サクラ先生とカカシくん 3


新米教師、サクラは順調に生徒達の家庭訪問をこなしていた。
歴代最強と謳われる四代目火影の息子、ナルトの家に向かったときはさすがに緊張したが、彼の母親は朗らかな笑顔でサクラを迎え入れる。
四代目とその妻は母親が双子のいとこ同士という話だが、確かによく似た面立ちだ。
金色の髪や青い瞳だけでなく、そばにいる人間がホッとする空気を作る笑顔も、うずまき一家の特徴かもしれない。
夫妻のあたたかな人柄は確実に子供のナルトにも受け継がれていた。

 

「先生も早く食べるってばよ!かーちゃんの作ったドーナツ、すっげー美味いから」
口の周りに食べかすを付けながら次のドーナツに手を伸ばすナルトを見て、サクラはもう少し品があればミニ四代目なのに、と思ってしまう。
だが、こうした無邪気さがナルトの魅力の一つでもあった。
「こら、先生の前で、お行儀が悪いわよ」
「・・・はーい」
「先生、うちのナルト、迷惑ばかりかけているんじゃないですか?」
不安げに訊ねる母親に、サクラは首を振って答えた。
「とてもいい子ですよ。ナルトくんのおかげで班の雰囲気が明るくなりますし、いつも火影を目指して頑張っています」

気を遣ったわけではなく、これは事実だ。
カカシやサスケの口数が少ないため、よく喋るナルトがいなければどれだけ寂しい班になっていたか分からない。
慌てん坊で失敗もするが、ナルトのおかげで達成できた任務も多々あり、彼のいない七班は考えられなかった。
サクラの言葉で安心したのか、微笑みを浮かべた母親を見て、ナルトも嬉しそうに顔を綻ばせている。
生徒の家庭環境把握のための訪問だが、ナルトはその点何の問題もないようだった。

 

 

 

次に訪れたのは木ノ葉隠れの里の名門中の名門、うちは一族の住まう区域だ。
本家を守るようにして町が作られており、周囲の住人は皆うちは家の血をひいている。
道を横切る人々は殆どが黒髪に黒い瞳で、異端者であるサクラはどうにも萎縮してしまった。
サクラが事前にサスケの家庭訪問の件を知らせていなければ、おそらく何度も呼び止められていたはずだ。

「先生」
「キャッ!」
後ろから声を掛けられて飛び上がったサクラだが、それは聞き慣れた声音だった。
振り返ると、仏頂面をしたサスケが豆腐屋の看板の前に立っている。
「俺の家は、こっちだ」
「あっ、うん。わざわざ迎えに来てくれたんだ。有り難うね」
「・・・・別に」
その口調からサスケが照れていることを察し、サクラは笑顔で彼の後ろ姿を見つめる。
サクラが迷わないように、そして町の威圧感に呑まれて立ち往生しないように、ずっと前からこの場所で待っていたのだろう。
素直な言動の少ない、ナルトと正反対の性格だがその優しさをサクラは誰よりも知っていた。

 

うちは宗家の本宅はサクラの予想よりずっと質素で普通の家庭と何ら変わらない作りだった。
そしてサスケの母親はうずまき夫人に負けず劣らずの美人で、サクラは暫くの間見とれてしまったくらいだ。
同じ年頃の少女にもてもてのサスケだが、母親がこれほど綺麗ならば彼女達に素っ気ないことも何となく納得してしまう。
母親がサスケの理想だとしたら、同世代の少女ではとても太刀打ちできない。
問題児のナルトと違い、優等生のサスケについては褒めることしか言えず、話を聞く母親は絶えず笑顔だった。
サスケの兄もたまたま家に居合わせていたが、彼らの前ではしっかり者のサスケが子供の顔に戻っていることが、サクラには嬉しく感じられる。
うずまき家同様、うちは家も子供が成長する上で最良な環境のようだった。

 

 

 

