愛のある場所 T


小鳥の囀りで目が醒める。
窓のすぐ傍にある木に巣があるのだ。
ヒナが生まれたらしく、親鳥はせわしなく活動している。
最近サクラは目覚し時計のセットした時刻よりも前に起床するようになっていた。

「天然の目覚まし時計ってのも良いかもね」
カーテンの隙間からもれる光で、天気はお洗濯日和の快晴だとわかる。
全く気持ちの良い朝だった。
そう。
ただ一つのことを除いては。

「先生、たまには早く起きてよ」
サクラは朝から不機嫌極まりない声を出した。
呼びかけは隣りで熟睡している上忍に向けられている。
サクラはカカシにすっぽりと包まれるようにして抱きしめられているため、身動きができない。
その腕はサクラの力ではびくともしないのだ。
だから必死に呼びかける。

「先生、先生!」
「ん〜〜。あと5分」
「そう言ってこないだ大変なことになったんじゃないですかー!」
「そうだっけ」
寝ぼけ眼で自分に頬を擦り寄らせてくるカカシにサクラは批難囂々の声をあげる。
この間のこととは、カカシのあと五分という言葉に同意したサクラがうっかり二度寝してしまったことをさしていた。
「二人揃って遅刻なんて、サスケくん達、絶対変に思ったわよって、言ってるそばから寝るなー!」

 

これはサクラにとって今でこそ日常の出来事のようだが、最初は度肝を抜かれたものだった。

朝、目覚めると隣に知らない顔。
そして自分を抱きしめている腕。
サクラはあまりの驚きに三軒先の家にも響いたであろう悲鳴をあげた。
その大音響にさすがのカカシもサクラから手を離して身を起こす。
「・・・サクラ、鼓膜破れる・・・」
「どどどど、どちらさまですか」
どもりながらもきちんと敬語を使っているあたりが真面目なサクラらしい。

体が自由になると同時に壁に張り付いて硬直しているサクラに、カカシは不可解な眼差しを向ける。
「自分の担任の顔忘れたのか」
「・・・えええぇぇぇ!」
サクラは先ほどよりは音量を下げたが、またしても驚きの声をあげた。
覆面も額あてもしていない、しかも服が違うから全く気づかなかった。
だが自分に向けられたその声、その瞳からベッドにいるのは紛れもなくカカシだと理解できた。
だからと言って納得したわけではないけれど。

「じゃあ、カカシ先生がどうして私の部屋にいるんですか」
サクラはひきつった笑顔を浮かべながらしごく当然の質問をする。
「俺が夜中に忍び込んだから」
「・・・どうして隣りで寝てたんですか」
「寒かったら」
「・・・もう冬じゃなくて春なんですけど」
「実は冷え性なんだよ」
「・・・布団をたくさんかけて自分の部屋で寝てください」
「やっぱ人肌じゃないとねー」
「・・・彼女とか、ナルトのところに行けばいいじゃないですか」
「彼女はいないし、男と寝ても楽しくない」
「・・・私が寝てる間に何もしてないでしょうね」
「・・・・・・うん」
「今の間はなんですかーーー!!」
サクラは早朝ということを考慮して小声を出していたが、ついに怒りを爆発させた。
内なるサクラがすっかり表に出てきている。
「正直にいいなさいー!!」
「サクラの胸小さいから触ってもつまらなかった」
本当に真正直に話すカカシにサクラは怒りの鉄拳をくりだす。
寝起きとはいえさすがに上忍、低血圧もなんのそのでサクラの攻撃をかわす。

そこにサクラの母の声が聞こえてきた。
「ちょっと、サクラ、なにかあったの?」
「お、お母さん」
動きを止めたサクラの顔からはみるみる血の気がひいていく。
階段を上る音からして、母は二階にあるこの部屋にもうすぐたどりつくだろう。
「先生、早く出てってよ!」
サクラはカカシの体を窓のある方へと必死に押した。

「出てってもいいけど、また来ていい?」
「冗談じゃないわよ」
「あ、そう」
母がドアと叩く。
「サクラ開けるわよ!」
「きゃああ。分かった、分かったから。お願いだから帰ってーー」
サクラの悲鳴はすでに涙混じりのものになっている。

サクラの答えを聞いて窓に手をかけたカカシは、振り返る。
「あ、最後にもうひとつ」
「今度は何よ!」
「さっき言ったことは嘘。寝てるサクラにはなんにもしてないから安心してよ」
カカシはサクラの腕を引っ張って自分の方へ顔を向けさせたかと思うと、素早く彼女と唇を合わせた。
「起きてるときはするけどね」
呆然とするサクラの顔を見てクスリと笑うとカカシは姿を消した。

「サクラ、あなた顔真っ赤よ。風邪かしら」
部屋のドアを開けたサクラの母は心配そうに言った。
そして現在、ほぼ毎日のようにカカシはサクラの家に通っているのだった。

 

