改・さくさく


長期任務で菜の国に行っていたカカシが、今夜帰ってくる。
知らせを聞いたサクラは、仕事を早めに切り上げ、沢山の食材を買って彼の家へと向かった。
合い鍵はサクラの手元にあり、留守中は窓を開けて部屋に風を入れることを約束している。
疲れて帰ってきた彼に手料理を振る舞い、少しでも早く疲れを取ってもらいたかった。

 

「・・・・あれ」
家の外から二階の窓を見ると、微かに明かりが漏れている。
予定よりも早く帰ってきたらしく、サクラは慌てて階段を駆け上がった。
扉の前で深呼吸し、チャイムを鳴らすと中からはすぐに人の歩く音が聞こえてくる。
「カカシ先生、お帰りなさいーーー・・・・・・・あれ?」
言葉と共に飛びつこうとしたサクラは、寸でのところで動きを止めた。
そこは確かにカカシの家なのだが、出てきたのは彼ではなく、見覚えのない若い男だ。

「誰?」
先に訊ねられてしまったサクラは、その人物の身なりを改めて見返した。
白い髪にどこか寝ぼけたような眼差し、そして声がカカシによく似ている。
髪が長く、年齢は彼よりは少し上だが、顔に傷があればうり二つといった容貌だ。
「あ、あの、私、カカシ先生の生徒で春野サクラっていいます。もしかして、先生のお兄さんですか?」
サクラがおずおずと訊ねると、少しの間を空けて、彼はにっこりと微笑む。
「当たり。ま、上がってよ。カカシの大事な生徒さんを立たせたままにしておけないし」
「えっ・・・あの」
戸惑うサクラに構わず、彼は腕を掴んで家の中へと引っ張り込んだ。
顔をしかめたサクラは強引な人だと思ったが、カカシの兄となるとむやみに非難するわけにもいかない。

 

 

「サクモ」と名乗った彼はここ何年か里を離れていたらしく、今日は久しぶりにカカシに会いに来たようだ。
カカシから兄のことなど聞いたことがなかったサクラだが、サクモが荷物から出してきた写真には、確かに幼い日のカカシが写っている。
母親に抱かれて写るカカシはカメラに向かってVサインをしており、サクラは思わず顔を綻ばせた。
当たり前のことなのだが、彼にも自分より小さな時があったのかと思ってしまう。
しかし、気になったのはカカシと共に写る桃色の髪をした母親だ。
「綺麗なお母様ですね」
「でしょうー」
えへへっと笑うサクモに、サクラは怪訝そうな顔で続けた。
「でも、随分お若く見えるんですけど、このときいくつくらいだったんですか?」
「あっ!!!!」

突然大声をあげたサクモにサクラは体をびくつかせ、彼はその隙に写真をかすめ取った。
「お湯沸かそうと思って、火を付けっぱなしだったよー。危ない危ない」
「はぁ」
「お茶入れるから、そこに座っていて。TV、好きなの見ていいよ」
傍らにあるTVのスイッチを押すと、サクモはそそくさとキッチンに向かって歩いていく。
話を誤魔化されたようで妙な気持ちのサクラだったが、暫くTVを眺めているうちに忘れてしまった。
時計を見ると、すでに7時を過ぎている。
カカシのための料理を作るという当初の目的を思い出したサクラは、置きっぱなしになっていた買い物袋を抱え、サクモに続いてキッチンへと向かった。

 

 

「サクラは料理が上手いねー。いいお嫁さんになるよ」
「有り難うございます」
思いがけぬ人物の登場で、カカシのためにと買った食材は殆どがサクモの胃袋に収まってしまった。
だが、彼はカカシの兄、しかも久しぶりに弟に会いに遠いところからやってきたのだ。
今日だけは特別ということで、カカシが帰ってきたらお茶漬けで我慢してもらおうとサクラは一人で納得する。
それにしても、カカシは随分と帰りが遅い。

「今日は帰ってこないんでしょうか・・・・」
洗い物を終え、茶を運んできたサクラはサクモに促されて彼の隣りに腰掛ける。
クッションを敷いていつもカカシと並んで座る場所、よく似た顔とはいえ別の人間が傍らにいるのが不思議な気持ちだ。
ふと気づくと、TV画面を見ていると思っていたサクモが、真っ直ぐにサクラを見つめていた。
「・・・な、何ですか」
「カカシとは、本当にただの教師と生徒の間柄なのかなぁと思って。料理を作りに来るなんて、普通じゃないでしょう」
「え、ええと・・・」
「ずばり、恋人同士なの?」
視線を泳がせたサクラに、サクモは少しづつ詰め寄った。
周りには内緒にしていたが、サクモの言ったことは真実だ。
同じ職場での恋愛は禁止されているとはいえ、彼はカカシの兄、弟の不利になることを言いふらすはずがない。

