いらないひと 2


「今日はカイくんの好きなオムライスを作るからねー」
「うん」
サクラが微笑みかけると、カイも同じように笑顔になる。
今日はカカシの帰りが遅いため、サクラが代わりに施設までカイを迎えに行った。
最初はもじもじとするだけだったカイも、今ではサクラに懐き、施設であったことを沢山喋るようになっている。
そんなカイを、素直にいとおしいと感じるときもあるのだ。
カイがカカシの子供でなければ、サクラはもっと彼を可愛いと思えていたことだろう。

カカシと同じ、カイの銀色の髪を見つめながら、サクラはぼんやりと考え始めた。
自分は一体、何をしているのか。
カカシとうり二つのカイには憎い女の血も半分流れている。
今まではカカシだけを好きでいれば良かったが、これからはカイのことも同じように好きにならなければいけない。
自分にそれが出来るだろうか。
いっそカイがどこかに消えてしまえば、カカシの笑顔も、大きくて暖かな掌も、全てサクラだけのものになる。
子供の細い首はサクラの小さな手でも簡単に絞めることが出来るはずだ。
他の女が産み落としたものなどいらない。
そして、カカシは誰にも渡さない。

 

「・・・これ」
感情の波に流されつつあったサクラは、ふいに聞こえた声にハッとして顔を上げる。
見ると、カイがサクラに向かって手を差し出していた。
「何?」
「あげる」
サクラが自分の掌を持っていくと、飴玉を一つ渡された。
施設で出される菓子を、サクラに分けるために食べずにポケットに入れて取っておいたようだ。
「有り難う」
反射的に礼を言うと、カイの顔にはゆっくりと笑みが広がってく。
子供らしい、無邪気な笑顔に応えようとして、サクラは何故か泣き出しそうになった。
彼がいらない存在であるはずがない。
本当に必要ないのは、自己中心的な思考しか出来なくなっている、あさましい自分の方に違いなかった。

 

 

 

「もしもしー、サクラ?」
「・・・いの」
夕食の準備をしていたサクラは、受話器を持ちながら何気なくカイの方へと目を向ける。
テーブルの上に画用紙を広げるカイは大人しく絵を描いて遊んでいた。
コンロの火を止めたサクラは部屋の隅に寄り、小さな声で会話を続ける。
「どうしたの」
「あんたに頼まれて調べた、カカシ先生の昔の彼女についてなんだけど、思っていたのとちょっと違う状況みたいよ」
「違う?」
「カカシ先生がふったわけじゃなくて、彼女の方が一方的に子供を置いて出て行っちゃったんだってさ」
「えっ!?」

いのの話によると、彼女は昔木ノ葉隠れの里のくノ一だった。
カカシとの交際が始まって暫くして子供が出来たが、彼女にはカカシの他にも付き合っている男がいたのだ。
そして、子供が生まれるとすぐにカカシ達を捨ててその男のもとへ走ったらしい。
何か商売を始めて裕福な暮らしをしていると聞くが、彼女がカイを訪ねてきたことは今まで一度もないそうだ。
聞けば聞くほどひどい話に、サクラはあきれ返ってしまう。
カカシの「もう、いらなくなっちゃったんだ」の言葉。
あれは彼女に向けられたものではない。
おそらく、彼女がカカシとカイに向かって言ったことなのだ。

 

 

 

 

カカシに隠し子がいることが分かって早一ヶ月、すっかりカイのお迎えはサクラの担当になっている。
この日はいのも一緒で、帰りに3人でお茶をして帰る予定だった。
サクラが戸口に顔を見せると、気づいた職員が友達と走り回って遊んでいるカイを呼びに行く。
「カイくん、お母さんが来たわよー」
手招きと共にカイに投げられたその言葉に、いのだけでなく、サクラも驚いて目を丸くした。
今までは「サクラさん」と名前で呼ばれるだけで、「お母さん」ではなかったはずだ。

「あ、あの・・・・」
「あれ見てください。カイくんとても上手に描いたんですよ」
にっこりと笑った職員が指差した壁を見ると、子供達が描いたと思われる絵が一面に貼られていた。
その中に『はたけカイ』と名前が書かれたものも混じっており、クレヨンで髪をピンク色に塗られた人物らしきものが描かれている。
「今日はみんなに「お母さん」を描くように言ったんです」
職員と会話をしているうちに駆けてきたカイは、勢いよくサクラに飛びついた。
満面の笑みを浮かべて自分を見上げるカイを、サクラはかがみ込んで抱きしめる。

カイを毎日のように迎えに行くことも、手作りのおやつも、全てはカカシに気に入られたいから。
だが、サクラのそうした打算は子供のカイには分からない。
偽りの優しさであっても、いつもそばにいてくれることが、ただ嬉しかったのだ。
そしてカイの笑顔はいつしかサクラの中にあった憎しみを同情に変え、また新たな物へと変化させていた。

 

「サクラ、カイくんって本当に可愛いわよねぇ〜」
「うん」
いつもの癖を出すことなく頷いてみせたサクラに、いのは自分までもらい泣きしそうになってしまった。


あとがき??
カカシ先生の出番が減ってしまった・・・・。(^_^;)
話を考えた当初は、カカシ先生が外道で鬼畜な話だった気がします。全然違う内容になっていますねぇ・・・。
親子三人のおまけSSをつけるつもりが、力尽きました。


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