居酒屋まりあ
「10代の飲酒喫煙は厳禁だって、分かってる?」
「アハハハハッ、先生ってば、真面目なこと言っちゃって似合わないわよー」
へべれけ状態のサクラは、傍らの席にいるカカシの肩を強く叩く。
カカシが仕事帰りに行きつけの居酒屋に寄ったときには、サクラはすでに泥酔していた。
店主に聞いたところ、ピールをコップ一杯飲んだだけらしく、かなり酒に弱いタイプらしい。
見ればカカシと同様に連れもおらず、一人でくだを巻いていたようだ。「サクラー、酔っぱらったまま帰ったら家の人が心配するよ」
「へーき、へーき。今日はいののところに泊まるって言ってあるもの」
しゃくりを繰り返すサクラは、話しながらにやりと笑う。
「でも、本当はサスケくんのところにお泊まりなのよー。羨ましいでしょー、ねーー」
「へー」
サクラの隣りを見ると確かに大きな荷物が椅子にのっている。
しかし、これだけ酔いが回っていれば、彼の家にたどり着くことは十中八九不可能だろう。
親切心を起こして、足下をふらつかせる彼女に付き添ったのが悪かったのだ。
「で、道端で倒れたサクラを助けようとしたら、抱きつかれてキスされたんだよねぇ」
「・・・・それで?」
非常に嫌な予感がしつつも、アスマは先を促す。
「丁度うちの真ん前だったから、ちょーっと休ませてあげようと思って家に連れ込んだ」
「・・・・・」
「しっかし、サスケとやってるなら一回くらいいいと思ったんだけど。まさか初めてだったなんて」
何となく予想出来たオチに、乾いた笑い声をあげるカカシをアスマは半眼で見やる。
「・・・・それで?」朝になり、ようやく罪の意識が芽生えたカカシは眠っているサクラを家まで送り届けた。
もちろん窓から彼女の部屋に忍びこんでベッドに寝かせてきただけで、事情を説明する会話はしていない。
次に会ったときサクラは普通に挨拶してきたというのだから、あの晩の記憶は酔いと共に消えているようだ。
「お前、それ最悪・・・・」
「だって、サクラ怒るだろうしさー」
体を引き気味に呟いたアスマに、カカシは何故かふてくされたように答える。
居酒屋の店内は騒がしく彼らの話を聞いている者はいない。
少しばかり熱気がこもり、窓を開けようとしたカカシは吹き抜けた風に後ろを振り返った。
そして、扉を開けて入ってきたのは、話題の中心であった桃色の少女。
「あ、カカシ先生」
「・・・・サクラ」
顔色を変えたカカシには気づかず、サクラは彼らの元へいそいそと歩いてくる。
「先輩と待ち合わせしているの。昨日の夜、残業を手伝ったらご馳走してくれるって」
隣りに腰掛け、えへへっと笑うサクラをカカシは正視できずに俯いた。
胸が痛むのはおそらく罪悪感のせいだ。「そういえば、この前、夢にカカシ先生が出てきたのよ」
「そう」
「何だか知らないけど、先生と私が一緒の布団に寝てるの。たぶん先生の部屋だと思うんだけれど」
カカシとアスマの顔からは一気に血の気が引いたのだが、サクラは照れくさそうに笑って話を続ける。
「そんなことあり得ないと思って二度寝して、目が覚めたら私の部屋だったわ。変な夢よねー」
「そ、そうだね。ハハハッ」
微妙な空気の中、カカシとアスマの笑い声が響く。
邪気のないサクラの笑顔を目の当たりにして、真実を告げる勇気は彼らにはなかった。
何となく気まずい思いから、カカシはサクラと会うことを避けていたのだが、再会した場所はやはり例の居酒屋だった。
しかも、一人で座るサクラは何故か泣いている。
サクラに対して後ろめたいところのあるカカシが、放っておけるはずもなかった。「このごろ体調が悪くて、お医者さんに診てもらったら妊娠してるって」
涙ながらに語るサクラに、カカシが腰が抜けそうなほど仰天したのは言うまでもない。
「私、全然身に覚えがないのに。もう、訳が分からなくて・・・」
「い、一回だけで!!?」
「・・・・何、一回って」
怪訝そうに聞き返すと、カカシは慌てて首を振る。「いや、あの、相手ってサスケじゃないの?」
「サスケくんは手も握ってくれないわよ。この前、酔っぱらったふりして家に泊まろうと思ったけど、何だか自分の部屋に帰って来ちゃってたし」
「そう・・・なの」
「処女懐妊だなんて、私はいつから聖母になったのよ!もう、酒飲んでやる!!」
「わーー、ちょ、ちょっと待った!!」
注文したビールを、コップにつがずピッチャーごと飲もうとしたサクラをカカシが必死に止める。
こうなったら、腹をくくるしかない。
これ以上サクラを悩ませれば、彼女は確実にノイローゼになってしまう。
「サクラ、俺と結婚しよう!相性いいみたいだし、幸せになれるよ」
「・・・・先生、飲む前から酔っぱらってどうするのよ」
あとがき??
真実を告白したカカシ先生はサクラにめちゃくちゃ怒られます。
それでも、何だか知らないうちに幸せになっちゃう感じですよ。
ああ、舞台の中心である居酒屋は「まりあ」という名前らしい。
拍手用のSSだったんですが、ヤバイような気がしたので、こっちに移しました。