楽になりたいと願うほどに辛くなる

 

 

「殺してやるよ。お前じゃない。お前の大事な人間を、一人ずつ順番にだ」

 

呪いの言葉はカカシの心に深い闇を作っている。
火影の命令により始末した同胞が、口から血の泡を噴きながら言ったことだ。
10年以上昔のことなのに、どうしても忘れられない。
死にゆく者の戯れ言と一笑出来なかったのは、彼の瞳に宿った鬼気迫る力のせいではなかった。

密告により裏切りが判明した彼は、実は潔白だったことが数日後に判明したのだ。
他の国に木ノ葉隠れの機密情報を流していたのは、彼ではなく、その上司の上忍だった。
後々火影自ら彼の家族に謝罪に行ったが、すげなく門前払いをされたらしい。
身内を無実の罪で失ったと知れば当然の対応だろうか。
一番不憫なのは、数日前に彼と入籍したばかりだった新妻の存在だ。
英雄の石碑に名前が刻まれても、彼が戻ってくることはなかった。

 

 

 

「カカシー、お前、女の子と一緒に暮らし始めたんだってな。可愛いのか?」
言葉と同時に背中を叩かれたカカシは、口にふくんだばかりの水を噴き出しそうになる。
恨みがましい眼差しで振り返ると、にこにこ顔で立っていたのは暗部時代から付き合いのあるクウヤだ。
暫く任務で里を留守にしていたのだが、久しぶりに戻ってきたらしい。
「サクラは、そんなんじゃないよ。少しの間預かってるだけで・・・」
「サクラちゃんっていうのか!会わせてくれよ。楽しみだなー」
「・・・・」
昔から、あまり人の話を聞かない癖のあるクウヤを、カカシは半眼で見据える。
「クウヤ、あのな・・・」
「俺は嬉しいんだよ、カカシ」
満面の笑みを浮かべていたクウヤの顔が、ふいに愁いを帯びたものへと変わった。
「お前、昔から自分の家には女を入れなかったし、どんな美人が相手でも長続きしなかっただろう。友達付き合いだってこっちが連絡を取らないと梨の礫だし、心配してたんだ。ようやく気の許せる人間が出来たんだな」

気の置けない友人なら、お前もそうだと言おうとして、カカシは口をつぐんだ。
誰かと親しく会話をするたびに、脳裏を過ぎるのは昔聞いた死の宣告だった。
カカシが自分の意志で彼を殺めたのではない。
だが、間違った人間の命を奪ったという事実は変わらないのだ。
過ちを共有すべき当時の火影が死んだ今となっては、カカシの罪は一層彼の肩に重くのしかかっているようだった。

 

 

あとがき??
オリキャラのクウヤさんは、前に書いたSSにも出てきています。
キャラの性格違いますが。

 

 

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