全ては君が望むままに
「・・・っんん・・・」
目が覚めて、最初に視界に入ったのは真っ青な青空だった。
上手く頭が回らず、ぼんやりと空を見上げていると、前方で人の動く気配がする。
「あ、起きたー?」
続いて顔を覗き込んだ人間もまた、よく似た色合いの青い瞳の持ち主だ。
顔をしかめて半身を起こしたサクラは、自分が街道を行く荷馬車で横になっていたことを知った。
周りの風景からすると、木ノ葉隠れの里から随分と離れた場所を移動しているらしい。「・・・・ちゃんと殺せって言ったでしょう」
「冗談。サクラちゃんの願いだったら何でもするけど、サクラちゃんを殺すことだけは俺には無理だよ」
「・・・・」
頬を膨らませたサクラは、ナルトから目をそらして横を向く。
全てを話して協力を約束したというのに、最期の最期でとんだ裏切りだ。
しかも気づかぬうちにここまで遠くに来てしまったら、戻って修正することも出来ない。
「大丈夫だよ。サクラちゃんにそっくりな顔した死体に細工して置いてきたから。ばれてもカカシ先生がすごくショックを受けたことにかわりはないし」
「・・・先生、どんな感じだった?」
「壊れてた」
死んだ男の子供を身ごもっていた女は、彼の実家から追い出されたときに途方に暮れた。
天涯孤独の彼女には他に頼るべき者がなく、大きな腹を抱えて仕事をすることも無理だ。
見かねた知り合いが持ってきた縁談話にのる以外、母子が生きていく手段はなかった。
たとえそれがどんなに意にそぐわない相手だったとしても。やがて産まれた娘は母の死に立ち会い、不幸の原因を作った人間への憎悪を燃やして生き抜いてきた。
血の滲むような努力の末にアカデミーでもトップクラスの成績を維持し、下忍になり、木ノ葉隠れの忍びしか入ることが許されない保管室で過去の資料を読みあさる。
父を殺した相手が自分の身近にいる人物だったことに少なからず驚いたが、それでも憎む気持ちは変わらなかった。
火影付きの仕事をしていれば木ノ葉の内情にも自然と詳しくなり、あとは手足となって動いてくれる賛同者に指示を出すだけだ。
不幸な身の上を話せば、仇の男は何の疑いもなく自分の懐へと彼女を招き入れた。
抜き身の刃を抱くことになるとは知らずに。
本人を殺すよりも、周りの人間を殺した方が効果的だと思ったその考えが、奇しくも彼女の父親と同じ発想だとはサクラも知らなかった。
「ついでにサクラちゃんのパパ親父もやっつけておいたから」
聞き慣れない単語に首を傾げたが、継母の父親バージョンのつもりなのだろう。
「そう・・・・」
「山を下りたあたりでヒッチハイクしたんだけど、この馬車って海の方まで荷物を運ぶらしいよ。お互い木ノ葉じゃ死んだことになってるし、これからは二人で楽しく逃亡生活をエンジョイしようねーv」
口数の少ないサクラを気遣ったのか、わざと明るい口調で話しかけたナルトだったが、彼女はまるで答えない。
顔から笑みを消したナルトは、懐から出したハンカチをサクラに手渡した。
「サクラちゃんが泣くなら、誰も殺したりしなかったのに」
「・・・・うん、ごめん」
知らずに溢れてきた涙を、サクラはハンカチで必死に拭う。
これが何のための涙なのか、サクラ自身にもよく分からなかったが、なかなか収まってくれなかった。
自分の肩を抱くナルトに、サクラは素直に体を預けている。「サクラちゃんさ、本当はカカシ先生のこと好きだったんでしょう」
「・・・・・」
ナルトの問いかけにサクラは沈黙で答え、荷馬車は青空の下、真っ直ぐな道を進んでいく。
心に出来た大きな穴は、きっと他の誰にも埋められない。
もし時計を巻き戻して、カカシと出会った頃まで時間をさかのぼれたなら、やはり自分は復讐という道を選んだだろうか。
結果を知っている今となっては、いくら考えてもサクラはその答えを見つけることは出来なかった。
あとがき??
『M:i:V』を見ているときに考えた話ですが、内容は全然関係ないです。
サスケの存在は忘れておいてください。
ちなみに、冒頭のモノローグはカカシ先生ではなくナルトの気持ちでした。
原作では「サスケサスケサスケ」ですが、うちのナルトはサクラに盲目の愛を捧げている設定です。
もしかしたら、この後全てのからくりに気づいたカカシ先生がサクラを追う展開ってのも有りかもしれません。
そんなこんなで終劇。正式なタイトルは『愛するあなたに永遠の孤独を』。
結局、孤独をもらっちゃったのは、サクラのような気がします。