ガールフレンド 2
「変なんだ・・・・」
上忍専用控え室でくつろぐ仲間達に、カカシは珍しく深刻な面持ちで言った。
顔を見合わせたアスマと紅は、納得したように頷いて応える。
「それはもう知ってる。なあ」
「ええ。あなたは随分前から変よね。大体、顔を隠している見かけからして怪しいし」
「俺じゃなくて、サクラだよ!!」
思わず席を立って声を荒げたカカシだったが、その勢いは見る見るうちに萎んでいった。
「あんなにいい子だったのに・・・・、誰とどこに行くか言わずに外出するし、5時の門限だって破るようになったし。何より、近頃一緒にお風呂に入ってくれなくなったんだ」カカシは心底落ち込んだ様子で椅子に腰を下ろしたが、アスマと紅は驚きに目を見開いている。
治安の悪化していた何十年か前ならともかく、今時門限が5時なのはいささか早すぎるように思えた。
さらには、カカシはサクラに一緒の入浴まで強要しているらしい。
「サ、サクラっていくつだ」
「12だよ。もうすぐ13になるけど・・・」
「12!!それなら、普通はもっと早く風呂は別々に入るもんなんじゃないのか」
「うちは二人きりの家族だし、他とは違うんだよ。それに、サクラは5歳の時から俺が育てたんだ。仲良くして何が悪い」
アスマは至極真っ当な疑問に、カカシは口を尖らせて反論した。「だからって、なぁ」
「良い機会だから、妹離れしたら」
コーヒーの入ったカップを持っていた紅は、それを一口すすって顔を上げる。
「サクラはずっとあなたと一緒にいるわけじゃないのよ。いつか結婚して家から出ていくんだから。もしかして、帰りが遅いのはもう彼氏が出来たからかもよ」
アスマと紅はそろってカカシを見つめたが、妙な沈黙があとに続いた。
カカシの返答を待つ二人は、怪訝そうに眉を寄せる。「カカシ?」
「そっか・・・・」
狐につままれたような表情で虚空を見ていたカカシは、紅の呼びかけを聞いて、ようやく我に返る。
「兄妹って、ずっと一緒にはいられないんだ・・・・。いつか、離れ離れになるんだな」
ぶつぶつと呟くカカシは、自分自身に言い聞かせるように繰り返す。
まるで、初めて気づいたかのようなカカシの口振りに、アスマと紅は首を傾げて応えるしかなかった。
サクラの家に招かれたいのは、その部屋を見るなり唖然として声が出せなくなった。
物置として使われているのだが、そこにあるのは全てサクラに係わるものだ。
5歳から今まで着た服や靴、玩具等が、下着を除いて全て捨てずに収められている。
家の中のそこかしこにサクラの写真が飾られていることからも、カカシの尋常ではない溺愛ぶりが伝わってきた。「完璧なシスコンだぁ・・・・」
「まあね」
否定することの出来ないサクラは、いのを隣りの客間に行くよう促した。
この家に初めて来た人間は必ず驚く。
カカシが全ての中心と考えていたときのサクラはまるで不思議に思わなかったが、外の世界を知るにつれ、段々とこれが普通でないことが分かってきた。
幼い時分はともかく、兄妹はいつまでも一緒に入浴も就寝もしないものなのだ。
カカシと背中の流し合いが出来なくなったのはサクラとしても寂しいが、それが世間一般の常識ならば従うよりない。「カカシ先生ってば、恋人が出来てもこの家に招待したら絶対逃げられるわね」
「えっ」
「だって、これを見たらサクラのことしか頭にないって感じじゃない。先生って結構男前だし、優秀な上忍なのにもったいない。くノ一の先輩の中にも、結構狙っている人が多いって話よ」
「・・・・・・・」
思いがけないいのの言葉の数々に、サクラはすぐに対応することが出来ず、その場に立ち尽くす。
カカシが客を連れて帰ることは滅多に無く、女性に関しては皆無だったため、すっかり失念していた。
サクラにすれば18禁本を読みふけるだらしのない兄というイメージが強いが、少しばかり欠点があろうとも、優秀な忍びで火影の信任も厚いカカシが女性に人気があるのは当然だ。「どうしたの?」
「ううん」
突然、何かを考え込む仕草をしたサクラは、首を振っていのに応える。
「そっか・・・・」
俯き加減に呟いたサクラの声は、ひどく悲しげな響きを含んでいた。
「兄妹って、ずっと一緒にいられるわけじゃないのよね・・・」
「ただいまーー」
カカシが帰宅すると、家には人の気配がなく、サクラの書き置きがテーブルの上に置かれていた。
どうやらサクラはいのと買い物に出かけたらしい。
時計を見るために首を巡らせたカカシは、ある一点を見つめたまま視線をそらせなくなる。
桜の花びら模様のシールが付いたサクラの手帳が、テーブルの隅に出しっぱなしになっていた。
おそらく荷物の整理をしたときにうっかり置き忘れたのだろう。誰もいないと知りつつ、自然と周りを窺ったカカシは、躊躇いながらも手帳へと手を伸ばした。
それもこれも、近頃サクラが不審な行動を取るのがいけないのだ。
サクラを守るのが家族の義務。
無理矢理自分を納得させたカカシは、ごくりと唾を飲み込んで中を開く。
そこに書かれているのは月ごとの簡単なスケジュールとメモ、友人の住所などだ。
どれもカカシのチェック済みなことばかりで、目新しい情報はない。
ホッとして手帳を元に戻そうとしたとき、間に挟まっていた写真がひらひらと床に落ち、カカシは慌てて拾い上げた。「・・・ん?」
一枚はサクラのアカデミーの入学式にカカシと一緒に撮ったもので、もう一枚は若い男が写ったものだ。
知的な雰囲気の眼鏡の男で、おそらくカカシと年齢はそう変わらない。
裏を確かめると、「秋雄さん」とサクラの筆跡で書かれている。
「秋雄・・・さん」
そのまま口に出して読んでしまったが、どう見ても知らない顔だった。
だが、手帳に挟んで常に持ち歩いているのだから、彼女にとって大切な人間に違いない。
サクラに彼氏が出来たのではないかという、紅の推論が唐突に頭に過ぎり、写真は再びカカシの手を放れて落下していった。
「・・・・・・・・誰、これ」
あとがき??
どこに行こうとしているんですかね、この話は。はて。
深いこと考えないで書いているので、私にも分からない。
元ネタは、またいろんな漫画がごちゃまぜに・・・。観用少女の「蜜月」とか。