忍びのオンナ 5
「サクラの素性を詳しく調べましょうか」
「え、何で」
「サクラがこの城に来て一年にもなりますし、若との仲も円満。側室に迎えるなら誰も文句はいいませんよ」
笑顔で言うイルカに、カカシの表情はにわかに曇る。
「・・・・側室にしか、出来ないのか」
「は?」
「いや、いい」
かぶりを振ると、カカシはイルカから目線をそらして再び歩き始める。近頃のカカシは、以前のように遊び歩くこともなくなり、城での仕事も精力的にこなしていた。
若が一人前になるまでの間という条件で、彼が幼い頃から城を治めている遠縁の小父も、そろそろ役目を終えるべきかと思い始めている。そして、カカシに多大な影響を与えたということで、サクラは城内で破格の扱いを受けていた。
だが、評判がどれほど良くとも、サクラは身分のない忍びの女。
城主夫人になれるはずもない。
「サクラ」
一日の仕事を終えたカカシは、サクラのいる部屋へと直行する。
体調を崩して臥せっていたサクラは、カカシがやってきたことに気付くと、すぐに体を起こした。「どちらか、お出かけですか」
「いや、護衛任務のことじゃないから寝てていいよ。ただ、顔を見に来たんだ」
「毎日見てるでしょ」
「仕事さえなければ、ずっと見ていたい」
真顔で返すカカシに、サクラはくすりと笑った。
昨日まで高かった熱もだいぶ下がり、サクラの笑顔も元の穏やかさを取り戻している。
サクラの額に触れ、体温を確かめたカカシはそのままサクラを抱き寄せた。サクラの側にいると、不思議と心が和んで、癒された気持ちになる。
どんなに疲れていても、サクラの顔を見ると自然と顔が綻んでしまう。
この一年の間に、カカシにとってサクラは欠かせない存在となっていた。
「サクラを、側女にしたらどうかっていう話があるんだ・・・・」
その瞬間、サクラの体が強張る。
「若まで、そんなこと言うの」
険のある声で言うと、サクラはカカシから身を離した。
若まで、ということは、他の者にも再三言われているということだ。「側女になるためにここに来たんじゃありません。私は若様の護衛任務で遣わされた者なんです」
頑なな表情でカカシの言葉を突っぱねると、サクラはぷいと横を向いた。
幼い頃から修行をし、里の忍者学校を主席で卒業したという自負がサクラにはある。
それに、カカシのことは十分に好きだが、生涯添い遂げるかどうかはまた別の話だ。「側室になれば、今よりもっと贅沢な暮らしが出来るよって言ったところで・・・」
「私がそんなものに興味を引かれると思ってますか」
「いいや」
語調を強めるサクラに、カカシは笑いをかみ殺す。
サクラがそんな女ならば、カカシはここまで心を許さなかった。
だが、今はそのことがサクラを城に留めて置く枷を付ける障害となっている。
「この話はこれで終わり。それより私が出した宿下がりの届け、若が握りつぶしたって本当?」
「うん」
答えた直後に、サクラのエルボーが見事にカカシのみぞおちにきまる。
「何でそんなことするの!」
苦悶の表情で床に転がるカカシを、サクラは目をつり上げて見下ろした。「他の城務めの女の子達はみんな定期的に帰ってるのに、何で私だけだめなのよ」
「・・・だって」
未だ腹を抱えたまま、カカシはすねたような声を出す。
「サクラが戻ってこなかったら嫌だし、里にはあいつがいるんだろ」
「あいつ??」
「ほら、あの写真の」
写真とだけ言われても、サクラは何のことか分からず首を傾げる。「写真って、どれのことよ」
「最初に会った日の夜に、サクラが大事に眺めていたやつだよ。黒髪のガキが写ってた・・・」
「ああ!」
ようやく合点のいったサクラは、勢いよく手を叩いた。「サスケくんね、懐かしい!いい男になってるだろうなぁ〜〜」
「ほら、そういうこと言うから不安になるんだよ!!」
目線を上げてぽーっとなるサクラに、カカシは嘆き声をあげる。
両手で顔を覆いしくしくと涙するカカシに、サクラは優しく笑いかけた。
「ちゃんと戻ってくるわよ。約束するから、私を少しだけ親元に帰してちょうだい」
「・・・・・」
俯いたカカシは無言のまま考え込んだ。
長い間親元から離れて、サクラはよく頑張っていると思う。
まだ13になったばかりだというのに、泣き言一つ言わない。
たまには休暇を与えるのは、当然のことだろう。「・・・サクラが膝枕してくれたら、前向きに検討する」
「はいはい」
膝を突いたサクラは、慣れた様子でカカシを促す。
「サクラってさぁ、いい匂いするよね」
「別に、何も付けてないわよ」
「うん。でも、サクラの匂いがするんだ」
サクラの膝の上に頭を乗せ、カカシは彼女を見上げる。「サクラが側にいないと眠れない」
「じゃあ、私が留守の間はツバキ様がボタン様の部屋に行くといいわよ」
なるべく自分と年の近い女中の名前をあげたサクラだが、カカシは顔を横にそらしてその言葉を否定する。
「サクラじゃないと、駄目だ。それなのに俺を置いていくなんて、サクラは鬼だ、悪魔だ、人でなしだ」
「何、言ってるんだか」
カカシの頭を撫でながら、サクラは笑い声をたてる。サクラは自分よりも体の大きな赤ん坊をあやしているような気持ちになった。
何だかとても可笑しいけれど、可愛いと思う。
これほど誰かに必要とされていることも、素直に嬉しいと思った。
あとがき??
カカシの幼児化進む・・・・・・。幼児っていうか、乳幼児。赤子。
子供が我が儘を言って、サクラママは大変です。
何かこの話、サクラが「若」と呼ばなければならないところを「先生」と書いちゃって訂正が大変です。
いやー、本当ならここいらあたりでナルチョが登場してたんですが、はぶいちゃいました。(笑)
今回、出番なし。ごめんね。