Cups 2
「カカシ先生の馬鹿――――!!!!」
上忍控え室に飛び込んできたいのの剣幕は凄まじいものがあった。
本来ならば、中忍、下忍は立ち入り禁止の区域だ。
だが、見張りの忍びもいのの勢いに呑まれ、止めることが出来なかったらしい。
自分目がけて突進してくるいのに、カカシは思わず逃げ出したくなったが、周りの目もあり、それは出来ない。
「えーと、何のことかな」
「サクラのことよ!決まってるでしょ」
自分に掴みかかってくるいのを何とかいなしたカカシは、彼女を引きずり人目につかない場所へと連れてくる。
訳が分からないが、どう見てもただごとではなかった。「サクラが、どうかしたの?」
「花火大会、カカシ先生すっぽかしたでしょ。ひどすぎるわよ!」
「ああ・・・」
顎に手を当てたカカシは、思い出したように呟く。
確かに、カカシは三日ばかり前にサクラとの予定をキャンセルした。
別件の任務が入っていたことをすっかり忘れて約束をしてしまったからだ。
だけれど、カカシが断ったとき、サクラはさして不満そうな顔はしていなかった。
ただ、「しょうがないわね」と笑っただけだ。
次の日の任務でもいつも通りのサクラで、全く気にしていないのだと思っていた。
「サクラ、凄く凄く楽しみにしていたんだから。浴衣を新調して、花火がよく見えるスポットだって調べて、先生と一緒に行くって嬉しそうに言っていたのよ」
「・・・そうなんだ」
「そうよ!私、あんなに落ち込んだサクラ、見たことないんだから」
大声をあげるいのは、興奮したのか自分まで涙目になっている。
「ちゃんと埋め合わせをしてあげてよね」
「うん」
どうもまだ信じられないカカシだったが、いのの様子を見ていると、確かに真実だと分かった。「教えてくれて、有難うね。いのちゃん」
サクラにするのと同じように頭を撫でると、いのは上目遣いにカカシを見つめる。
悪い人物ではない。
だが、サクラの想いに気づかない鈍さが、いのには嘆かわしかった。
「本当に、こんなのでいいの?」
「うん」
カカシと手を繋いだサクラは明るい笑顔で答える。
いのの忠告に従い、任務のあとにサクラを誘い出したカカシだったが彼女は何も欲しいものはないという。
「何でも買ってあげるのに。遠慮しないで言ってみてよ」
「いいのよ。先生とこうして一緒に歩いて、お喋りするだけで」
彼女の声が本当に弾んだものだったから、カカシはそれ以上訊ねるのを止めた。別に、何をするでもない。
彼女の話を聞いて、自分のことも沢山話した。
サクラの反応は素直で、笑ったと思えば、すぐに怒って、また笑顔になる。
たまに恋人の存在を思い出したカカシだったが、彼女の笑い顔は何か買い物をしたときのみ見せるものだ。
同じ女という生き物でも、こうも違うのかと思ってしまう。
「お兄さん、お兄さん」
「え、俺?」
雑多な店が建ち並ぶ大通りで、カカシは年輩の女性に袖を引かれた。
「そちらの可愛いお嬢さんに、これはいかが?」
彼女が籠に入れて売っているのは、安価な花の髪飾りだ。
青色の花を選んで小銭を払うと、カカシはそれをサクラの髪に添える。
「え、先生?」
「花火に行けなかった、お詫び。今日の空と同じ色だよ」
自分の手で髪飾りを確認したサクラは、ゆっくりと顔を綻ばせていく。
その表情の変化は劇的で、カカシは暫く彼女から目を離すことが出来なかった。普段、恋人に渡すプレゼントの、半分にも満たない値段の髪飾り。
それなのに、サクラはまるで貴重な宝石を貰ったかのように瞳を輝かせている。
果たして、自分の恋人は今までこれほどの笑顔を見せてくれたことがあっただろうか。
胸の奥にチリチリとした痛みを感じながら、カカシはサクラの小さな手を握り直した。
あとがき??
いのちゃんがいなかったら、この話は完成しなかったよー。有難う、有難う!
ナルトの次に使い勝手の良いキャラです。
ちなみに、サクラは任務が終わると額当てを外しています。