隣のヒットマン 2


屋敷の中央通路には色々な絵画が掛かっていたが、人物画は一枚だけだった。
やや高い位置にあるその絵をカカシは背をそらして眺める。
金髪碧眼の、厳しい顔つきの青年。
誰なのかは分からないが、どこかで見た覚えがあるような気がした。

「・・・・誰だっけ?」
「私のご隠居様です」
返ってきた言葉に驚いて振り返ると、サクラがカカシを見上げて微笑んでいる。
「ご隠居様の若いときの肖像画。私にはいつも笑顔で接してくれていたから、別の人みたいに見えるけれど」
「サクラのご亭主だったんだ」
カカシはもう一度その絵画をまじまじと見つめた。
整った顔立ちをしているが、サクラと出会ったときにはもう70を超えている。
昔の面影は微塵もなかったに違いない。

「随分と男前だったんだね」
「私と一緒になった頃はもっといいお顔をされていましたよ」
彼のことを褒められたサクラは、嬉しそうに顔を綻ばせて応える。
その表情に、不幸の影はまるで見あたらない。
「今日、私は庭でお花の手入れをしていますから、ナルトと二人で授業してくださいね」

 

 

 

年齢の差は大分あったが、サクラは夫を心から愛していた。
夫の方も、おそらくサクラを大切に慈しんでいた。
彼のことを話すときのサクラの顔を見れば、二人の間にある愛情の深さが伝わってくる。
だが、そのことに、何故自分がショックを受けているかがカカシには分からない。
これならば、好き者の老人に無理矢理妾にされたという事実の方がまだましだった。

「先生、終わったよ」
ナルトに促されて、カカシは今が授業中だったことを思い出す。
「ああ、悪い悪い。じゃあ、次はこの問題集な」
誤魔化すようにテキストを渡すと、ナルトは教材ではなく、カカシの顔をじっと見据えていた。
不思議な色合いの瞳は、心の底まで見透かすような澄んだ青。
意味もなく、カカシは落ち着かない気持ちで視線を逸らす。
「な、何?」
「先生は、サクラちゃんのこと好きなの?」
唐突に切り出したナルトに、カカシは思わず息を呑んだ
自分自身でも気づいてなかった感情を、目の前の少年に言い当てられたような気がした。

 

「あんな見え見えの方法で人を殺そうなんて、プロならしないよね。まるで気づいてくれって言っているみたいに。ターゲットが子供だから躊躇したの?それともサクラちゃんだったから?」
「・・・・今まで相手が子供だからって、油断したことはないよ。ただ、彼女の顔を見ると殺意が萎えちゃって」
顎に手を当てたカカシは、困惑した表情のまま呟きを漏らす。
「よく分からないけど・・・、好きなのかもしれない」
「彼女がお金を持っているから?」
「いいや。金なら、この仕事を終えれば自ずと入ってくるんだ。それより、こんな大きな家で世捨て人のように暮らす生活なんてサクラに似合わないと思う。あと、いつもの表面だけの作り笑いじゃなくて、日の光の下で笑う顔を見てみたい」
何の思惑もない、カカシの真っ直ぐな答えにナルトは微笑を返した。

「合格だね」
「・・・何が」
「お姫様の呪縛を解く資格のある、王子様ってこと」
にこにこ顔のナルトの意味不明な回答に、カカシは首を傾げる。
戸惑うカカシを気にせず、ナルトは出入り口の扉を指差した。
「問題集でも何でもやるから、先生は彼女のところに行ってあげて。花壇の場所は分かっているよね」
「お前は?」
机に向かうナルトは振り返らずに、ただカカシに向かって手を振っている。

理由を聞かれても、分からない。
ただ、ナルトの後ろ姿を見やったカカシは、彼と顔を合わせるのはこれが最後のような気がしていた。

 

 

 

「お屋敷の木には綺麗な花が咲くんだね」
「せ、先生!」
突然の呼び掛けに、サクラは目を見開いた。
サクラがいたのは、花壇のすぐ近くにある桜の木の上。
満開の桜に興味を引かれたのか、一番見事な木の枝に座り込んでいる。
「授業中じゃなかったの」
「休憩。あ、下りなくて良いよ。俺がそっち行くから」
慌てて脚立へと向かうサクラを制して、カカシは器用に木に登っていく。
彼女のすぐ隣りに腰掛けると、にこやかな笑顔で話しかけた。

「いい眺めだね」
「・・・・似合わないことをすると思ってるんでしょ」
「いいや。家の中で鯱張ってお花やお琴をやっているより、ずっとサクラらしいと思う」
言いながら、カカシはサクラの頭に手を置いた。
優しい笑顔とあたたかな掌の感覚に、サクラは自然と体の緊張を緩めていく。
こうして誰かに頭を撫でられるのは、久しぶりのことだ。

「昔はよく兄や姉と木登りをしていたの」
「昔?」
12の少女らしくない口振りにカカシは思わず笑ったが、サクラは真顔だった。
「親に捨てられる前、よ」


あとがき??
また変なところで切ってしまったよ。あとエピローグで終わり。
時代のイメージは明治〜大正初期かなぁ。取り敢えず、みんな洋装。
ごめん。『刻読み』のイメージが頭にあったから何も書かなかったけど、時代がかった話だったのです。(汗)
言わなきゃ分からないって。

誰なんだこれは、というのは置いておいてください。名前を借りているだけなので!
カカシ先生が普通にサクラを好きになっているのは、うちのカカシ先生はサクラ好きーと遺伝子レベルで決まっているからです。この世の心理。
ナルト愛のため、彼にはどうしても良い役所を与えてしまう・・・。好き。
話の内容はラストまできっちり決まっているのだけれど、どうやって書くか悩み中。むむ。
何だか、雑多な話ですよ。


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