いらないひと 1
最初の自己紹介では、名前以外のことは何も教えてもらえなかった。
サクラがカカシについて知っていたのは、彼がとても優秀な上忍で、昔暗部にいたということだけだ。
しかし、二人の関係が上司と部下から恋人同士に変われば、彼についていろいろなものが見えてくる。
その日サクラがカカシに連れられて向かった先にあったものも、今まで謎だった彼の私生活の一部だった。
「カイっていうんだ。もうすぐ5歳になる」
6歳以下の子供を預かって世話をする施設でカカシの息子として紹介された子供は、白銀の髪に青い瞳で、彼の遺伝子を強く引き継いでいるといった印象だ。
カカシが仕事で忙しく、家に帰れないとき施設に預けられているらしい。
初対面のサクラを前にして緊張しているのか、カイはカカシの後ろに隠れたままだった。
カカシに子供がいたという事実に、あまりに驚きすぎて、サクラはすぐには声を出すことが出来ない。
「・・・お、お母さんは?」
「もう、いらなくなっちゃったんだ」
カイの両脇に手を入れたカカシは、彼を抱き上げると、サクラに明るい笑みを向ける。
「帰ろうか」いつもはサクラの片手と繋がれている掌が、カイを抱くために使われている。
目線が高くなったことが嬉しかったのか、はしゃいだカイを見つめるカカシの眼差しはサクラの知らない、父親のものだ。
何とかカカシに笑顔を返すことが出来たサクラだが、胸の内では全然別のことを考えていた。
強い強い、目眩がするほどの嫉妬の感情。
呼吸をすることさえ忘れそうだった。
「ふーん、それではたけ親子とはうまくやっているんだ」
「うん。今日も先生の家にカイくんの好きなプリンを作りに行くの。これはお土産」
いのの花屋で立ち話をするサクラは、カイのために作った帽子を見せる。
青い布地にひよこのアップリケがついた幼児用のデザインだ。
「布が余ったから、おそろいで手提げ鞄も作ったのよ」
微笑みを浮かべて語るサクラの顔を、いのはじっと見据えていた。「カイくん、可愛い?」
いのの何気ない問いかけに、サクラから表情が消える。
だが、それも一瞬のことだ。
「もちろんよ。先生にそっくりだし、もっと仲良くなりたいわ」
「・・・あんたさ、嘘をつくとき手で髪をいじる癖があるのよ」
「えっ」
小さく声を上げたサクラは、いのの指差す方へと目をやった。
左手の指に、毛先が絡まっている。
「知ってた?」
困ったように笑うアカデミー時代からの親友は、サクラ自身よりも、彼女のことをよく分かっているようだった。
子供が出来たのはまだサクラに会う前の出来事だ。
サクラは何度も自分の心に言い聞かせようとしたが、どうしても無理だった。
カカシが子供を産ませるほどに愛した女性がいた。
そして、その証が目の前にある。
カイには罪がないと分かっていても、憎くて憎くてたまらない。
子供の存在を最初から知っていたら、カカシを好きにならなかったかもしれない。
だが、全ては遅すぎた。
「サクラ」
柔らかな声音で名前を呼ばれ、抱き寄せられる。
包み込むようなカカシのあたたかさを感じて、カイに抱いていた暗い感情は一時的に消えていった。
カイを憎む気持ち以上に、カカシのことが大切だ。
彼に愛されていたいから、カイを大事にする。
サクラがカイに優しく接することが出来るのは、カカシの愛をつなぎ止めておくための手段の一つだからだ。『もう、いらなくなっちゃったんだ』
カカシの冷たい声が忘れられない。
いつ、自分もカカシにとって「いらない」と思われる存在になるか。
考えただけで身が凍る。
あれ以来、何度「愛してる」と告げられても、それは本当だろうかと疑うようになってしまった。
「ずっとそばにいて」
願いが自然と口から出ると、サクラは夜具の上にいるカカシの唇に自分から吸い付いていく。
体が重ねているときだけは安心できた。
今、一番カカシの身近にいるのは自分なのだと、実感できる。
近頃妙にサクラが積極的になったとは思っていても、カカシはサクラが抱く不安の正体に全く気づいていなかった。
あとがき??
ご、ごめんなさい・・・。カカサクファンには非常につまらない話かと。
昔『るろうに剣心』で、過去に剣心が結婚していた事実を知って愕然とした覚えがあります。(剣×薫好きーでした)
カカシ先生も、あの年齢なら以前に結婚していたりしてもおかしくないなぁ・・・とか思って、こんな話が。
カカサクファンの皆様すみません。
サクラは16歳くらいですよ。