遠い音楽 T


木ノ葉隠れの里にチェーン展開し、大盛況のラーメン屋“一楽”。
その本店で、ナルトとイルカは肩を並べて一楽特製ラーメンを食べていた。
5年の間木ノ葉隠れの里を離れ、自来也と共に旅をしていたナルトには、このラーメンこそが故郷の味だった。

 

「ナルト、お前、随分背が伸びたよなぇ。もう俺よりも大きいだろ」
「そう、かな」
ナルトは、エヘヘッと嬉しそうに笑う。
「クラスで一番のチビが、立派になったもんだよ」
イルカは傍らに座るナルトを頼もしげに見る。
少年らしさを残した体はまだ幾分線が細いが、これから鍛えていけば、見違えるほど逞しくなるだろう。
未来の火影への道を、ナルトは着実に歩んでいる。
元担任として、イルカはナルトの成長振りを我が事のように喜んでいた。

「そ、それで、イルカ先生にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「・・・ん、何だ」
「サクラちゃんのことなんだけどさ、元気にしてる?」
体をもじもじとさせたナルトは、少しばかり頬を染めて訊ねる。
ナルトの初恋の人、サクラはいまだに彼にとって特別の存在のようだ。
だが、上目遣いで自分を見るナルトに、イルカは表情を暗くする。

「サクラは・・・・、療養所にいるよ」
「え!!?」
思いがけない言葉に、ナルトは大きな声をあげる。
「ど、どこか悪いの?病気、それとも怪我」
「うーん。そういうのじゃないんだろうけど」
視線をそらしたイルカは、言い難そうに答える。
「まぁ、会えば分かるよ」

 

非常に気になることを言い残して、イルカは“一楽”から出て行った。
昼休みを終え、これからまたアカデミーの授業があるのだ。
ナルトの方はといえば、残ったラーメンを大急ぎで口にかっ込む。
イルカの言った療養所は、丁度“一楽”から目と鼻の先の場所にあった。

 

 

 

「春野サクラさんでしたら、この突き当たりの部屋にいらっしゃいますよ」

看護婦に、優しい笑顔で言われる。
サクラがこの場所にいるというのは、間違いないようだった。
ナルトはショックを感じつつも、その部屋へと向かう。
彼女がどういった状況でここにいるのかは、怖くて訊けなかった。

療養所の一番奥まった場所にある部屋、その前で、ナルトはごくりと唾を飲み込む。
深呼吸を繰り返し、恐る恐るドアノブに手をかけると、ナルトがそれを回す前に扉が開いた。
中から出てきたのは、驚くことに、ナルトのよく知る人物。

 

「ナルトか」
7班でのナルトの担任だったカカシが、寸分変わらぬ姿でそこにいた。
「お前、ラーメンの汁が服に飛んでるぞ。もうちょっと落ち着きを持てって、前から言ってるだろ」
服に染みの出来た個所を指差すと、カカシは屈託なく笑う。
その笑顔があまりに昔のままで、ナルトは自分が12のときに戻ったような錯覚に陥った。

「・・・・お久しぶりです」
「うん。元気そうだな」
目線のほぼ同じナルトの頭に、カカシは手を置く。
そのまま乱暴に撫でられたが、ナルトは少しも不快に思わなかった。

 

カカシにばかり注意がいっていたナルトは、ふいに、顔を下方へと向ける。
何か視線を感じると思ったのだが、確かに、そこには人がいた。
カカシの足元にいるのは、小さな子供だ。

「サクラちゃん!?」
彼女の顔を見るなり、ナルトは目を丸くしてその場にしゃがみ込んだ。
4つほどの少女は、自分をじろじろと眺めるナルトを恥ずかしそうに見やる。
実際、彼女がサクラのはずはないのだが、薄紅色の髪と緑の瞳、その面立ちはサクラに似すぎていた。

「この子はモモちゃん。サクラの娘だよ」
「む、娘ーー!!?サクラちゃん、結婚してたの!」
「いや」
首を振ったカカシは、開いたままの扉から部屋の中へと視線を移す。
「ちょうど今、昼食を終えたばかりだ。会うか?」

 

カカシにつられるように室内を見たナルトは、すぐにサクラの姿を見つけた。
真っ白な壁に覆われた内装は、それだけで清潔な匂いを感じさせる。
ベッドやソファーの他にも、生活に必要なものは揃っているその部屋は、あまり療養所内だということを感じさせない。
緑の多い庭へと続くテラスも有り、ここだけ見たのならある邸宅の一室のようだ。

「サクラ、ちゃん・・・」
立ち上がったナルトは、もうサクラしか目に映していない。
ゆっくりと室内に入ると、ソファーにもたれて窓の外を見つめていたサクラが振り向いた。
水色のワンピースを身につけた彼女は、髪を腰の辺りまで伸ばし、見違えるほど大人びた顔になっている。
一見外傷はなく、健康そうだ。

にっこりと微笑んだサクラに安心したのも束の間、彼女の呟いた言葉に、ナルトは頭を殴られたかのような衝撃を受ける。

 

「誰?」


あとがき??
変な話ですね。そろそろ止めたいような気が。(続きを考えるのが面倒、というわけではないです・・・・)
私の作品にはサクラの娘がたびたび登場しますが、カカシファミリーシリーズのときは“小桜”、それ以外では“モモ”という名前のようです。
ナルトの年齢は二十歳前後。

これ、随分前に書いた話なのですよ。
サスケが里を抜けた今となっては、かなりシャレにならない話になってしまった。
ので、今のうちにアップしておく。
パラレルですので。パラレル、パラレル。(←何でも許される魔法の呪文)


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