結局カカシはサクラにたたき起こされ、二人共なんとか集合時間に遅刻することなく、待ち合わせの場にたどり着いた。
これでサスケくんとナルトに怪しまれずにすむわーとサクラは思ったのだが、ことはそう上手くは運ばなかった。

「サクラ、お前の家カカシの家の近くなのか」
任務の帰り道、珍しくサスケがサクラに声をかけてきた。
「え、え、なんで」
カカシの名前にギクリとしながらも、サクラは訊き返す。
「最近、カカシが遅刻せずに来るし、お前達の来る時間ほとんど一緒だから」

サクラはサスケの言葉に頭を殴られたかのようなショックをうけた。
そういえばそうだわ。
カカシ先生はいくら私達が言っても遅刻癖がぬけなかった。
それが仕事着に着替えるためいったん自宅に戻っているとはいえ、私と並んで一番に集合しているのだ。
どう考えても変。
ダラダラと脂汗を流すサクラに、サスケは言葉を続けえる。

「だから、お前がカカシの家に起こしに行ってるのかと思ったんだが・・・違うのか」
最後の言葉は、すっかり青ざめてうつむいているサクラの顔を覗き込んで発せられた。
身近にあるサスケの顔にとまどいながらも、サクラはホッと息をつく。
ばれてはいないらしい。
変だとは思っても、まさかカカシがサクラの家に泊まってるとは誰も思いもよらないはずだ。
「う、うん。そうなのよ。先生に頼まれて起こしに行ってるのよ」
サクラはこれ以上怪しまれないよう無理をして笑顔で答える。
だがサクラのその態度に、サスケは違和感を感じた。
何か隠している。
しかもその秘密がカカシに関わることなのだと思ったとたん、サスケは何故か不機嫌な顔になる。
なんとなく気まずい雰囲気が流れたその時、二人の会話にナルトが入り込んできた。

「サスケ、お前サクラちゃんに馴れ馴れしく近づくなよな」
任務終了の掛け声と共にカカシは姿を消したが、ナルトは一定の距離を保ちながら二人の後ろを歩いていた。
距離をあけていた理由はサクラに邪魔だと怒鳴られたくなかったから。
だが、二人の体が急接近したのを見て、我慢できずに飛び出してきたのだ。

「サクラちゃん、サスケなんて放っておいて、俺と一緒に帰るってばよ」
ナルトはさりげなくサクラの肩に手を置いてサスケから遠ざける。
サクラはいつものようにナルトにパンチをいれながら言った。
「あんたのその手の方が馴れ馴れしいのよ」
簡単によけられるはずなのにあえてサクラの攻撃をさけないあたり、ナルトの愛だ。
内心、サクラは助かった、と思っていた。
ナルトが会話をそらしてくればごまかせる。
しかし、サクラの思惑は全く外れることになってしまった。

「あれ?」
ナルトが何かに気づいたかのようにサクラに顔を近づける。
そしてしきりに首を傾げ、不思議そうな顔をしている。
「なによ?」
「カカシ先生の匂いがする」
その瞬間、サクラはナルトとサスケの不信な視線を一身に浴びることになった。
「き、気のせいじゃないの」
サクラはなんとか取り繕うとするが、ナルトは首を振りながら答える。
「いや、これは絶対カカシ先生の匂いだってば。なんでサクラちゃんから」

いつも一緒に寝てれば体臭が移るということがあるのかもしれない。
もはや隠しとおせないのか。
大体何故自分がこのように後ろめたいような気分にならないといけないのか。
世の中理不尽だわー!
サクラが絶望と共に諦めかけた瞬間、すぐ後ろから耳慣れた声が聞こえた。
同時に感じた浮遊感。

「それはこういうわけなんだよ〜」
「ウキャアアアーー!」
いつからいたのか、サクラはカカシに後ろから羽交い絞めにされた状態で抱えられていた。
サクラはカカシの腕の中で必死に暴れている。
「離してよ、このセクハラ教師―!」
「お前らが集合場所に現れるまで、俺が寒いからいっつもこうしてひっついてるんだよ。ナルトもそれが嫌なら早く来ることだな」

 

その言葉に二人が納得したかどうかは分からないが、ナルトはそれから一度も遅刻しないようになった。
サスケにいたっては15分前には集合場所に現れている。
「感心感心」
指定の場所、時間に並んでこちらを睨んでいるナルトとサスケを見て満足そうに笑うカカシを横目に、サクラは大きな溜め息をついた。


あとがき??
長いので、いったん切る。
カカシ先生が羨ましすぎる。
めっちゃ健全(?)のはず。
しかし、そこはかとなくエロい。あれ?
ナルトの台詞が書きたくてできた話。

なぜこの作品が「暗い部屋」にあるのか。
後半を読めば分かります。
いろいろやっちゃったもので。ハァ。
流血事件。血みどろ。

いまだかつてないくらいメロラブになる予感。オロオロ。


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