チェンジリング 2


1年前に死んだサクラの遺体は、それは無惨な状態で発見されたのだ。
手足は木の葉の上にばらばらに散らばり、顔は判別が付かないほど切り刻まれていた。
服や所持品からかろうじて身元が判明したが、誰もが目を背けたくなるような酷い有様だ。
もちろん、死んだのは彼女だけではない。
サクラと一緒に行動していた中忍は両目を抉られ木に逆さづりにされている。
死因は出血多量によるショック死。
彼らの任務は牢から脱獄した囚人を速やかに捕らえることだった。

証拠はないものの、二人を殺したのは、あらゆる鳥を自在に操る忍び集団ヤチ一族とはっきりしている。
木ノ葉隠れの牢にいたのは頭領の息子だ。
ことあるごとに木ノ葉隠れの里の忍びと対立する彼らは、大蛇丸の息がかかっているという噂もある。
それを聞き出すために身柄を拘束したものの、彼の口は堅かった。
どうやったのか逃げ出した彼を追いかけ、サクラは命を落としたのだ。
全ては、彼女の恋人であるカカシが長期任務で里を留守にしていたときの出来事だった。

 

 

 

「よーやくつかまえた!」
カカシの家を訪れたナルトは、扉を開けて出てきたカカシを一目見るなり顔を綻ばせた。
だが、それも一瞬のことだ。
カカシの顔は以前の面影を忘れてしまうほど、やつれている。
おそらく、また任務をいくつもかけもちしてこなしているのだろう。
サクラがいなくなって以来、カカシは寝食を忘れて仕事に没頭するようになった。
何かをしていないと、死んだサクラのことを思いだして苦しくなるからだ。

「ちゃんと食べないと駄目だよ。野菜、持ってきたからさ」
何かとカカシを気に掛けるナルトは、彼の了解を得る前にすでに家の中に上がり込んでいる。
ナルトとて、サクラを失った悲しみは癒えてはいない。
だからこそ、サクラの愛した人であるカカシを放っておくことは、どうしてもできなかった。
命を救う仕事をしていたサクラだ。
カカシが後追い自殺をしたところで、喜ぶはずがない。

 

 

「星が、見つかったよ」
カカシの様子を窺いながら、ナルトはこの日やってきた用件を口にする。
ナルトに言われるまま野菜スープを食べていたカカシは、ぴたりと動きを止めた。
「結婚して、母方の実家である村で静かに暮らしているらしい。理由はよく分からないけど、父親との諍いで勘当されたみたい。今は忍びの仕事を全くしていないって」
「・・・確かな話か?」
「エロ仙人の密偵が集めてきた情報だから、間違いないね」

カカシがそのまま席を立つと、ナルトは通り過ぎようとした彼の腕を慌てて掴む。
「ど、どこ行くのさ!!」
「決まってる」
復讐をするのだ。
サクラを切り刻んだ男、この手で同じことをするためだけに生き延びてきた。
そうでなければ、とっくに自らの命を絶っていたのだ。

 

「場所は」
素直に言わなければ、ナルトといえど殺されそうな目つきだった。
ため息をつくナルトは、渋々彼らの住まいをカカシに伝える。
本来ならば火影である綱手に最初に報告しなければならないことだ。
だから、ナルトは交換条件を一つだけ出した。

「約束して」
「・・・何を?」
「そいつを殺しても、先生は生き続けてくれるって」
「・・・・」
答えることの出来ないカカシを、ナルトは悲しげな瞳で見つめる。
「俺、もう仲間を一人だって失いたくないんだ」

 

 

 

目指す相手の住む村は、木の葉隠れの里からそう離れていないところにあった。
灯台もと暗し、というやつだろうか。
まさか忍びを二人も殺害して逃亡した犯人が、昔から住み着いているような顔で鄙びた村にいるなど考えもしない。
行方知れずとなった男は、誰もがヤチの一族の隠れ里に潜伏しているのだと信じて疑わなかった。
彼らの動向に目を光らせても何も出てこないはずだ。
犯人は、すでに一族から離れていたのだから。

 

自来也の密偵から届けられたという情報は文句無しに正確だった。
村の人口や収入源、家の配置まで細かく記されている。
カカシがまず向かったのは、もちろんサクラを殺した人間の住みかだ。
仕事を引退したというその男に、上忍であるカカシが遅れをとることもない。
だが、カカシが狙いを付けたのは彼ではなく、昨年妻になったばかりという話の娘の方だった。

全く同じことをしてやるのだ。
両手足を切断され、顔を切り刻まれた、とても人間とは思えない肉の塊。
愛する者のそんな姿を見た人間がどのような気持ちになるか、体験してみるといい。
復讐に燃えるカカシの心は以前とは別人と思えるほどに歪んでしまっていた。

鼻歌を歌いながら洗濯物を取り込む若い娘がターゲットと分かり、カカシは暗い色の瞳でその顔を注視する。
心臓が、止まりそうになった。

 

 

「先生?」
昔と全く変わらない、柔らかな声音で言われる。
若草色の瞳は真っ直ぐにカカシを見つめていた。
桃色の髪は腰の辺りまで伸びていたが、それ以外はカカシが知っているそのままのサクラだ。
知らずに涙がこぼれていることにも、カカシは気づけない。
「サクラ」
呆然としたカカシが呼びかけると、一瞬にして彼女の顔に動揺が走る。
そして、あろうことかカカシに背を向けて駆け出したのだ。

無我夢中だった。
幽霊でも構わない、サクラに会えるのならば何でもいい。
そうした思いから掴まえた彼女は、しっかりとした体を持つ人間だった。
甘い香りはサクラのもつ体臭そのもので、目眩を起こしそうになる。
そして、気づいたときには村の人々に囲まれていたのだ。

状況を整理する必要がある。
カカシの頭はこの上なく混乱していたが、それだけの正常な思考は十分に持ち合わせていた。


あとがき??
ノ、ノーコメント・・・と、いきたいところですが。
鳥=野鳥の会=ヤチ一族。単純すぎる・・・・。
星は犯人を示す隠語ですね。
カカシ先生、ごめん。でも、もっと可哀相なのはサクラなのでした。


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