子供の情景


俺は子供が苦手だ。
我が侭だし、すぐ泣くし、全く理解不能な生き物だ。
自分も昔子供だったことが信じられない。
本当のところどう扱っていいのか分からないから、近づいて欲しくないと思っていた。
それが何の因果か下忍3人を担当するはめになってしまった。
だからあいつらに最初に会った時、ちゃんと「嫌いだ」と言っておいた。

その自分が今、まだまだ子供の生徒の一人と親密な間柄になっていたりする。
全く人生何が起こるか分からない。

 

「ほら、サクラそろそろ起きろ」
「んー」
部屋の明かりをつけると、サクラが眩しそうに目を開けた。
「せんせー、今何時―」
「9時」
「え、嘘!」
サクラが急いで身を起こした。
枕もとの時計に目をやると、時計の針は確かに9時を指している。
「大変、門限過ぎちゃってるー!!先生、服とって、服」
「ハイハイ」
カカシは事前にたたんでおいた服をサクラに手渡す。
手早く身支度をしながら、サクラはカカシを非難する。
「先生、何でもっと早く起こしてくれないのよ」
「だって、凄く気持ち良さそうに寝てたから」
「それこの前も聞いた!」
急いでいるサクラとは対照的にのんびりした口調で話すカカシにサクラは怒鳴った。
全く動じずカカシが応じる。
「もう門限過ぎちゃったんだから、いくら遅れても一緒だよ。ご飯作ったから食べてから帰りな。家に電話いれてさ」
サクラは未だにぶーぶー言っているが、服を着終えるとちゃんと電話のある方に向かって歩いていった。

「先生さ、この家いつ来ても綺麗だけど、彼女が掃除してくれてるの?」
カカシの作った明太子スパゲティーを頬張りながらサクラが尋ねる。
「いや、彼女なんていないけど」
「へー、意外。先生なら3〜4人いてもおかしくないと思うけど。まぁ、先生若いし、彼女に束縛されるより遊び友達が何人もいる方が楽しいか」
アハハと無邪気に笑いながら、サクラはとんでもないことを言っている。

 

サクラと深い関係になったのは、波の国のタズナさんの家でだった。
夜中にサクラが自分の部屋に忍んできたときは心底驚いた。
まだ体も本調子じゃなかったし、自分に圧し掛かってきたサクラを拒むのも面倒くさかったから、そのまま受け入れてしまった。
今思うと、かなりまずかったよなぁと思う。
ここまで彼女にのめりこんでしまうとは、予想外だった。

それは最初の波の国での夜、全てが終わった後のこと。

「ねぇねぇ、カカシ先生、私上手かったでしょ」
「まあね」
サクラはかなり慣れた様子で奉仕してくれた。
本当はまあねどころか、かなり気持ちよかったりしたが、何となく口に出すのははばかれた。
それでもサクラは嬉しそうに笑う。
「イルカ先生も誉めてくれたのよ」
「イルカ先生?」
どうやらサクラは自分の担当する教師とはよくこうした行為をしていたらしい。
「だって、どの先生にも一番に思われていたいじゃない」
優等生のサクラは胸を張ってそう言った。
「それで今まで上手くいってたんだ」
「もちろんよ。筆記でももちろんいつも満点だったし、どの先生も皆私のこと可愛がってくれたもの。ねぇ、カカシ先生も私のこと可愛いと思う?」
「うん」
俺が即答すると「良かった」といってサクラは頬を緩ませたが、すぐにその表情が曇る。
「でもね、イルカ先生の一番には私結局なれなかったの。私がいくら頑張っても、イルカ先生の一番はいつだってナルトだったのよ」

寂しげに笑ってサクラは窓の外に目をやった。
二人のいるベッドからは、ちょうど綺麗な満月が見える。
月明かりに照らされて、半身を起こしているサクラはいつもとは別人のように大人びて見えた。
そして、サクラにそんな表情をさせることができるイルカが妙に疎ましく思えた。
でも、それが何故なのか、努めて理由は考えないようにした。

 

「じゃあ、そろそろ帰るから」
カカシが考え事をしている間にサクラはすでに食事を終えていた。
洗面所でうがいをすると荷物を持って玄関に立つ。
「明日は用事があるから、来れないわ」
「送ってく」
「一人で大丈夫よ。また明後日ね」
笑顔で言うサクラの腕を引いてカカシは深く口づける。

