忍びのオキテ 1
「これはこれは、珍しい方々がいらしたものだ」
「どうも、ご無沙汰していて申し訳ございません」
満面の笑みで二人を出迎えたイルカに、サクラは恭しく頭を下げた。
行儀悪く、畳に足を伸ばして座るカカシは、ぶーぶーと不満を漏らす。「何だよー。別に、そんなにぺこぺこすることないだろ。実家に帰ってきただけだし」
「若様、行儀が悪いわよ!その座り方はなんですか!!」
カカシの足を叩いたサクラは、厳しく叱りつける。
サクラが城を出てから4年の月日が流れていたが、全く変わらないその様子にイルカは苦笑いをした。
「あ、そうだ。サクラ、お前が来てるって言ったら、奧務めのカエデとヤツデが会いたがってたぞ」
「え!?二人とも、まだここにいるんですか」
昔話の合間に出た懐かしい知己の名前に、サクラは目を輝かせる。
「ああ。奥の間の部屋も変わってないから、行っても大丈夫だぞ。警備の者には言ってある」
「有難うございます」一礼して客間を出ようとするサクラを見て、カカシもあとに続こうとした。
だが、襖の手前で振り向いたサクラは、カカシの体を強く押し戻す。「若様はここで待っていて!」
「・・・何で」
「女の子を見たら、すぐ色目を使うんだから。奧の女中部屋は出入り禁止よ」
言葉と共に、サクラは襖をぴしゃりと閉めた。
呆気にとられたカカシは、後ろから聞こえてくるくすくす笑いに眉を寄せる。
「何だよ」
「すっかり尻に敷かれてますね」
「悪いか」
頬を膨らませて、カカシはまた同じ場所に座り直した。
何だかんだと言いつつサクラに従っているカカシが可笑しかったのだが、これ以上からかえば怒り出すという手前で、イルカは話を切り替える。「そういえば、お嬢さんは随分大きくなったんじゃないですか」
「うん。もう3歳だよ」
イルカの思惑通り、カカシの顔はたちまちに緩んだ。
「見て見て、これアルバム。可愛いだろ〜〜vv」
カカシは常に持ち歩いている愛娘のアルバムをポーチから出してイルカに見せる。
それには、カカシが自慢するのもしょうがないと思える愛らしい少女の写真がずらりと貼られていた。
娘に対するカカシの溺愛振りがはっきりと見て取れる。「良かったですねぇ。娘さん、お母さんにそっくりで」
感慨深く呟いたイルカを、カカシは半眼で睨み付けた。
「・・・・どういう意味だよ」
カカシとイルカがアルバムを広げていた頃、サクラは奧の廊下をゆっくりと歩いていた。
「全然、変わらないわね・・・・」
城でのことをいろいろと思い出しながら歩いていたサクラは、廊下の片隅に、一人の子供がいるのを見付けた。
背の低い彼は、足下に台を置き、格子戸から外を眺めている。
年は3つになるサクラの娘よりも、少し年長だろうか。
きちんとしたその身なりから、サクラは城勤めの人間の子供だと推測した。「何が見える?」
すぐ後ろから声をかけると、少年は目を丸くして振り返る。
白い髪、青い瞳の彼を、サクラはどこかで見たことがあると感じたが、正確な場所や時間は思い当たらなかった。
「見ない顔だな。何者だ?」
「以前ここにいた者です。今日は久方ぶりに顔を出したのですけれど」
どことなく気品のある少年に、サクラは思わず敬語になる。
この年頃でこうもはきはきと喋れる子供を、初めて見た。
しかるべき教育をうけている証拠だろう。「ああ、あれを見てたんですか」
サクラは少年の後ろから、外の様子を眺める。
そこには、親子の鳥が枝にとまって羽を休めていた。
巣立ちの最中なのか、子供の方はまだ飛び方がぎこちない。
少年に視線を戻すと、サクラはにっこりと微笑む。「可愛いですね」
「うん」
サクラと同じように笑った彼は、しっかりと頷く。
ふと見ると、少年はサクラの服の袖を強く握っていた。
「おまえ、私と遊んでくれるか」
あとがき??
何だか、すごく懐かしかったです。我が儘若様のカカシと、忍びの女のサクラ。
『忍びのオンナ』、書き終えてあんまり時間経っていないのにね。
娘の名前はモモちゃんです。