忍びのオンナ 8
「お腹、随分と大きくなったわねー」
噴水前の待ち合わせ場所で、サクラを見るなりいのは大きく声をあげた。
「うん。来月には生まれるからね」サクラは「よいしょ」の掛け声と共に、ベンチから立ち上がる。
同時に、短く切りそろえた髪が肩の上で揺れ、ゆったりとした作りの服が風になびいた。
細い体の妊婦はひどくアンバランスな気がするが、サクラの顔つきはすでに母親のそれだ。
明るい笑顔に若くして母となる不安はまるで感じられない。
純粋に、新たに誕生する命を喜んでいるのがよく分かる。「それで、話って何?」
「んー、ちょっと待って。もうすぐ来ると思うから」
言いながら、いのはきょろきょろと辺りを見回す。
「あ、来た来た」
楽しげな声に釣られてサクラが振り返ると、公園の入口付近から一人の男が駆けてくるのが見えた。
そして、遠目であっても、サクラが彼のことを見間違うはずがない。「サクラ!」
弾けんばかりの笑顔で言うと、カカシはサクラを抱き上げる。
「久しぶり!!髪、短くしたんだな」
「きゃーーー!!!」
突然不安定な体勢になったサクラは悲鳴をあげた。
もちろん、サクラが落ちないようカカシはしっかりと支えているのだが、突然のカカシの登場に頭はパニック状態だ。
「わ、わ、若様、どうしてここに!!」
「ああ、大丈夫。今回はちゃんと正規のルートで里に入ってきたから。ほら」
サクラを下ろすと、カカシは里の入るための許可書をサクラに見せる。
だが、それは隠れ里の忍びにしか発行されないものだ。「どうやって偽造したのよ!お金、物凄くかかったんじゃないの」
「・・・・何でそっち方向に考えるのかなぁ」
「若様はね、今日の日付でうちの里の忍びとして承認されたのよ」
カカシが額に手を置いてため息をつく間に、傍らにいたいのが言葉を引き継ぐ。「いの?!」
「実はね、いのちゃんとはサクラに内緒で連絡を取り合っていたんだ」
「そう。私の方からも火影様に働きかけて、若様をこの里の剣術指南役として迎えることになったの」
「前に来たとき、里の忍者何人か倒しただろ。一応テストはあったけれど、それで実力の方は認めてくれたみたいよ」
カカシといのは、息のあった様子で口裏を合わせる。
次々と明かされる思わぬ事実に、サクラは開いた口が塞がらなかった。
二人がこれほど親密だったことも驚きだが、それ以上に、カカシが隠れ里にいることがまだ信じられない。
「じゃあ、またねー」と手を振って去っていくいのを見送ったあと、サクラはカカシに向き直った。「あの、お城の方は、どうなったんですか!?」
「養子に全財産譲ってきた」
「ええ!??」
「一昨年、俺の異母姉が嫁ぎ先の国で双子の兄弟を生んだんだ。その弟の方を養子として城に引き取った。いろいろ手続が面倒くさくて今までかかっちゃったんだけど、子供の守り役にはイルカを指名しておいたから、城のことは心配しなくていいよ」
「そ、そんな勝手なことをして、イルカさんは怒らなかったんですか」
「イルカが言ったんだよ。茫然自失状態の俺に、サクラを追いかけた方がいいって」
先ほどからずっと目を丸くしているサクラの頭を、カカシはぽんっ叩く。
「サクラは人を見る目があるね。イルカは本当に損得抜きに俺のことを心配してくれていたみたいだ」
晴れやかな笑顔を浮かべるカカシに、サクラはもう二の句が継げなかった。
あまりの急展開にまだ頭の中で整理が付かない。
呆然としているサクラの肩を掴むと、カカシは彼女と目線を合わせるようにかがみ込んだ。
「俺ね、欲しいもの分かったよ。たぶん、それはサクラがいないと手に入らないんだ。好き勝手やって出てきたから城からの仕送りは望めないし、無一文になっちゃったけど・・・・・・それでも、一緒になってくれる?」
言い終えたカカシは、おずおずとした様子でサクラを見つめる。「格好悪いプロポーズね」
不安げな眼差しのカカシに、サクラは半ば呆れて呟く。
だけれど、その顔は満面の笑みだ。「私がそんなこと、気にすると思ってるの?」
あとがき??
とことんハッピーエンド好きーなのです。
数年前、不幸な死にネタカカサクを読んで一週間立ち直れなかった事件以来、トラウマに。
私はどんなにご都合でもいいから、後味のいい話が書きたい。もうこんな長編、当分書かなくていいです。
私、飽き性だから。長いと、書いている途中で放り出したくなる。駄目ね。
長編って、大抵は1か2を書いて満足するので3以降急速に筆が止まるんですが、この作品は超すらりとラストまでいきました。
私が書きたかったのは、緑の宝石のネタと、「私、まだ13なんですけど」と言うサクラの場面だけだった。
その二つをつなげたら、自然とこんなストーリーになっていたんですよ。
ライアン=カカシ先生、エキュー=サクラのイメージで書いていたので、先生は小姓をはべらせる男好きにしようと思ったんだけれど、クレームつきそうなのでやめました。
個人的にはそれでもOKだったんですが。うちのカカシ先生はサクラに会えば彼女に夢中になるので。あと幸せ好きーなのに、幸せすぎる駄文を書いていると暴れたくなる。というか、息苦しい。
幸せって、凄い。
もしや、どすぐらい話の方が向いているんでしょうか。
後ろを読み返さない行き当たりばったり駄文なので、私のいい加減さがよく出た話だと思われます。