「さてっ!」
残る一人、はたけカカシの実家の前に立ったサクラは、深呼吸して気合いを入れた。
面識はないが、カカシの父のサクモは“白い牙”の異名を持ち、木ノ葉隠れの里では知らぬ者のいない英雄だ。
カカシの母親は彼が幼い時分に死に、親子二人暮らしとのこと。
前にもカカシの家に寄る機会はあったのだが何故か激しく拒絶され、これが最初の訪問だった。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉の前に誰かが立つ気配がする。
素早く髪を手で整えたサクラは、開いた扉から顔を出した人物を見るなり、「こんにちは」の「こ」の口のまま固まってしまった。

白い髪に青い瞳、カカシとうり二つの相貌の男が目の前にいる。
カカシが何年かしたらそうなると思われる姿で、まさしくサクラの理想そのままだ。
開いた口が塞がらず、ぽかんとしたサクラを彼の方もしげしげと眺めている。
「あの・・・・」
「あっ、す、すみません!カカシくんのお父様ですよね。私、カカシくんのこいび、いえ、担任をしております、春野サクラと申します。今日は家庭訪問のために参りました」
「あれー、そうなの。カカシってば、何も言っていなかったけど」
にっこりと笑ったサクモを見て、サクラは笑い方も同じだと妙な感心をしていた。
頬が赤くなることを感じつつ、俯いたサクラはふいに手を握られる。

「先生」
「は、はい」
「結婚しましょう!」
「はい」
勢い込んで言われ、思わず肯定してしまったサクラはだいぶ時間が経過してから目を丸くした。
「はいーーー!!?」
「あなたに一目惚れしました」

 

 

 

サクモとカカシは顔が同じなら、好きになる女の趣味も全く同じだった。
だから、嫌だったのだ。
自分に内緒で家を訪れ、すっかりサクモに気に入られたらしいサクラを見つめ、カカシは大きなため息をつく。
買い物から帰ったカカシを待っていたのは、何故か青ざめた顔でソファーに座るサクラと、嬉々とした顔で彼女の肩を抱くサクモだった。

「あっ、カカシ、お帰り。お前の担任の先生、今日から新しいお母さんになったよv」
「寝言は寝て言えーーー!!!!」
カカシの渾身の蹴りを、サクモは後方へジャンプしてかわす。
おかげでソファーには大きな穴が空いてしまった。
「本当だって。今日、役所に婚姻届出してきたし」
「・・・・・サクラ?」
嫌にきっぱりと言い切られ、カカシは不安げな眼差しをサクラに向けた。
ぼんやりと視線を彷徨わせていたサクラは、カカシと目が合うなり緑の瞳に涙を滲ませる。
非常に嫌な予感がした。
「本当・・・です」

 

最悪な返答に、世界が破壊されたような衝撃を受ける。
傍らでにやにやと笑うサクモに掴みかかったカカシは、怒りの形相で問いかけた。
「一体、どんな卑怯な手段使ったんだ!!」
「失敬な。ちょっと幻術かけて意識があやふやになったところで判子押させただけだよ」
「それは犯罪だーーーー!!!」
両手を天に突き上げたカカシは心の底から絶叫する。
心身共にカカシの可愛い恋人であるサクラが今日から母親になるなど、認められるはずがなかった。


あとがき??
カカシくんが12歳なら、サクモさんは32、3歳。脂ののった良い時期ですね・・・・。
果たして、サクラちゃん17歳の運命は!?(笑)
しかしタイトルに反して、カカシくんとサクラ先生があんまり絡まないよ。
次はラブラブーにします。ラブラブーに。
そのうち書きますので、ちょっと待っていてくださいな。

うずまき家とうちは家は私の理想〜vなんですが、はたけ家は母不在で申し訳ない!
母がいたら、心配するからあんまりサクラの家に泊まり歩いたり出来ないかなぁと思いまして。
あと、サクモ×サクラをやりたかった。すみません。
うずまき家、いつか四代目とナルトママのオリジナルラブストーリーを書きたいと思っています。
姉妹の産んだいとこだと、血が濃いから本当は結婚出来ないんですけど。まぁ、パラレルなので。
赤ん坊の頃から兄妹のように育った二人がいつしか・・・・ってのは、考えるだけで楽しい!四代目ですし。
でも、昔から体の弱かったナルトママは幼いナルチョを残してお亡くなりになり、四サクの『ひまわり家族』シリーズに続くわけです。


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