名残惜しむように離れがたい唇をお互いようやく離す。
「先生、キス上手いよねぇ」
少し潤んだ瞳でカカシを見上げ、その体を預けながらサクラが言った。
「それは誰を比較して言ってるのかな」
カカシはそう切り返すが、サクラも負けてはいない。
「でも、私の周りで一番キスが上手いのってナルトなのよ。先生知ってた?」
「ナルトォ?」
その意外な言葉にカカシは素っ頓狂な声をあげる。
あのナルト以下だと言われたみたいで心外だ。
「先生も試してみたら」
サクラがクスクスと意地悪く笑う。

「ナルトともこんなことしてるんだ」
「まさか。ナルトとはキスだけよ。本当に火影になる実力があれば別だけどね」
「サスケは?」
「論外。サスケくんは綺麗過ぎて手出せないわ。観賞用には良いけど、うかつに近づけはこっちが傷ついちゃう。綺麗な花には刺があるのと一緒。一定の距離を保って遠くから眺めるのがちょうど良いのよ」
サクラはわかったような口調で、サスケの姿を思い出したのかうっとりした顔で言った。
「でもカカシ先生は別―。こうしてくっついてるのが気持ちよくて好き」
そう言うとサクラはカカシの背中に腕を回してきた。
サクラのそんな軽い一言にも幸せを感じてしまうカカシは自分が情けなくなってきた。
「それは俺が上忍だから?」
つい口から出たカカシのその問いにサクラは笑うだけで答えなかった。

 

次の日、カカシは新しい本を入手するために久しぶりに人通りの激しい道を歩いていた。
さすが上忍なだけあって、人ごみの中全く誰にもぶつかることもなくスイスイと進んでいく。
「あれ、カカシじゃない」
そこにカカシと同じ上忍仲間のくの一、紅が声をかけてきた。
彼女も任務がオフの日なのか、ラフな格好だ。
「珍しい。こんな人が多いところにあんたがいるなんて」
「たまにはね」
そこでなんとなくお茶でも一緒に飲もうという話になった。

最近気が付くと、カカシは桜色の髪に敏感に反応している。
その時も視界の隅に入った桜色の髪の娘を無意識に目で追って振り返った。
はたして、それは本物のサクラだった。
しかし彼女には連れがいる。
サクラの元担任のイルカだ。

「ちょっと、どうしたの。顔怖いわよ」
その声に反応して、カカシはようやく自分が立ち止まっていたことに気づいた。
紅が怪訝な顔をして、カカシの視線の先を見る。
「あら、あそこにいるのあなたの班の娘じゃない」
「・・・ああ」
カカシの心中を知ってか知らずか、紅は言葉を続ける。
「あの娘、綺麗になったわねぇ。あれは恋する瞳だわ」

 

そう、サクラは以前一度だけ見せたことのある、愁いを帯びたどこか艶っぽい表情をイルカに向けていた。
あの夜以来、自分といるときはそんな顔をしたことはない。
紅の言うとおり、ひどく綺麗に見えた。

 

「帰る」
そう言うとカカシはクルリと方向転換して走るようなスピードで歩き出した。
「え、ちょっと。どうしたのよ」
カカシの“俺に近づくなオーラ”を察して紅は後を追わない。
しかし、突然のカカシの変化に紅は首をかしげるばかりだ。
そしてこう呟いた。
「おなかの調子でも悪いのかしら?」

 

その日の任務が終わった後、いつものようにサクラはカカシの家に来た。
「カカシ先生―。今日はケーキ買ってきたのよ。一緒に食べようね」
扉を開けたカカシに笑顔を見せ、サクラはさっさとあがりこんで台所に向かう。
「この世で一番美味しいケーキはやっぱりヤフジのチョコ生ケーキよね」
サクラはケーキに夢中だ。
ケーキを皿に並べながら眼をキラキラと輝かせている。
テーブルの向かい側でカカシはその様子を微笑んで見つめていた。

サクラがお茶を飲んで一息ついたところで、カカシは唐突に確信をついた話を始めた。
「それ、イルカ先生がつけたんだろ」
カカシはサクラの首筋にはった絆創膏を指差して言う。
「あれ、ばれてた」
サクラが軽く舌をだしてその絆創膏をはがした。
そこにはカカシが予想したとおり、赤い痣ができていた。
誰かの愛撫の後。

