サクラ先生とカカシくん 5
「げー、親父そっくり・・・・」
「親子だし、しょうがないでしょう」
洗面台の鏡を睨んで顔をしかめているカカシの背中をサクラは軽く叩く。
今、カカシはサクラより年上の青年の姿に変化していた。
自分の未来を想像して化けたのだが、もともと父親似の面相のために、よけいに近づいてしまった感じだ。
サクラは他の男友達に頼もうとも考えたのだが、嫉妬したカカシが文句を言うため、苦肉の策だった。「いい、カカシくんは今から、カカシくんの従兄のカイよ。私と付き合い初めて1年目。上忍で友達に紹介してもらって出会ったの。暗部に所属しているから、あんまり自分のことや仕事内容について話せないのよ」
「はいはい」
あらかじめ決めた設定を繰り返すサクラに、即席の恋人になりすますカカシは適当な相づちを打つ。
「私はパパやママと先にお店に行ってるから、ちゃんと6時には来てよ」
「分かったよ」
話の合間、心配性の恋人の額に口づけると、カカシはにっこりと笑ってその頭を撫でた。
「えへへー、いいね、見下ろせる位置ってv可愛い、可愛い」
「・・・・私の話、ちゃんと聞いてるの?」
不満げに言いがらも、サクラも口元を緩ませている。まだカカシとサクラはあまり変わらない身長だが、成長期の彼はすぐに大きくなり、目の前にいるような姿になるはずだ。
そのときまだ自分は彼の傍らにいるのだろうかと考えると、無性に心細い気持ちになる。
年の差にコンプレックスを持っているのは、サクラもカカシも同じだ。
「ごめんね・・・・面倒なことさせて」
「サクラのことだから、面倒なんかじゃないよ」
俯くサクラから何かを感じ取ったのか、カカシは彼女の体を抱き寄せる。
見合い話を壊すための手段がこれしかないのなら、仕方がない。
言葉の通り、サクラと一緒にいるためにする苦労ならば、カカシには面倒などという思いは全くなかった。
カカシには遅刻癖があるため、サクラはしつこく念を押したのだが、それは全く無意味だったことはすぐに知れる。
「・・・・来ないな」
「・・・・来ないわね」
「・・・・・・」
予約したテーブル席に着きながら、サクラは膝の上でスカートの裾を強く握った。
指定した時間を過ぎても、カカシが来る気配は微塵もない。
そわそわと落ち着かないのは春野家の3人だけでなく、レストランの従業員も同様だ。「あの・・・お料理の方はもうお出ししても・・・」
「もう少し待ってください」
サクラの喉から漏れた恐ろしく低い声に、従業員は少なからず怯えた様子でさがっていく。
2時間も遅れれば閉店時間を気にしなければならず、料理の仕込みもまた変わってくるのだろう。
上忍で仕事が忙しいと言い訳していたが、限界だ。
「私、ちょっと外を見てくる!」
「えっ、サクラ」
母は引き留めようとしたのだが、サクラは構わず飛び出していった。
「何よ、私がどこかの誰かと見合いさせられてもいいっての!!」
完全に頭に血が上ったサクラが必死に往来の人々に目を走らせると、見慣れた白い髪が視界の隅に見えたような気がした。
慌てて追いかけて確認したが、道端の露店を眺める横顔はカカシに間違いない。
服装が昼に見たものと異なっていたが、それくらいは些細なことだった。
「カカシくん!!!」
サクラが呼びかけても前を歩く彼は振り返らず、よけいに頭にくる。
「ちょっと、どこに行くのよ!!予約したレストランはあっちよ」
「えっ?」
サクラに抱きつかれた彼は何故か驚いた表情だったが、言い訳はあとで聞けばいい。
「私に付いてきて!!」サクラが手を握って先導すると、彼は言われたとおり素直にくっついてくる。
怒りはまだ解けていなかったが、とりあえず両親に紹介して料理を食べることが先だ。
店に戻ったサクラが両親に対して必死に謝ると、彼の方も「道に迷ったお年寄りをおぶって、目的地まで送っていたので・・・」などともっともなことを言い出す。
何はともあれ彼がやってきたことで暗かった雰囲気も穏やかになり、ようやく料理を出せる店側もホッとしたようだった。
「あら、あなた、この前サクラの家にいたカカシくんに似ているような・・・・」
暫く彼の顔を眺めていたサクラの母は、ハッとした様子で言う。
もちろん、これは想定の範囲内の質問だ。
しかし、サクラの母に向かってにこやかに答えた彼の言葉は、サクラの予想していたものとは大きく異なっていた。
「父のサクモです」その瞬間、サクラの頭の中は完全に真っ白になる。
ゆっくりと、ほんの少しづつ傍らを見やると、優しく微笑する彼と目が合った。
「妻と死別してからはカカシを男手一つで必死に育ててきました。でも、サクラさんという素晴らしいパートナーを見つけて、これからは二人で頑張っていきたいと思っています」
「まあ、ご苦労されたのね・・・」
「カカシくんがサクラのところにいたのは、そうした訳だったのか」
妙に納得している両親に、サクラはパクパクと口を動かすだけで、違うとは言えない。
彼をこの場に連れてきたのは他でもない、サクラなのだ。「・・・・あ、あの、さ、サクモさん?本物の」
「サクラ、何を訳の分からないこと言っているんだ」
「素敵な方ねぇ。貴方ならサクラを任せても安心ですわ」
動揺するサクラの心情など知らず、父と母はすっかりサクモに好印象を抱いたようだ。
事情は分からないなりに、サクラに好意を持っていたサクモは両親に愛想を振りまいて話を合わせている。
呆然とするサクラはもう料理も喉を通らない状態だったが、全ては怒りに我を忘れた彼女が、カカシとサクモを勘違いしたのが原因だった。
その頃のカカシといえば、本当に迷子の老婆を目的地まで負ぶって運んでいたのだが、少々耳が遠いらしく話が通じずかといって放り出せず、泣きたい気持ちになっていたらしい。
あとがき??
終わり。