彼氏彼女の事情 5


「あれ?」
サクラは訝しげな声と共にガチャガチャとノブを回す。
非常階段から屋上へと通じる扉。
そこには錠など付いていないはずだった。
鍵がないと通れない場所なら、非常階段の意味がなくなってしまう。
諦めたサクラが離れようとしたときに、その扉は唐突に開いた。

「さ、サスケくんが付けたの?」
「そうだ」
サクラを招き入れたあとに、サスケはまた同じように扉に錠前を付ける。
呆れ顔で自分を見ているサクラをサスケはまるで気にしていない。
彼がそうした行動に出る理由はサクラにも何となしに分かった。

 

「ごめんね、カカシ先生が変なこと言ったみたいで。私がしかっておいたから、もうお昼の時間にここには来ないから」
「やる」
サクラの声を遮ったサスケは、握り拳をサクラに突き出した。
驚いた顔でサクラが両手を広げると、サスケはそこに小さな包み紙を乗せる。
「弁当の礼だ。女の欲しいものなんて分からないからな。苦情は受け付けないぞ」
促されるままに中を開くと、入っていたのは、桜の花の形をした髪留めだ。

「可愛いー!」
とたんに瞳を輝かせ、サクラは満面の笑みを浮かべて髪留めを眺める。
さっそく髪にそれを付けたサクラは、嬉しそうにサスケに顔を近づけた。
「似合う?」
「・・・ああ」
「有難う!凄く嬉しい」
喜びの表現としてサスケに飛び付いたサクラは、彼の首筋に手を回して感謝のキスをする。
感極まったときに出るサクラの癖なのだが、二度目のせいか彼の方も特別驚いたりはしなかった。

 

 

気遣うように触れるその唇はカカシのキスとまるで違う。
彼の優しい気質がそのまま現れているようだ。
クラスメートのいのやナルトと同様に、サクラにとってサスケはこれから長く付き合っていきたいと思える大切な友達だった。
「サスケくんも先生と一緒で、甘えん坊なんだね」
自分を抱きしめたまま動かないサスケに、サクラはくすりと笑って言う。

遠くにいる母親を恋い慕う寂しい子供。
サクラの目に、サスケはそう映っている。
サスケに胸が苦しくなるほど想う相手がいるのは事実だ。
だが、その対象が母親以外の人間だとは、サクラは思いもしなかった。

 

 

 

 

サクラの姿は、どこにいてもすぐに見付けられる。
放課後、教室から外を見やったサスケは校門に向かって歩くサクラをぼんやりと眺めていた。
その視線に気づいたのか、三階の窓際にいるサスケを見上げたサクラは、小さく手を振って見せる。
釣られたように掌を上げかけたサスケは、慌てて手を引っ込めたが、もう遅い。
サクラの顔には明るい笑みが広がり、彼女の友達が冷やかすようなことを言っているのが聞こえてきた。

サスケとサクラは付き合っている。
その噂は事実として生徒の間に広まり始めていた。
知らないのは当事者であるサクラだけだ。
彼女が自分のことをあくまで友達と思っていることを知っているサスケだが、周りにからかわれるのは別に悪い気分ではない。
サクラにまとわりつく、あの男の影さえ見え隠れしなければ。

「サクラ!!」
切羽詰まったその声に我に返ったサスケは、すぐに階下へと目を向けた。
女子生徒が一人、倒れている。
わらわらと集まる生徒達の中心にいるのは、桃色の髪の少女だった。

 

 

「ただの、貧血だから・・・」
サクラは青ざめた顔で言うが、なかなか立ち上がることが出来ない。
サクラの元へとやってきたサスケは、彼女の意思を確認することなくその体を抱え上げる。
「保健室に運ぶ」
目を丸くしているいのやその他女子に告げ、サスケは校舎に向かって歩き出した。

「・・・・サスケくん、本当にサクラのことが好きなのね」
「うん」
二人の後ろ姿を見つめたいのの呟きに、周りにいた女子達は納得するしかない。
普段冷静なサスケが、あれほど取り乱したのを誰も見たことがなかった。
その顔色は、サクラよりも悪かったほどだ。
息を乱し、室内履きのまま駆けつけたサスケが彼女を大事に思っているのは明白だった。

 

