隣のヒットマン 1
何十メートルと続く壁沿いの道を歩き、彼は何とか母家の玄関へと繋がる門の前までやってきた。
今日からこの屋敷の主人に仕える身として、きちんとスーツを着込んでいる。
屋敷にいる子供の住み込み家庭教師として雇われた彼だったが、それは表向きのこと。
その正体は大規模な犯罪組織に所属するプロの殺し屋だった。
今までに仕留めたターゲットは99人。
あと一人、100人目には組織から特別ボーナスが支給されることになっている。
一生遊べるだけの金額が彼の口座に振り込まれ、あとは仕事を引退して南の島で悠々自適の生活が待っているはずだった。一代で財を築いた当主は今年75歳で亡くなり、年若い彼の未亡人が今の屋敷の主人だ。
一昨年結婚したばかりの、4番目の妻だという。
再婚を繰り返した色ボケじじいの後家はどんな顔をしているのか、彼は密かに楽しみにしていた。
彼女こそが、彼の殺しのターゲットなのだから。
「奥様。家庭教師のはたけカカシ先生がお見えになりました」
白髪の執事に伴われてやってきた部屋で、彼は視線を彷徨わせた。
失礼だとは思ったが、未亡人とおぼしき人物がその部屋にいなかったからだ。
彼の目の前には、ソファに座っている10代前半の少女と、彼女と同じ年頃の少年。
「あの・・・・」
「こんにちは。この子が先生の教え子になるナルトです。よろしくお願いしますね」
怪訝な表情のカカシに、少女ははきはきとした口調で言う。
だが、それはカカシの訊ねたかったことではない。「君は?」
「この家の主、春野サクラです」
ぶしつけに訊ねるカカシに戸口に控える執事は眉をひそめたが、サクラは気にせずに答えた。
そして、カカシは彼女を見つめたまま開いた口が塞がらなくなる。
当主は今年75歳で死んだ。
結婚したのは、一昨年。
4度目の妻。
カカシの頭の中で今まで聞いた情報がぐるぐると回る。
今回の殺しの依頼は、遺言により遺産の取り分が減ったことを妬んだ当主の子供達からのものだ。
だが、カカシの目から見て、眼前の少女は財産目当てに老人に取り入った悪女にはまるで見えなかった。
「あの人、俺と同じ匂いがする」
カカシに聞こえないよう、小声で耳打ちしたナルトの頭をサクラは優しく撫でる。
白い歯を覗かせたサクラは、少し寂しげに笑った。
「そう・・・」
翌日から、ナルトの勉強の手伝いを始めたカカシだったが、その場には常にサクラの姿があった。
ナルトと同じ12歳、サクラには勉学は必要ないのかというカカシの問いは、彼女に大学の卒業証明書を見せられて解決する。
正式に学校に通ったわけではないが、独学で勉強して大卒の免状をもらったという話だ。「じゃあ、何で貴方はこの勉強部屋にいるんです?」
「私達はずっと一緒ですから」
勉強机に向かうナルトの隣に椅子を運び、サクラは授業の様子を傍観していた。
言われて気づいたが、いつもいつも、不自然なほどこの二人は行動を共にしている。
「ナルトは貴方の弟なんですか?」
「いいえ。ナルトは私の命を狙って屋敷に来た最初の殺し屋です」
微笑みながら答えるサクラに、カカシは思わず唾を飲み込んだ。「どうしました、先生?ご気分でも悪いんですか」
「だ、大丈夫です。それなら、何でナルトを警察につきださずに近くにおいているんですか。こうして、教育まで受けさせて」
「だって、ご飯をあげたら懐いてしまったんだもの。こう見えて、結構役に立つんですよ。庭のお花の世話をしたり、家に入り込んだ不審人物を始末してくれたり」
「始末・・・・・」
小さく呟いたカカシの顔を見て、サクラはくすりと笑う。
「カカシ先生のことじゃないですよ」
調べれば調べるほど、分からなくなった。
依頼主は遺産の半分をもぎ取っていたと言ったが、実際にサクラが譲り受けたのは全体の10分の1にも満たないもの。
しかも、住んでいる屋敷以外の財産は殆どボランティア団体に寄付をしている。
サクラの暮らしぶりは実に質素で、服も食事も一般の家庭となんら代わらないものだった。「何だか俺、分かんなくなっちゃったよー」
夜半過ぎ、屋敷に働く人間達が寝静まったことを確認してから、カカシは廊下の電話を自室に持ち込んだ。
そうしてダイヤルを回した相手は、同じ組織に所属する殺し屋仲間のアスマだ。
「おいおい。ターゲットにあまり近づきすぎるなよ。情が移ると殺せなくなるからな」
「そうだけど」
見えないと知りつつも、カカシは口を尖らせて話し続ける。
「でもさー、可愛い子なんだよね。あと5年もすればかなりの美人になりそうだとか、あの歳で未亡人ってのも興味があるっていうか、いつも一緒のナルトとは風呂や寝室も一緒なのかとか」
「でも、殺すんだろ」
「そうだよ」
カカシはしっかりと首を縦に動かす。「だけど、ナルトがちょこまか動いて邪魔するんだよねぇ。毒を盛ったお茶は横から手を出してカップをひっくり返すし、4階のベランダから突き落とそうとしたら直前で俺に飛び付いてくるし、知っててやってるのかな」
「そのナルトって奴が未亡人の命を狙った殺し屋ってのは、確かな話なのか」
「さぁ?からかわれてたのかも」
とぼけた声を出すカカシに、アスマは念を押すように言う。
「未亡人を殺らないとボーナスはふいになるんだからな。今までの苦労を無駄にするなよ」
「承知してるよ。首尾良く始末すれば、左うちわの生活が待っているんだから」
会話に熱中するカカシは気づいていない。
庭に面した窓の外、一対の青い瞳がカカシの言動を注意深く観察していた。
あとがき??
元ネタはそのまま映画の『隣のヒットマン』。どこがだって?(笑)
あとは川原由美子先生の『観用少女』「空中庭園」とか、谷瑞恵先生の『夜想』とか、河村恵理先生の『刻読み』とか、いろいろ混じってる。
全部を読んでいる人は続きもまる分かり。(笑)ナルトは結構おいしい役所ですね。自然と愛がこもるキャラ。ちなみに、この話にサスケは登場しません。
なぜなら『五月雨 2』を執筆中に行き詰まり、気分転換で書いた駄文だからです。(^_^;)
その割りに力入っている気がしますが、1を書いたら満足したのでもういいかな。
サクラが結婚した理由とかカカサクでラブラブとかナルトの正体とか、いろいろ書いてない場面もあるけど。また今度。