「はい。あの、3ヶ月ほど前からお付き合いを・・・・・」
「そっかー、良かったーー。じゃあ、遠慮はいらないねー」
「は?」
満面の笑みを浮かべたサクモを見た瞬間、急にサクラの視界が真横にぶれた。
背中に床の硬さを感じ、サクモの顔ごしに天井を確認したサクラはようやく自分が押し倒されたのだと理解した。
「えっええーー、ちょ、ちょっと、何するんですか!やめて」
「昔からカカシの物は俺の物って決まってるの。だから、サクラも俺の物」
「ギャーーー!!いやーーーー!!!」
スカートから手を差し入れられたサクラは絶叫したが、気が動転して上手く頭が回らない。
カカシと交際しているとはいえ、まだキス止まりの清い関係だ。
自分の身に何が起きているのか、茫然自失のサクラには全く把握出来なかった。

 

 

 

帰宅早々、カカシは気を失うかと思った。
その扉が開いたとき、まず目に飛び込んできたのが、下着姿に剥かれているサクラとその上にのしかかっているサクモ。
後方に倒れかかったものの、何とか踏ん張ったカカシは、前傾姿勢でサクモに向かっていく。
「パパーーーーー、何やってるわけ!!!」
「あ、カカシ、お帰り。もうちょっと待ってくれたら、すぐ済むから」
「済んじゃいけないんだっての!!それは俺のなの!!!」
サクラの体の上からサクモをどかすと、カカシは放心状態の彼女を何とか引き寄せる。
多少あちこち触られたようだが、肝心なところは無事だったらしい。

「せ、先生・・・・」
「おー、よしよし。怖かったねぇ。こんなケダモノに襲われて」
「何言ってるんだ。俺は優しく丁寧にやってたぞ」
「そういう問題じゃないっての。息子の恋人を横取りするの、いい加減止めてくれよ」
サクモに向かってがなり立てると、カカシは腕の中のサクラをしっかりと抱きしめる。
「パパって・・・・お兄さんじゃ」
「あー、また兄って嘘ついたのか」
サクラの呟きを聞いたカカシは、目を細めてサクモを睨む。
「これは俺の父のサクモ。母親が病気で死んでから、俺が当時付き合ってた女の子と再婚したんだけど、浮気が原因で別れて里に戻ってきたんだ。もう39歳のおっさんだよ」

ため息をついたカカシの言葉に、サクラは目を見開いた。
サクモはどう見ても30前後の若々しさで、カカシと並べば兄弟としか思えない。
しかも、カカシとの年齢差は10数年しかなかった。
この後カカシが語ったところによると、彼は父が13歳、母親が15歳のときに出来た子供だったらしい。
幼なじみとして育った二人だが母親は裕福な家の娘で、16歳で他家に嫁ぐことが昔から決まっていた。
それに抵抗した結果、誕生したのがカカシというわけだ。
腹に子がいる娘をよそにやるわけにいかず、サクモの成人を待って、両親は渋々結婚を許したという話だった。

 

「あの頃は俺もまだ子供だったからねぇ。忍びとしての収入も少なかったし、結婚を阻止するにはああするしかなかったのよ。妻の方はあまり乗り気じゃなかったんだけど」
「・・・・はぁ」
子供は妊娠を画策などしないと思うのだが、サクモの話を聞くサクラは一応頷いておいた。
「サクラ、君は俺が恋をした頃の妻にうり二つだ。是非はたけ家の嫁として・・・・」
「俺の嫁だから!!パパの嫁じゃないから!!!」
断定的に宣言すると、カカシは手を伸ばしたサクモからサクラを強引に遠ざける。
カカシに抱きしめられるサクラは、先程からどうにも複雑な心境だった。

サクモに襲われかけたことは、未遂だったのだからまだ許せる。
カカシの両親のなれそめも衝撃的だったが、そうした夫婦もいるのだと呑み込める。
だが、いい年をしたカカシがサクモを「パパ」と呼ぶことだけは、違和感がありすぎてなかなか受け入れられそうになかった。


あとがき??
サクモパパ生存のパラレル話。
サクモさんを「パパ」と呼ぶカカシ先生を書きたかっただけです。何だか長くなりました。
以前もサクモパパ+カカサクを書いたけれど、それとは別の話です。


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