Island 1
毎朝の日課である散歩をしていたサクラは、白い砂浜にいつもと違う色合いのものがあることに気づいた。
遠目には、何か、青い点のようにしか見えない。
外の世界のものがこの島に流れ着くことは稀で、サクラは嬉々とした様子で駆けていく。
裸足で走るサクラは砂に足を取られるためにあまり速度は出ていない。
そして、それが物ではなく、人の姿だと分かるなり、彼女は驚きに目を見開いて立ち止まった。
緑多い、常夏の小島。
サクラが現在共に暮らしているナルトとサスケ以外の人間を見るのは久しぶりだ。
幼い頃は祖母もいたが、とうの昔に死んでいる。恐る恐る近づくと、難破した船の残骸と一緒に横たわるその人は、浅い息をしているものの意識がない。
皺だらけだった祖母や、同じ年頃の少年達とはまた違う姿形の人間を、サクラはしげしげと眺めた。
白い髪は祖母と同じだが、体が大きくしっかりとした肉付きをしている。
自分達とはまた違った種類の人間なのかもしれない。
早くナルト達に知らせに行こうと思ったのだが、彼がうめき声をあげたために、サクラは緊張した面持ちで唾を飲み込んだ。
仰向けの彼はゆっくりと瞼を持ち上げ、最初に空の青を瞳にうつす。
暫し無言のまま上空を見つめた彼は、やがて傍らでしゃがむサクラの存在に気づいたようで、「・・・やあ」と声を掛けた。
「ここは天国?」
彼の第一声にびくついたサクラは、どう答えていいか分からず、困惑した表情で首を傾げる。
サクラは天国というものが何か知らない。
もともと返事は期待していなかったのか、半身を起こした彼はぼんやりと周囲を見回した。
体の節々に痛みが生じ、少しばかり顔をしかめたが奇跡的に大きな怪我はしていないらしい。「あれー、助かったのか、俺。嵐で船は壊れるし、海に投げ出されるし、もう死んだと思ったのになぁ・・・」
どこかのんきな口調で言うと、彼は懐を探った。
他の荷物は全部手放してしまったが、幸いそれは胸ポケットに入れていたため無事だったようだ。
「ああ、ちょっと湿ってるけど、贅沢なこと言えないよな」
自分に向かって手を伸ばした彼に驚いて身を引こうとしたサクラだが、先に肩を掴まれる。
そして、彼はとくに乱暴を働こうとしたわけでもなかった。「酒場のおねーちゃんにあげようと思ったんだけれど、君にあげる」
にっこりと笑う彼の顔があまりに穏やかで、サクラは頭に巻かれたリボンに手をやったまま動けなくなる。
変に胸がどきどきした。
おそらく、外からやってきた人間を初めて見たからだ。
そう理由を付けて納得するサクラに、彼は再度問いかける。
「言葉、通じるのかなぁ。君はこの島の人なんだよね。俺はカカシ、君の名前は?」
「・・・・・サクラ」
島の住人はナルト、サスケ、サクラの10代前半と思われる子供達3人のみ。
以前は親や祖母らしき人物がいたらしいが、彼らにその記憶はほとんど無い。
海の近くの粗末な小屋で寝泊まりするものの気候は温暖、食料となるフルーツはそこかしこの木になり、水場も近くにあるため困ることはないようだ。
服は適当な布地を縫い合わせた作りで、それぞれ綺麗に洗濯してあるものを身につけている。
サクラがカカシを連れて帰ると、ナルトは新たな仲間に大喜びし、サスケは・・・・。
ひどく不機嫌になった。
「私のお母さんは私を産んですぐ亡くなって、お父さんは自分で舟を作って旅に出たのよ。外の世界を見たら、必ず戻ってくるって・・・」
「そう」
祖母から聞いた話を寂しげに語るサクラは、気遣うような視線を察し、無理に微笑んでみせる。
「私と同じ髪の色をしているみたいなの。会ったこと、なかった?」
「うーん、その情報だけじゃね。ここには4人の人間しかいないけれど、外には何十万もの人がいるから」
「・・・じゅうまん?」
きょとんとするサクラの頭を、カカシは苦笑しつつ撫でる。
それだけ多くの人間というのを、サクラは想像出来ない。
時がとまったかのような島でのんびりと暮らしていれば、当然のことだろう。カカシが口にする話はどれも新鮮な驚きをサクラに与えた。
エンジン式で走る車や、空を自由に舞う飛行機、ビルディングといった鉄筋コンクリート造りの高層建築物など、話し出すときりがない。
サクラがどれも目を輝かせて聞き入るため、カカシとしてもついつい時間を忘れてしまう。
