彼氏彼女の事情 7


青い空の日だった。
何気なく顔を上げたサクラは、その状態のまま固まってしまう。
四階へと続く非常階段。
その踊り場付近で、一人の生徒が手摺を越えようとしている。
それはどう見ても、身投げ直前の光景だった。

「駄目、駄目よ!!」
一階の中庭を歩いていたサクラは、慌ててその階段を駆け上がる。
どんな事情があるにせよ、自殺者をみすみす見逃せない。
自分がたどり着く前に飛び降りることを危惧したサクラだったが、幸い彼は同じ場所に留まっていた。

 

 

「ちょ、ちょっと、そこのあなた」
彼が驚いて足を踏み外さないよう、サクラは慎重に話しかける。
「はい?」
「そこで、そこで何をしてるんですか」
「見た通りですよ。世を儚もうかと・・・」
「考え直して!!」
彼が言い終えないうちに、サクラは声を発していた。
自殺志願者は髪を後ろで一つに束ね、眼鏡をかけた真面目そうな男子生徒だ。
サクラが思うに、自殺の理由は学業のことだろうか。

「・・・・そうですね。あなたが僕の恋人になってくれるなら考え直します」
「え」
彼はサクラの体を足の先から頭まで値踏みするように眺めたあと、ようやく表情を緩める。
「僕が死のうと思ったのは失恋が原因なんです。それを癒すには、新しい恋をするのが手っ取り早いかもしれない」
「でも・・・・私には」
サクラが渋ったのを見ると、彼は再び身を乗り出した。
「では、さようなら」
「ま、ま、待ってーーー!!」
必死に彼の腕を掴んだサクラは大きな声で絶叫する。
「分かったわ。あなたとお付き合いします。だから死なないで!」
背中から彼に抱きついているサクラは、その口元が意味ありげに綻んだのをまるで知らなかった。

 

 

 

「カブトさんは気の毒な人なのよ。ご両親を事故で亡くしていて一人暮らし、学費はトップの成績を取っている間は免除してもらえるけれど気は抜けない、そして持病を患っていて失恋したばかり。ね、少しの間、一緒にいてもいいでしょ」
「・・・・ふーん」
サクラは必死に状況を説明したのだが、保健室には剣呑たる空気が流れていた。
相槌を打ちながらも、カカシは椅子に腰掛けるカブトから目を離していない。
彼に何か下心があることは、その目を見ただけで分かった。
人を疑うことを知らないサクラとは違うのだ。

「あのさー、サクラ、ちょっとこいつと二人きりにしてくれる?」
カカシは親指でカブトを指しながら言う。
サクラの願いは何でも叶えてやりたいが、男絡みとなれば別だ。
十年かけて手に入れた理想の少女を、今さら横からかすめ取られたらたまったものではない。
サクラと同級生の子供相手ならば心配するまでもないが、このカブトという生徒はどうも信用ならなかった。

 

「先生、乱暴はしないでね・・・」
心配そうに部屋から出ていくサクラに手を振り、カカシはカブトへと向き直る。
そして、単刀直入に切り出した。
「俺の女に手を出したら、殺すぞ」

凄味のある声で言われたカブトだが、柔和な表情は変わらない。
むしろ、笑みが深くなったように思えた。
「もう手を出したって言ったら、どうします」
ガンッと椅子を蹴られ、カブトはくすくすと笑い声を立てる。
「冗談ですよ。彼女の信用を失いたくないので、暫くは大人しくしています」
「・・・本性を現したな」
顔をしかめたカカシをカブトは面白そうに見つめた。

「カカシさんの奥さん、可愛い人ですよね。一目惚れをしたのでいろいろ調べさせてもらいました。似ていない兄妹だと思ったら、やっぱり裏があった」
「知ってるなら、諦めろ」
「まさか」
首を振ったカブトは、悠然と微笑んでみせる。
「今は人妻でも離婚という便利なシステムがあるんですよ。僕、バツイチとか気にしませんし、サクラさんだって年の近い旦那の方が話が合って良いでしょう」

 

 

「先生、お話終わった?」
保健室の扉を開けて入ってきたサクラは、床に倒れ込んだカブトを見るなり叫び声をあげた。
「カブトさん!!」
体を抱き起こすと、口端が切れて血が出ている。
明らかに殴られた痣を確認し、サクラは涙目でカカシを見上げた。
「乱暴はやめてって言ったのに、ひどいわ!!」
「ぼ、僕は大丈夫ですから」
興奮するサクラを押し止めながら、カブトはわざとらしく咳き込んでみせる。

「サクラ、こいつは嘘つきだ。両親が死んだとか病気とか、全部サクラの同情を買うためのほら話だよ」
「何言ってるのよ!変な焼き餅やいて、体の弱い人を殴りつけるなんて。先生がそんな人だなんて思わなかったわ」
蔑みの眼差しで言うと、サクラは心配げにカブトの顔を覗き込む。
「カブトさん、立てる?」
「・・・はい」

 

サクラに体を支えられたカブトは、彼女に見えないよう、カカシに舌を出している。
心優しいサクラはいつでも弱い立場の者の味方だ。
彼女の気持ちをこれ以上逆撫でしないためには、握り拳を作って耐えるしかないカカシだった。


あとがき??
せっかくサスケを排除したのに、今度はカブトさんかーーー。どないしようー。
何でこんなことになったんだろう。おかしいな。カカサクラブラブにならない・・・。
カブトさん、書くのが楽しいのは、どんなに汚れ役でもOKだからか。
しかし、駄文を書く気力が低下しているので続きは当分先、かな。


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