彼氏彼女の事情 6


優等生のサクラが授業中に居眠りをしている。
何とも珍しい光景にいのは驚きを禁じ得なかった。
思えば、サクラは朝からだるそうに机に突っ伏していた気がする。
話しかけても、生返事をするだけだ。

 

 

「サクラ、体調悪いの?また貧血?」
休み時間になるなり、いのは心配げにサクラに話しかける。
「・・・・ん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」
目を擦ったサクラは何とか笑顔を作るが、その眼差しはどこか虚ろだ。
疲れの色がありありと見て取れる。

「テスト期間じゃないのに。徹夜で勉強でもしていたの?」
「そうじゃないんだけど、カカシ先生が・・・」
そこで、サクラはハッと口をつぐんだ。
カカシが朝までベッドで寝かせてくれなかった。
学校では兄妹で通しているだけに、素直に答えればかなりの問題発言になってしまう。

「カカシ先生が、何よ?」
「ううん。何でもない」
慌てて取り繕うと、サクラは椅子から立ち上がる。
「次、体育でしょ。早く更衣室へ行きましょう」
「・・・うん」
いのをせかしたサクラは廊下へと急ぐが、いのはまだ訝しげにサクラを見つめている。
いのの疑惑は更衣室であるものを目撃したために、確信へと変わった。

 

 

 

「カカシ先生!!」
保健室に駆け込んだいのは、目的の人物を見付けるなり人差し指を突きつけた。
「サクラは先生の妹でしょ!何であんなことするのよ」
「・・・・え?」
冷蔵庫から取り出したアイスを食べている最中だったカカシは、不思議そうに首を傾げる。
「何のこと?」
「しらばっくれないで。サクラのことよ」
その名前を口にするなり、いのは瞳に涙を滲ませた。

更衣室でサクラの体に見付けた鬱血した跡。
そして、サクラが「カカシ先生が」と言いかけて止めたときの、気まずそうな表情。
近頃やつれて見えるサクラの顔。
それらを結びつけたいのは、ある結論を導き出した。

 

「カカシ先生、サクラを虐待しているんでしょう!」
「はぁ??」
「体に痣が残るまで女の子を殴るなんて、最低よ!!サクラも心労で眠れなくなっているのに!」
「・・・・・」
一人興奮するいのに、カカシは何と言えばいいのか分からない。
殴ったことはもちろんないが、虐待と言われれば確かに虐待かもしれないとも思ってしまう。
「えーと、いのちゃん、まずこれでも食べて、ここに座って」
新たに冷蔵庫から取り出したアイスを渡されたいのは、取り敢えず近くの椅子に腰掛ける。
大人しく従いながらも、いのはカカシを睨んだままだ。

「いのちゃんが見付けた痣って、体のどこにあった?」
「・・・・胸元とか、足とかに、赤く」
「普通さ、殴られたり蹴られたりしたら背中とかお腹とか派手に青痣が残ると思うよ。そんな大きなものだったかな」
「・・・」
サクラがすぐに隠してしまったために、いのもしっかりと見たわけではないのだ。
言われてみると、殴られた痣とは微妙に違う気もする。
「虫さされじゃないのかな。うちの周り、ヤブ蚊が多いし。あとね、サクラは英語の検定試験を受けるとかで夜中まで机に向かっていたよ」

にっこりと微笑むカカシは、いのの目に信用できる人物に映った。
本当に虐待をされているのだったら、サクラは毎日のようにカカシの話をすることもないだろう。

 

「あの、先生、ごめんなさい。私、早とちりをしたみたいで・・・・」
「いーよ、いーよ。ここ、滅多に人が来ないしさ。いのちゃんとこうして喋れて楽しかった。うちのサクラを大事に思ってくれて有難うね」
項垂れるいのの頭を、カカシはぽんぽんと叩く。
朗らかに微笑むカカシを見上げて、いのの顔にも自然と笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

「あれ、いの、どこに行っていたのよ!」
午後の授業をボイコットして消えたいのに、サクラは慌てて駆け寄った。
教室に戻り、自分の席についたいのはどこか夢心地の表情だ。
「サクラ、カカシ先生って恋人いるの?」
「え、いないわよ!そんなの」
出し抜けに訊ねるいのに、サクラは即答する。
自分に隠れてそんな存在を作っていたら、承知しないという気持ちで。

「そっかー」
何故か嬉しそうに微笑んだいのは、サクラの手を握り締めた。
「サクラ、私のこと、お姉さんと思ってくれていいわよ!」
「・・・・え」
「先生のこと好きになったみたいv親友なんだから応援してよね」
頬を染めたいのの告白に、サクラが頭を殴られたような衝撃を受けたのは言うまでもない。


あとがき??
ごめん、いのちゃん。被害者が広がっております。合掌。
前回サクラが倒れた理由も、カカシ先生が可愛がりすぎたせいらしいです・・・・。サクラ、体力ないのに。


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