「先生だって昨日紅先生と歩いてたじゃない。ちゃんと気づいてたんだから。彼女いないなんて言っておいて隅に置けないわねぇ」
サクラがからかうように笑う。
「紅とはそんなんじゃないよ。それよりイルカ先生とはよく会ってるのか」
「私いっつもここに来てるじゃない。昨日はたまたま会っただけよ」
カカシは珍しく終始真顔だ。
その視線に居心地の悪さを感じたのか、サクラの顔から笑みが消える。

「やだ。カカシ先生、なんだか尋問してるみたい。どうしちゃったの」
「俺は自分以外の男がサクラに触れるのが嫌なんだ」
カカシのその告白にサクラは唖然とした顔をする。
カカシの口からそのような台詞が出るとは思ってもみなかったようだ。
まじまじとカカシの顔を見つめてくる。
「・・・先生、そんなこと言ったら私のこと好きみたいなんだけど」
「好きなんだよ」
カカシはいい加減鈍いサクラにイライラしている。
「それじゃ駄目か」
急に頼りない声を出したカカシにサクラは困った顔をする。
「でも、私子供だし、先生と全然つりあわないから」
「子供でもサクラが良いんだ」
「大人になったら、今と全然変わっちゃうかもしれないよ」
「変わっていくサクラを見たい」

いずれサクラが中忍になれば、直接的な接点もなくなる。
彼女は何食わぬ顔で新しい上司と良い関係を保とうとするだろう。
そうなれば、もうサクラは自分に見向きもしなくなるかもしれない。
そのことを考えるだけで、カカシは気が狂いそうになる。
いや、こんな自分の半分の年齢の子供相手に真剣になっているあたり、もう狂っているのかもしれないと思う。

それまで当惑した表情だったサクラが、カカシの本気の想いを察して決然とした顔をして言った。
「わかった。私先生だけの女になる。だって先生を裏切ったら殺すでしょ」
サクラは頭が良い。
すぐに自分の置かれた状況を判断することができる。
殺されるのは、相手の男のことなのか、サクラのことなのか、または両方なのか。
それはその時にならないとサクラには分からない。
こうして一緒にいると優しすぎてつい忘れそうになるが、カカシは上忍なのだ。
抵抗する術はない。

「そんなことはしないよ」
一応サクラの了承を得て気が楽になったのか、少し表情を緩めてカカシは言う。
「ただ死ぬだけ」
どう違うのよーっとサクラは不満をもらす。

 

全然違う。
男はともかく、サクラを殺すことなんて絶対にできない。
愛してるから。
今日だって、本当は誰の目にも触れることがないように殺してしまおうかと思っていた。
でもサクラの笑顔を見ていたらどうしてもできなかった。
そう、死ぬのは俺だ。

席を立ったカカシはサクラを後ろから抱きしめた。
そのままサクラの髪に顔を埋める。
サクラはされるままにカカシに身を預けていたかと思うと、こう呟いた。
「先生、欲しいものは絶対に手に入れなきゃ気が済まない人でしょ。子供みたい」
「じゃあ、子供のサクラとちょうどつりあうじゃないか」
「でも、上忍の先生が必死になるほど私には価値ないのに」

 

俺が笑っているから、サクラはまだ気づいていない。
自分がどれほどサクラを欲しているのかを。
この強すぎる想いを知ったら、サクラが恐れて近づかなくなるかもしれない。
笑っている余裕のある今は笑顔でそれを隠しておく。

「サクラが望むならなんだってあげるよ。全部あげる」

だから。
サクラ、どうか裏切らないで。
俺を殺さないでくれ。

カカシはそう祈りながら涙を一つ零した。
そうまでしてサクラを手に入れたいのかという、情けない自分への憐憫の涙だったのかもしれない。


あとがき??
なんだろう。サクイルでサクカカ(カカシ受け!!)で、精神的にはカカサク??
ダーク過ぎるわ。
こんなんあったら嫌すぎる小説NO.1っす。
もうNARUTOじゃない!パラレルパラレル。
浮気したら死んでやるーって言われたら怖いなぁと思った話。
殺してやるーも怖いけどね。
それにしても、イルカファン、サクラファンを怒らせる可能性大。ビクビク。
結局、サクラちゃん、イルカ先生とはどうなったんだろう。(投げやり)


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