百物語 3


「え、サクラちゃんが!!?」
「そうだよ。その医者と一緒に出ていくことになったからね。サクラの分の仕事は明日からお前がやるんだ」
勝手口から入ってきたナルトを見付けるなり、女将はおおまかな事情を話す。
仕事の指示をして立ち去ろうとした女将に、ナルトは必死な様子で追いすがった。
「何で、何でサクラちゃんが」
「そんなの私だって知らないよ。値段をふっかけてみたけど、全然動じない。逆に、いい買い物をしたって言うんだから、物好きな人もいるもんだねぇ」
女将にしても、サクラのような醜女をわざわざ引き取りたいというカカシの考えは理解出来ない。
しかし、金さえ払ってくれれば文句はなかった。
給金無しで扱き使えるサクラがいなくなるのは痛手だが、ナルトがいれば暫くは何とかなるだろう。

「・・・お前、大丈夫かい?」
ふとナルトへ目をやった女将は、真っ青な顔で震えるナルトに心配げに声をかける。
だが、ナルトの耳には届いていないようで彼女を見向きもせずに廊下を駆け出していった。
「何だい、ありゃー」
ナルトが脱ぎ散らかした草履を見て、女将は不機嫌そうに眉を寄せる。
そして少しも経たないうちに顔を見せたのは、厨で働く若い衆だ。

「女将さん、ナルトは?」
「あれ、今、入っていったばかりだけど。入れ違いかねぇ」
「・・・困ったな」
草履の向きを直して振り返った女将は、顎に手を当てて考え込む彼を見て首を傾げる。
「何か、急用かい?」
「研ぎに出していた包丁を取りに行ってもらったんですよ。そろそろ仕込みを始めるのに、どこ行ったんだか」

 

 

 

カカシ金を出してもらい、今までよりもずっと良い着物を着せてもらったサクラだが、半身に残る火傷の痕は隠せるものではない。
どうしても俯きがちになるサクラに、彼女の髪を後ろからいじるカカシは無理矢理顔をあげさせる。
「サクラは可愛いんだから、下ばっか見てたら駄目だよ」
「・・・・でも」
「はい、出来た。簪は鼈甲と水晶とどっちがいい?」
サクラが喋り出す前に、彼女を自分の方へと向かせると、カカシは笑顔で問い掛ける。
こうした好意に満ちたカカシの言動全てが、サクラを戸惑わせる要因だ。
似た境遇のナルト以外に、サクラに対してここまで優しく接してくれた人間は今までいなかった。
嬉しい反面、訝る気持ちの方が強くなってしまう自分が、嫌になる。

「・・・どうして」
「え、何?」
「何で私なんかを引き取りたいって、言ったんですか。私、何の取り柄もないし、あなたとだって初対面なのに。体だって傷が・・・」
「だから、こんな傷は気にする必要ないんだよ。俺が治してあげるから」
伏し目がちに語るサクラの頭に手を置くと、カカシはにっこりと笑いかける。
「ちょっと時間がかかるけど、綺麗になるよ。俺に任せなさい」
思いがけないその言葉に、サクラは目をぱちくりと瞬かせる。
「え!?」
「だから、サクラの火傷を俺が消してあげる。医者だって、聞いてなかった?」

自信たっぷりに言うカカシを、サクラは半信半疑の眼差しで見つめる。
医者に見せる金がないからと、今まで放ってあった傷だ。
それが、今頃治ると言われても、すぐには信じることが出来ない。
相手が神や仏ならばいざ知らず、目の前にいるのは医者とはいえサクラと同じ人間なのだ。

 

「あ、疑ってる」
「・・・・」
「これを見せれば、少しは信じてくれるかなぁ」
困ったように笑うカカシは、おもむろに左目の眼帯をはずしてみせた。
そこにあったのは、青い右目とは全く別の、赤い瞳だ。
瞼の上を走る傷が痛々しく残り、サクラは思わず息を呑む。

「俺の元の目は青なんだ。こっちの赤いのは、別の人間の瞳を移植したの」
「・・・いしょく?」
「ああ、目だけ、入れ替えたってこと。俺の本当の左目は潰れて使い物にならなくなったから、手術を受けたんだ。強い日差しの下だと霞んだりするんだけど、こうしてサクラの顔もしっかり見えるよ」
サクラの顔を間近で覗き込むと、カカシは表情を和らげる。
左右の目の色が違う人間など、サクラは今まで見たことがない。
そして、こうして実際に手術のあとを見せられると、自分の傷が消えるということも妙に現実味をおびてきた。
だが、それが途方もなく労力と資金がいることは、サクラにも何となしに察せられる。

「何で、何で私のためにそんなことをしてくれるの?」
「サクラに一目惚れしたからだよー」
同じ質問を繰り返すサクラに、カカシは軽い口調で答える。
サクラが自分を睨むようにして見ていることに気付くと、苦笑と共に言い直した。
「命の恩人だから、だよ」

 

 

 

サクラはまだ、身受けした客と共に座敷に留まっている。
女将が提示した金額を持ち合わせておらず、彼の使いの者が残りの金を運んでくるのを待っているためだ。
その場所へと向かうナルトは、明らかに殺意を持って包丁を懐へ忍ばせていた。
サクラがいるから、何の希望もないここでの生活に耐えていたのだ。
母親は望まずに生んだナルトのことなど、見向きもしない。
物心が付いてから腕に抱かれた記憶すらなかった。
そんな母親に、恨みこそ抱いても愛情など持てるはずがない。

「駄目だよ・・・駄目だ」
狂気を孕んだ瞳のナルトはぶつぶつと繰り返しながら歩いていた。
ただサクラのそばにいたいだけなのに邪魔が入ってしまう。
サクラを母のような女にしたくなくて、火傷まで負わせたというのにこれでは意味が無い。
襖の前までたどり着くと、刃の狙いが相手の男なのか、サクラなのか、ナルトは自分でも分からなくなっていた。


あとがき??
あぶない、あぶないよ!!えー、ちょっと、ナルト、どうしたのよ。
どうやらスレナルだったようで・・・・。
書いている私を無視してどんどんナルトが動き出しました。
果たして、先生の、サクラの未来は!!?次回は流血必至です。
・・・・・物語の方向性が全然見えてこないよ。究極の行き当たりばったりSS。
こうなったらサスケも出したいですね。最後にちらりとでも。

江戸時代に移植とか手術とか出来たのか、というのは放っておいてください。
カカシ先生は、「スーパードクターK」なんです。(マガジン読者にしか分からないネタ・・・・)
いえ、自分の手術は別の人が執刀したんだけど。


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