ときにはナルトも一緒に行動するが、とくにサクラは自分が発見したこともあり彼にべったりだ。
ナルトは頭で考えるより体を動かすことの方が好きで、外で散々遊んで疲れるとカカシのそばに寄ってきた。
カカシは残る一人、サスケのことをサクラに聞いたみたが、以前から単独で行動することが多いため、彼女にも何を考えているのか分からないところがあるらしい。
「でも、サスケくんは凄く優しいのよ。この前、私が熱を出して倒れたときは寝ずに看病してくれたの」
「へぇ・・・」
にこにこと笑うサクラに釣られ、笑顔になったカカシは自然と心が浮き立つのを感じた。
悪人のいない島にいたためか、サクラは疑いもなく人を信じ、純粋で、可愛い。
そばにいるとカカシまで素直な気持ちになってしまう。
今までカカシの周りにいなかったタイプだった。
島は良いところだが、いつかは舟になりそうな材料を見つけ、サクラの父親と同様に旅立つつもりでいる。
心残りがあるとしたら、彼女の存在だ。「先生?」
教師という職業をしていると教えて以来、そう呼ぶようになったサクラの頬にカカシは手を添える。
唇を合わせても、緑色の瞳は開かれたままだ。
キスという行為を知らないのだから、当然だろうか。
久々に感じる柔らかさにそのまま押し倒したい衝動にかられたが、まだ昼間、さらに浜辺の椰子の木の下ではいつナルトやサスケが現れるか分からない。
「な、何、今の、何!?」
体を離すと、好奇心旺盛なサクラはすぐに訊いてくる。
「キスっていうんだよ。好きな人とするものなんだ」
「そうなんだ!!」
言うが早いか立ち上がったサクラを、カカシが腕を掴んで引き留める。
「どこ行くの」
「ナルトとサスケくんにもやってくる。気持ち良かったし、きっと喜ぶわ」
「ちょっと待った!」
つい声を荒げると、サクラはびくりと肩を震わせる。
怒られたと思ったのか、瞳を滲ませる彼女の姿にカカシはひどく罪悪感を持った。「ごめん、訂正。キスはただ好きな人じゃなくて、一番好きな人とでないとしちゃいけないの。警察に捕まっちゃうんだよ」
「警察・・・・」
治安を守り、悪いことをした人を捕まえる職業だと聞かされていたサクラは、思わず顔を青くする。
そして、すぐにその言葉の意図することに気づいた。
「・・・・カカシ先生、私のこと、一番に好き?」
「うん」
カカシが頷いてみせると、サクラの顔はたちまちに綻ぶ。
「嬉しい!」
感情のままに行動するサクラは、カカシに飛びつき首筋に腕を回してくる。
カカシが再び唇を吸っても、抵抗することなく、応えるように舌を差し入れてきた。
下着を付けず、薄手のワンピースで動き回るサクラは目に嬉しい光景だと思っていたが、こうして密着されると理性が飛びそうで非常に辛い。
舟が出来たら、サクラも一緒にここから連れだそう。
外の世界に興味を持ち、父親を捜すことを願うサクラならば、少々ごねたとしても決断するはずだ。
サクラを抱き寄せて心に誓ったカカシは、ふと視線を感じ、岩陰見据える。
すぐに消えてしまったが、黒髪の少年が遠くから彼らを見ていたようだ。
単純なナルトならば思ったことが手に取るように分かるというのに、サスケの方はあまり顔を合わせないこともあり、未だに考えが読めない。
どこか愁いを帯びた表情をする彼が、昼間姿を消してどこに行っているのかも、カカシには気になることだった。
あとがき??
た、た、楽しかったーー・・・・・。(^▽^;)
『キングダムハーツ』の設定を見て書きたいなぁと思ったのですが、ゲームはやっていないので、詳しい内容知りません。
それよりは、『オラトリオ・スケープ』が元ネタだと思います。
『オラトリオ・スケープ』は大昔に尋常じゃないはまり方をした漫画でしたが、休載だらけな上に、作者が長期連載に飽きたらしく、未完のまま「終了」となってしまいました。(号泣)
サクラはラセン、カカシ先生はアレン、ナルト&サスケはサナリかな。
今のところカカサク←サスっぽい??
でも、私はカカサクにサスケが絡むと坊ちゃんが可哀相なので苦手なのです。
続きがあれば、少々カカサスになるかもしれんです。(?)
突然宇宙人が出てきたり、突然悲劇で終わったり、そんなことが起こるかもしれない変なSS。