鬼の住処


彼の話。

サクラから別れようって言われた時は、本当に冗談かと思ったんだ。
ちょっとした笑い話のすぐ後に言われた言葉だったから。
でも、思い当たる事は確かにあった。

「あの娘とは何でもないんだよ」
言い繕うわけではないけれど、これは事実だ。
彼女の事は可愛いと思うけれど、サクラとは比べる対象にすらならない。
だけれど、サクラはやっぱり誤解しているのだろうか。

「そう。でも、私はカカシ先生とこのまま一緒にはいられないわ」
もう何を言っても無駄だと言うように、サクラは振り向いてくれなかった。
「どうして」
そして、自分の心からの疑問は、彼女に一笑にふされる。
それがとても寂しげなものに見えたのは、自分の自惚れだろうか。

「さよなら」

 

彼女の話。

「何で別れちゃったの」
ナルトの突然の問い掛けに、私は心底驚いた。
ナルトは私達が付き合っていることすら知らないと思っていたから。

「知ってたんだ」
苦笑混じりに呟く。
最初は何て言って誤魔化そうと思ったけど、自分を見詰めるナルトの眼があまりに真剣だったから、つい心情をそのまま吐露してしまった。
「怖かったの」
「何が」
続く質問に、私は少し笑って答える。
「私が」
ナルトは意味がわからないという顔をして私を見た。

「最初はね、カカシ先生のこと何とも思ってなかったんだ」
付き合ってくれと言われたから、その通りにした。
特別好きじゃなかったけれど、嫌いでもなかったから。
ただ、上忍の先生という物珍しさが理由だったのかもしれない。

ある日、街で見かけたカカシ先生は一人じゃなかった。
同性の私の目から見ても、可愛らしいという表現がぴったりの女の人と一緒だった。
そしてカカシ先生は自分といる時と同じように笑っていた。
優しい笑顔。
ただ、それだけの事なのに、胸が痛くて死にそうな気持ちになった。
初めて感じる、強い嫉妬。

カカシ先生とその女の人を見た瞬間から、私の心に鬼が住みだした。

今までの私はカカシ先生に愛されていることで満足していた。
カカシ先生のことをよく知ろうともしなかった。
そして、その幸せはずっと続くものと思っていた。
何て怠慢な自分。

「嫌だったのよ。他の人に心を許したカカシ先生を、許せなかった自分が」
怖かった。
自分の中に、これほど醜くて激しい感情があるということが。
だから、カカシ先生を手放した。
そうすれば、もとの清らかな心に戻れると思った。
なのに、私は今、どうしてこんなに殺伐とした気持ちを抱えているのだろう。

「ナルトには、分からないよね」

 

第三者だった彼の話。

分からない?
とんでもないよ。
君の言った心の鬼は、随分昔から自分の心にも寄生している、慣れ親しんだ存在。

「不思議ね。ナルトは私が辛い時いつも側にいてくれる」
全然不思議なことじゃないんだよ。
だって、自分はいつだって君を見ていたから。
君のその無防備な心に入り込めるように。

彼女は微笑みを浮かべて言った。
「ナルトといると、何だか安心する」
君があまりに愛らしく笑うものだから、自分もつられて笑った。
俺の事をいい人だと思い違いをしている君を、可哀相に思いながら。

心の鬼が叫んでる。
今がチャンスだ。
早く君を手に入れろって。


あとがき??
何なんだろう。暗い部屋の置くべきものなのか、表に置くものなのか。
中間な感じなので、暗い部屋に置きます。

リクエストのカカサクナル話を考えてる時に浮かんだ話。
全然ラブコメにならなかったのでボツになった。ナルサクカカだし。
しかし、もったいないので書いてみた。所要時間1時間。(笑)


暗い部屋に戻る