掌の中
「絶対変よ」
「そお?」
声を荒げて熱弁するいのに、サクラはのんびりとした返事を返す。
「普通じゃないわよ。どーして分からないのよ」
「だって、昔はイルカ先生ともよくやってたじゃない」
「昔は昔よ。今はもうそんな子供じゃないでしょー」
熱心ないのとは違い、サクラは視線をさ迷わせながらおざなりに答えている。
いのはまだぶつぶつと小言を言っていたが、自分の言葉が丸っきりサクラの耳を素通りしていると悟ると、大きく溜め息をついた。「あ、いた」
瞳を輝かせたサクラは、それまで目で捜していた人物の元へと走り出そうとする。
そのサクラの手を、いのは思わず掴んでいた。
「ねぇ」
いのの呼びかけに、出鼻をくじかれたサクラは多少迷惑そうな顔で振り返る。
すると神妙な顔つきのいのが、心配そうにサクラを見詰めていた。
「本当に付き合ってるわけじゃないのよね」
「違うよ。ただの先生だよ」
サクラは可笑しそうに笑って答えた。
「カカシ先生―。いのがね、変だっていうのよ」
「何が」
「普通は先生とこうして手を繋いで帰ったり、べたべたくっついたりしないんだって」
サクラは繋がれた手を大きく振ってカカシを見上げる。
「それはいのちゃん達の方が変なんだよ」
「そうよね」
微笑するカカシに、サクラも安心したように笑う。
昨日サクラがカカシと並んで帰る場面を見咎めたいのは、今日さっそくサクラに詰め寄ったのだ。
「あんたサスケくんのこと諦めたの?」
「別に諦めてないよ」
「だって、あの上忍の先生と手繋いで帰ってたじゃない」
いのの言葉に、サクラは訝しげな表情をした。
「先生なんだから、当然でしょ」
眉を寄せるサクラを、いのはまるで奇異なものを見るような目つきで見た。その瞬間。
何故かサクラは落ち着かない気持ちになった。
自分は何か、大きな間違いをしているような。
心に大きな穴が開いたようで、胸が苦しくなる。
これが不安と呼ばれるものだと気付いた時、サクラは自然、カカシの姿を捜していた。
どうしてなのかはサクラにも分からない。そしてサクラの不安は、たった今、カカシがいのの言葉を否定してくれたことですっかり取り除かれる。
何が不安だったのか、原因を探ることを忘れ、不安を感じた事実すら忘れる。
サクラの心は再び安定した場所に戻っていった。
「カカシ先生、今日はケーキ買ってくれるって言ったよね」
「うん」
さっそくケーキ屋へ向かうサクラに手を引かれてカカシも店先に歩き出す。
甘いものが苦手なカカシに変わり、サクラはガラスケースの中のケーキをあれもこれもと次々にチョイスしていった。
「おいおい、そんなに沢山買っても食べきれないだろ」
カカシはあきれたような声を出した。
「いいよ。また明日も先生の家に行くから」
こう言われるとカカシには反論ができなくなる。
黙りこんだカカシに、サクラは嬉しそうに微笑んで言った。
「楽しいね」カカシの心配は無用だったようで、カカシの家にたどり着いたサクラはすでに3個目のケーキに手を伸ばしている。
「太るぞー。大丈夫なのか」
「いいもん。今日は夕飯抜かすから」
からかうようなカカシの声を気にせず、サクラはせっせとケーキを口に運ぶ。だが、カカシの予感は的中し、暫くしてケーキを食べ終えたサクラは胸焼け気味で青ざめていた。
「苦しいー」
「馬鹿だなぁ」
机に突っ伏したサクラに、向かいの席にいるカカシは苦笑する。
反論する気力のないサクラは、お腹をさすりながら軽くカカシを睨んだ。そのサクラの恨みがましい視線を全く気にせず、カカシは彼女を凝視して言った。
「サクラ、口の横、クリームついてるぞ」
「え」
サクラは手で口の周りを拭ったが、よく分からない。
カカシがあれこれ支持するが、どうも取れていないようだ。
業を煮やしたサクラが鏡のある場所に向かおうとすると、同じく立ち上がったカカシが彼女の腕を掴んでその顔を覗き見た。
「ここだよ」
言葉と同時に、その唇に舌を這わせる。一瞬の出来事。
何が起きたのか分からず呆然とするサクラに、カカシはにっこりと笑顔を返す。
「ほら、綺麗になった」
「・・・・有難う」
サクラは素直に礼を言いながらも、今のは何か違ったものだったような、と首を傾げた。
だが当のカカシが何も言わないのだから、自分からは言い出しにくい。
困惑するサクラに気付かれないよう、彼女に背を向けたカカシは含み笑いをもらした。「サクラ、気分悪いならそっちの部屋で少し横になってたら」
後ろ向きのまま、カカシは寝室を指差して何気なく言う。
まだ青白い顔をしているサクラは、その言葉に素直に頷いた。
「うーん、そうする」
多少よろつきながらも、サクラは真っ直ぐに隣りの部屋へと歩き出した。
「さて」
サクラの後ろ姿を横目で見送ったカカシは、窓際に足を向ける。
見ると、いつの間にか雨が降り出していた。
この家についた時すでに日が傾きかけていたこともあり、外はもう真っ暗だ。
「あのいのって子・・・邪魔だなぁ」
サクラと話していた時とは全く異なった陰鬱な表情をしたカカシが、窓の外を眺めながらぽつりともらす。せっかく少しずつ言い含めて納得させてきたのに、いののおかげで水の泡になるところだった。
単純なサクラを洗脳することなんて簡単だったけれど。教師と生徒だから当然のことだと暗示をかける。
段々と、不自然な出来事を自然と感じるようになったサクラ。最初は手を繋ぐところから。
次は身体に触れること。
次は自宅に招き入れること。最後は?
「もう決ってるよねぇ」
カカシは嬉々とした表情でカーテンを閉めた。
より一層降りを強めた雨音で室内の音は全てかき消され、ただ暗い闇だけが辺りを支配していた。
あとがき??
表用に書いてたのだが。あれ?
明るいんだか暗いんだかよく分からなくなったので、とことん暗くしちゃおうかなぁと思った話。
けど、結局よく分からない話になってしまった。ハハハ。(笑ってごまかそう)
テーマ曲はスピッツの「スパイダー」ですわ。あのシーンは『悪魔のオロロン』のパクリ。
あれやりたいがために、ケーキ買わせました。(笑)
関係ないけど、オロロンの最終回は、私、納得してませんよ。
不幸で不幸で、究極のどん底の人生を送ってきてオロロンが死んで終わりの最終回なんて!
救いなさすぎ!!
オロロンってワンピのサンジさんとイメージだぶる。スーツのせい?えーと、この続きは何故かハッピーエンドな感じ。あれれ?
というか、エ○含む・・・かと。詳しい描写はないですが。読み取ってね。(^_^;)
いつかアップするかと。