合コン
合コン、それは若い男女が交流するための集まりだ。
主婦で、しかも小桜という子供までいるサクラには何の関係もない単語に思える。
頭数合わせに呼び出されたサクラは、もちろん結婚していることは伏せて、初対面の男性達に挨拶をした。
カカシには古い友人に会うとだけ言ってある。
本当は嘘をついてまで夜の町になど行きたくなかったのだが、どうしてもと頼まれては仕方がない。
つい情に流されて参加したことを、後々死ぬほど後悔するとは、サクラは思いもしなかった。
目が覚めて最初に思ったのは、「先生が心配している」ということ。
その日のうちに帰ると言ったのに、朝の日差しが顔に当たっている。
酒を飲んでカラオケを歌ったところで、サクラの昨夜の記憶は途切れていた。
「・・・・どこ、ここ」
居場所を把握するために寝ぼけ眼で周りを見回したサクラは、冷水を浴びせられたようなショックを受ける。
どぎつい装飾をされた部屋に、円形のベッド。
見たところどう考えてもいかがわしい宿、しかも隣りに人の気配がして、自分は服を着ていない。慌てふためいてベッドから出ようとしたサクラは、そのまま派手に床に尻餅をついた。
その振動で瞳を開けた青年は、サクラと目が合うなり、にっこりと笑う。
「おはよう」
「・・・・お、おはようございます」
確か、彼は合コンの席でサクラにしきりに話しかけていた青年だ。
サクラはなるべく彼の話を受け流していたのだが、結局はこういうことになってしまった。
パニック状態のサクラは、彼の力でベッドに引き上げられてようやく我に返る。
「また、会ってくれる?」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!!!」
彼の手を払ったサクラは、近くにあった枕で体を隠しながら頭を下げた。
「私、夫と子供がいるの!だから、なかったことにして!!」
「・・・・」
サクラの突然の告白に、青年は目を見開く。
まだ十代で、学生だと紹介されたサクラが実は子持ちだとは、心底意外だったのだろう。
おずおずと顔を上げたサクラは、笑顔のままの青年を見て、逆に驚かされる。「旦那がいてもいいよ。これからも会ってよ」
「ええ!?」
「サクラのこと気に入っちゃったんだ。離婚して欲しいなんて言わないから、携帯の番号教えて」
「・・・・そんな」
自分の瞳を見据えながら言う青年に、サクラの困惑は増すばかりだ。
一見して、さわやかな印象を持つ彼は、サクラの好みのタイプと言えなくもない。
だが、家族に隠して彼と関係を続けるなど、全く考えられなかった。
「・・・それは出来ないわ」
「何で?」
「主人と子供が大事だから」
きっぱりと言い切ったサクラだったが、その返答を耳にするなり、彼の表情が一変する。
手首を強い力で握られたサクラは悲鳴をあげたが、怒気を孕んだ彼の瞳が恐ろしく、抵抗できなかった。
「じゃあ、何であんな集まりに来るわけ?しかも、嘘までついて」
「・・・それは」
「諦めないよ。今日のことを旦那や知り合いにばらして、あんたの家をめちゃくちゃにしてやる!!そうすればサクラは俺の方を見てくれるだろ」
凄味のある声は、彼が本気であることを表している。
彼の言う通りだ。
愛情が強い分、サクラの浮気をカカシは絶対に許さない。カカシや小桜が自分のそばからいなくなる。
想像しただけで、瞳から涙が零れた。
サクラにとって何より大切な、絶対に失えないものだ。
ぼろぼろと涙を流し続けるサクラを見つめる青年は、ふいに表情を和らげて、彼女の頭に手を置く。
「サクラ、反省した?」
穏やかな口調で言われ、サクラは息を呑む。
見ると、そこにいるのはサクラが一夜を共にした青年ではなく、大事な夫であるカカシだ。
狐に摘まれたような気持ちのサクラは、頬に残る涙を拭くことも忘れてカカシの顔を凝視する。
「ごめんね。脅かしすぎた」
「・・・何で」
「サクラの携帯に合コンの誘いのメールなんか来てたから驚いてね。それで、参加者の男を一人拉致して変化の術でそいつになりすましたの。小桜はナルトのところに預かってもらってるから大丈夫だよ」
「・・・・」瞬きも忘れて放心するサクラの額に、カカシがキスをする。
めまぐるしい展開に、サクラの頭はついていけない。
ただ、彼とこれからもずっと一緒にいられるということだけは分かった。「怒った?」
顔を覗き込みながら訊ねるカカシに、サクラは再び涙が止まらなくなる。
気付いたときには、居ても立ってもいられず彼の胸に飛び込んでいた。
「よかったよぅ・・・」
あとがき??
カカシ先生の浮気話をweb拍手おまけSS(122番『浮気!!?』)でやったので、サクラ版も書こうと思った。
おまけSSのつもりで書いていたのに、長くなったのでこっちに移す。
あの、のっけからあんな場面で心配された方、すみません。
ファミリーシリーズだと先生もサクラも浮気できないようになっています。
入れ替わるため、カカシ先生に拉致された妻夫木くん似の可愛い青年(超いらぬ設定)はどうなったんだろう・・・。
それより、サクラの携帯を無断でチェックしているカカシ先生の方が問題か。