「保健室・・・、こっちじゃないよ」
ふいに呟いたサクラだったが、具合が悪いために弱々しい声だ。
「さっきのは嘘だ。あんな奴のところに行かせたくない」
今だけでなく、これから先もずっと。
続く言葉を呑み込んだサスケは、無言のまま廊下を歩き続けた。
彼の心情を知らないサクラは、ただ不安げな眼差しで彼を見上げている。
何か声をかけようにも、それだけの力が出なかった。

連れられてきた中庭は、木々が多く立ち並び、涼しい風がよく通る場所。
他の人がいないことを確認したサスケは、サクラを木陰のベンチに座らせ、その額に濡れたタオルを置く。
傍らのサスケに寄りかかり、何とか意識を保っているサクラだが、倒れた当初よりはだいぶ呼吸が楽になっていた。

 

 

 

「・・・サスケくん」
「何だ」
「この間サスケくんがくれた髪留め、宝石箱に入れておいたのに無くしちゃったの。ごめんなさい」
サクラは怒鳴られることを覚悟で告白したのだが、サスケはさして怒る気にならなかった。

サスケに貰った髪留めのことを、帰宅したカカシに嬉々として報告するサクラ。
そうして、彼女が目を離した隙にそれをゴミ箱へと放るカカシ。
一連の光景が、サスケには容易に想像できた。

「気にしなくて良い。また別のものをやるから」
「本当?」
「ああ。今度は俺に貰ったことを誰にも言うな。それで家のどこか、鍵のかかる場所にしまっておけ」
「う、うん」
いやに物々しい話だと思ったが、サクラは大人しく頷く。
そしてもう一つ、彼女はサスケに話しておきたいことがあった。
「あのね、カカシ先生は本当はとても優しい人なの。サスケくんとは馬が合わないみたいだけれど、あまり悪く思わないであげて。お願い」
「・・・・ああ」

微笑みを浮かべると、サクラはそのままサスケの肩に頭を乗せて眠りに付く。
顔色はまだ悪いが、穏やかな寝息を立てる彼女にサスケはほっとため息を付いた。
起こさないよう、慎重に頭を撫でると、「先生」と呟く彼女の小さな声が聞こえる。
安心しきった幸せな寝顔は、自分のそばにいるのがカカシだと勘違いしているからかもしれない。

 

 

サクラはカカシを心から愛している。
初めから分かっていたはずなのに。
サクラの口からその名前が出るたびに、胸が痛くて死にそうになる。

屋上に付けた錠前と同じだ。
鍵のかかる場所に、髪留めと一緒にサクラも閉じこめられればいい。
あの男の目の届かないところへ。
そうして、彼女は自分だけに微笑んでくれるのだ。

叶わぬことを夢想する自分を馬鹿だとサスケは分かっている。
ざわつく休み時間の教室で、クラスメートの恋愛話を冷めた気持ちで聞いていたのは昔のこと。

 

 

サクラの唇は涙の味がした。


あとがき??
く、く、暗い!!!耐えられない!もう駄目。
何だか銀色夏生が混じっている気がするよ。
サクラは大好きな人とキスをするのに躊躇しません。カカシ先生にそう教育されているのです。
いのちゃんやナルトにもしたくなったらします。
みんな最初は驚くけど、サクラが可愛いからキスをされて悪い気はしないらしい。
相手がそれ以上のこと(体に触る等)を望んだら、サクラも当然難色を示しますが。(先生は除く)

私、サスサクは苦手なのですが(書くのが)このシリーズは滅多やたらに筆が進む。
このままサスケが暴走して略奪愛をする悲劇と、現状維持でカカサクラブラブ(でも周りが不幸)と、読者様はどちらがお望みなのか。
個人的にどっちでもいいのだけれど。不幸なさっちゃん(サスケ)を見てるとこっちも辛い。
だから続きは書かないかもしれない。
いのちゃんの話は書くかもしれないけど。

 

・・・・何故すらすら書けたか、そしてサスサク色が強くなったか分かりました。
わいぼさんに薦められて購入した『ハッピー・ファミリー』(三原ミツカズ)を読んでいたからだ。
サスケはなるとなんですよ。うずし夫がカカシでまゆらがサクラ。
内容知らない方のために書くと、うずし夫とまゆらが夫婦でその子供のなるとが実の母親に片思いをしている話です。(おおまかすぎるあらすじ)
この漫画が面白くて面白くて面白くて、わいぼさん有難う!という感じ。
なるとという息子の名前がまた可愛いですよね!!!(笑)
日比野夫婦がカカサクにしか見えなくなってきたよ・・・・。
個人的に、まゆらに永遠の片思いをする岡内くんはナルトでお願いします。


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