透明な色をした少女のために 1


情報収集のため、敵方と通ずることの多いくの一の懐妊は日常茶飯事のことだ。
そして、取引の材料として使う場合を除き、一般的に子供は排除される。
母胎を極力傷つけないよう手術をする医療術はどの隠れ里でも研究されていた。

「早く始末した方がいいわよ。日が経っちゃうと、自分が辛いから」
サクラの妊娠を知ったいのは、苺の入った皿を彼女の方に寄せながら言った。
テーブルに顎を置きながら、サクラはTV画面をぼんやりと見つめている。
「・・・んー、今日にも行くつもり。予約は入れてあるの」
「誰なの、相手は」
「カカシ先生」
少しも考えることなく答えたサクラに、いのは意外そうな顔をした。
「すぐ分かるんだ」
「だって、私、カカシ先生としか寝てないんだもん。ずっとずっと先生ばっかり」

 

一般的に、13、4になると忍び達にはスリーマンセルとしてではなく、個別の仕事が舞い込んでくる。
体を使う、仕事だ。
7班の下忍の中で、名門であるうちは家のサスケや九尾をその身に宿すナルトはその希少性から人気が高く、高値で取引されていた。
だが、紅一点のサクラだけが、いつまで経ってもお呼びがかからない。
おかげでこの3年間、寝所での対応を手ほどきしたカカシ以外にサクラの体に触れた者はいなかった。

「もう私、15なのよー。それなのに、一件も依頼がないなんて、よほど買い手が見つからないのね」
サクラはテーブルに面を伏せてぼやき続ける。
「胸が全然ないから駄目なのかも。先生には顔を隠すとどっちが背中でどっちがお腹か分からないって言われるし。豊満ボディーじゃなくても、先生に伝授された技があるから一度試せばイチコロだと思うのにさ」
「ふーん・・・・」
自分の皿の苺に練乳をかけたいのは、気のない返事と共に呟いた。
「あんた、大事にされてるのね」
「えー??」

顔だけいのの方へと向けたサクラに、彼女はフォークで刺した苺を差し出す。
「一つ忠告。病院に行く前に、カカシ先生に報告しなさい」
「・・・何で?」
「何でも」
強い口調で言うと、いのはTV画面へと視線を移す。
あとは、サクラが何を言ってもいのが応えることはなかった。

 

 

 

「変なのー。今時父親の承諾なんかなくても、すぐ処理できるのに」
いのの家から出たサクラは、流行りの歌を口ずさみながら歩き出す。
快晴の空の下、繁華街へと続く道には人気が多かった。
こんな天気の日には、手作りの弁当を持ってピクニックに行ければ気持ちがいい。
サクラは頭の中で草原を素足で歩く自分を想像したが、その傍らに自然とカカシの姿を思い描いていた。

「・・・あれ、何で先生までいるの?」
立ち止まったサクラが首を傾げながら呟くと、タイミング良くその人の声が耳に届いた。
「サクラーー」
振り向いたサクラの目に、群衆の中で手を振るカカシが映る。
そしてサクラの手前までやってきたカカシは、にっこりと笑って言った。

 

「結婚しよう」

一瞬思考を停止させたサクラは、ワンテンポ遅れて奇声を上げる。
「え゛、えええーー!!?」
「俺さー、今の仕事辞めるんだ」
目を丸くしているサクラから視線を逸らすと、カカシは頭をかきながら言葉を繋ぐ。
「忍者をやめて堅気の仕事をする。緊急時には駆り出されるけど、もう外からの任務を請け負ったりしないよ。だから、サクラもくの一をやめて俺の嫁さんになってね」
どこに隠し持っていたのか、小さなブーケをサクラに差し出したカカシは、プロポーズの言葉を繰り返した。
往来での告白に、通りすがりの人々はみな振り返って二人を見ている。

「いのに、いのに何か言われたんでしょ。突然変なこと言い出して」
カカシを人目に付かない場所へと連れ込んだサクラは、こそこそと耳打ちをした。
「いのちゃん?会ってないけど」
「そ、そう・・・」
「それに突然じゃなくて前から思ってたんだ。退職したらサクラと結婚しようって。申請がなかなか受理されなくて、時間かかっちゃったけど」
「・・・・そんな大事こと勝手に決めて、私が断るとかは考えなかったの」
「うん」
呆れ顔のサクラに、カカシはぽんぽんと彼女の頭を叩きながら答える。

サクラは随分と楽天的、もしくは行き当たりばったりな考え方だと思ったが、腹の子供のことを考えるとタイミングが良い気がした。
カカシの手にあるブーケを受け取ると、サクラは笑顔でカカシを見上げる。
「いいよ。先生のこと好きだし、くの一のサクラは人気ないから引退する」


あとがき??
2はカカシ視点。話が前後しています。・・・暗いかな。浦に置くほどのこともないと思うが。はて。
いのがむっつりしていたのは、サクラに嫉妬したからです。綺麗なままだから。
忍者ならやはり金で体を売り買いされたりはあるだろうなぁと思った話。
そういった設定は随分前から書きたかったので、満足です。

しかし、後半の2を読まないとよく分からない話ですね。
楽天的なのはカカシ先生よりサクラの方なのです。


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