ランクA


C、E、D、F、E・・・・・・。

 

温泉の湯につかりながら、ぶつぶつとサクラが呟いていたのはただの英語の綴りではない。
サクラの前を通る女性達の、おおよその胸の大きさだ。
それまでとくに意識していなかったが、火の国は胸の豊かな女性が多いという噂は本当だったらしい。
ちらりと視線を落とすと、Aカップにも満たないのではないかと思われる自分の胸がそこに有り、サクラは大きなため息をついた。
医療忍術の師匠である綱手も、昔は平らな胸だったと聞いたことがある。
何か、胸を豊かにする秘術でもあるのかと思ったが、彼女は特別なことはしていないそうだ。
それが医術を学ぼうと思ったきっかけの一つだったというのに、思惑が外れてしまった。

 

「あら、サクラじゃないのー。あんたも来てたのね」
「・・・・いの」
その声ですぐに相手が分かったサクラだったが、振り向いた瞬間、目を見開いたまま硬直する。
湯に入ったいのはサクラの隣まで来たが、それでもサクラは固まったままだ。
「どーしたの?」
「・・・・・」
衝撃が強すぎて、サクラはすぐに答えることが出来ない。
アカデミー時代も、その後も、いのはサクラと張り合うほどのペタンコな胸だったはずだ。
去年、一緒に温泉に来たときもサクラはそれを確認している。
それが、たった一年で見違えるほどいのの胸周りが成長していた。
いのはサクラが俯いている理由に気づかず、きょとんとした顔で彼女を見つめていたが、サクラにしてみればひどい裏切りだ。
いのだけは、自分の仲間でいてくれるとずっと思っていた。

「いのの馬鹿―――――!!!!」
立ち上がって絶叫すると、サクラは持っていたタオルで自分の体を隠して脱衣所に走り去る。
いのだけでなく、周りにいた女性達もぽかんとした顔つきで彼女の後姿を見送った。
「・・・何、あれ」
眉間にしわを寄せたいのは、訳が分からず首を傾げる。
馬鹿と言われたのは面白くないが、それよりもサクラが泣いているようだったのが気になってしまう。
まあ、サクラが落ち着いた頃に電話して話を聞き出せば、大体の事情が分かるはずだった。

 

 

 

「カカシ先生って、もしかして下手なんじゃないの?」
不信感がつのっていたせいか、サクラの声は自然と低くなっていた。
サクラの服を脱がせ、ようやくその肌に触れたばかりだったカカシは、ぴたりとその手を止める。
「・・・・ひとんちのベッドで、そういうこと言うかなぁ」
手元のスイッチで照明を一つ明るくすると、真顔で彼女を向き直る。
「何なの、突然」
「だってさ」
ベッドで半身を起こしたサクラは、自分の平らな胸に両手を当てる。
「私、12の時から3年間ずーーっと先生に触ってもらってるのに、全然大きくならないんだもの。先生の揉み方が悪いんじゃないの?」
「ああ、そっちの方ね。他の誰かと比較してるんだったら、ぶっ殺そうと思ったけど」
優しげな笑みを浮かべながら、カカシの言葉はひどく物騒だ。
「殺すって、私を?」
「相手を」
「・・・・先生さ、自分は結構遊んでるのに、意外と心が狭いわよねぇ」
頬を膨らませたサクラのおでこに、カカシはそっと唇を寄せる。
「サクラは特別だよ。俺の嫁さんになって、子供産んでもらうから、他の種が入ったら駄目なの」
「へー、他の何人の女にそういうこと言ってるのかしら」
「あら、俺って信用ないのね」

すねたような声を出すカカシを気にせず、サクラは腕組みをして考え始めた。
「アスマ先生とかって、上手いのかな。やっぱりカカシ先生と違って大人の男って感じだし、いのの胸が大きくなったのもアスマ先生の揉み方が良かったのかも」
「おいおい・・・・」
サクラが本気なことを察知したカカシは、自分に背を向けて悩む彼女を強引に抱き寄せる。
「サクラはまだ成長期でしょうー。そんなに気にしなくても大丈夫だって。小さくても大きくても、サクラはそのままでいいの。俺がそう決めたの」
「横暴――」
「お望みなら、恐怖政治に切り替えるけど・・・・、そっちの方がいい?」

 

サクラを抱き締める手に力を込めたカカシは、顔から笑いを消す。
他の誰にも奪われないように、どこにも行かないように、閉じ込めたままに出来れば一番いい。
このまま縛り上げてみようかと考えたとき、顔を赤らめたサクラが振り向き、ふと我に返った。
「・・・嘘じゃないでしょうね」
「んー?」
「小さくても・・・、いいって」
小さな声で念を押すサクラに、カカシは思わず破顔する。
「サクラのことが、ずっと一番好きだよ」

照れ笑いを浮かべるサクラに口付けると、彼女も今度は素直に応じてきた。
世間一般の男性が大きな方が好きだと言っても、カカシ一人が小さくても良いと言えば、それが正解なのかもしれない。
カカシの一言であまりにあっさりと解決してしまい、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなる。
再びベッドに身を沈めながら、とりあえず、明日いのに謝ろうと思ったサクラだった。


あとがき??
近頃カカサクサイトらしくないので、軽い読み物を書いてみました。
これぐらいだったら、浦でなくとも平気かと。
いのの胸で衝撃を受けるサクラは、『カルバニア物語』のエキューとタニアの温泉でのエピソードをイメージ。
いやー、今週再登場したいのちゃんが、意外に胸があってショックだったのですよ。サクラとぺたんこコンビでいて欲しかった。


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