の子にあげちゃうよ」
「構いません。それで気が済んだら、もうこんな商人を城に呼ぶのは止めてください。そして、イルカさん達と一緒に真面目に仕事に励んでください」

サクラが真剣な表情で提言する横で、商人はただおろおろとしている。
自分の商売のこともあるが、気分屋のカカシがいつ癇癪を起こすか、気が気ではない。
臆することなく自分を見つめるサクラに、カカシは困ったように笑った。

「サクラって、本当に面白いよね」


あとがき??
いやーー、楽しかったーーーーーーーーーーーー。
何かこれ、長く続きそうですね。
果たして、サスケやナルトやいのの出番はあるのか。

元ネタは、もちろん『カルバニア物語』3巻の、ライアン&エキュー。
これ、私ごっつ好きなんですよ。全巻揃えてますが、とくに3巻はバイブルですわ!!!ライアン、ラブ!
他にもいろんな漫画のネタが盛り込まれそうです。
まだ全然先の展開、決めてないですが・・・・。
完結しないで終わったら、ごめんなさい。
とりあえず、4はそのまんまカルバニア。


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